超域研究分野とは

 超域社会研究分野は、主として社会心理学、社会/文化人類学、政治学、環境と社会から構成され、環境・社会・政治・人間行動を人文・社会・自然科学横断的に探究していくユニットです。このユニットには、社会心理学、社会/文化人類学、政治学、社会地理学、あるいは理科の研究室に所属する教員がいて、大学院生の指導にあたります。研究のテーマもアプローチも多彩ですが、建設的な議論を通じて相互に啓発し合っています。

社会心理学

 超域社会研究分野の社会心理学は「心理的分野」と「マスコミュニケーション分野」の2つに分けられます。

●心理的分野
 心理的分野の社会心理学では、心理学的アプローチによる社会的認知研究を実施しています。私たちは社会の中で、他者とやりとりしながらさまざまに行動していますが、その背後には自己や他者に関する認識の社会的プロセスを想定することができます。そうした社会的認知の助けを借りながら、他者の特徴やこころの状態を読み取ったり、自己や他者の将来の行動やその結末を予想したりしています。この社会的認知のあり方と、それが思考、感情、行動へ与える影響を、主として実験的手法を用いて実証的に研究していきます。
 社会的認知のなかでも、とりわけ焦点を当てているのが、集団に所属することにかかわる研究です。自己や他者が所属する集団の性質によって、どのように自己や他者についての考え方や感じ方が異なっているかを、実験や調査によって検証しています。たとえば、ある集団の成員がとった違反行動に対して、同じ集団内の別の成員が罪悪感を持ったり、責任を問われたりするのはどのような場合か、また複数の集団に属することが自己の精神健康にどのような影響を与えるかといった、幅広い研究が行われています。
 さらにこの分野では、こころの社会的プロセスとして、こころの文化的差異にかかわる研究(文化心理学)にも焦点を置いています。こころの文化的基盤にかかわる経験的、理論的な考察・検討を進め、個々の具体的テーマ、たとえば、感情と認知をめぐる文化的差異とその健康への含意、心理過程に対する文化と社会的階層構造の多元的影響、文化間相互作用の効果、といったテーマについて、多岐にわたる文化心理学研究プロジェクトがあります。このような文化の影響過程について、質問紙、行動指標、生理指標といった様々な指標を用いた調査や実験が行われています。
 なお、仮説的構成概念である「こころ」を探求するための論理(実験に関する方法論)、「こころ」に関する仮説を生み出すための理論的知識、そして実験研究を実施して成果をまとめた経験がないと、大学院で研究活動を続けていくことは困難です。とりわけデータをもとにした実証的な分析を行うためには、数学や統計的手法といった基礎的能力とトレーニングが不可欠です。また、心理学的アプローチによる社会心理学研究は特に北米において精力的に行われており、その最先端を知るためには英語論文を読むことが重要です。Journal of Personality and Social Psychologyといった専門的な学術雑誌の論文が読める英語読解力をつけていく必要があります。さらに、社会心理学の他の分野、超域社会研究分野、さらには社会学研究科の多彩な学問分野を学ぶことを通じて、人間と社会・文化に対する幅広い視点を身につけるのも大事なことです。他の研究科も含め一橋大学の各所で行なわれている社会心理学の応用領域的研究にも広く関心をもっていただきたいと思います。

●マスコミュニケーション分野
 マスコミュニケーション分野の社会心理学では、主として実証的なアプローチによるメディアコミュニケーション研究をおこなっています。「マスコミュニケーション」という名称が見出しにはついていますが、研究の対象はマスコミュニケーションに限られることなく、メディアコミュニケーション一般へと広がっています。メディアなしの生活を考えることができないほど、メディアはわれわれの生活に浸透しています。ただ、メディアがわれわれの生活に与える影響やその過程について実証的な研究が十分に積み重ねられているかというとそうでもありません。このようなメディアの影響過程について世論調査、実験、内容分析といった手法を用いて研究を進めています。
 メディアコミュニケーションに対して、社会心理学に基づいた実証的アプローチをおこなうためには、メディアコミュニケーション自体に関する基本的な知識だけではなく、世論調査、実験、内容分析といった方法論についても基礎的な知識をもっておくとよいでしょう。近年では、これらのうち一つだけでなく、複数の手法を組み合わせた研究も増えてきています。研究のテーマに応じて適切な手法を適用するためには、複数の手法を身につけることが必要となってきます。また、収集したデータを分析するための統計学やコンピュータの知識も必要となります。さらに、この分野で最先端の研究を知るためには、英語の論文に接することも欠かせません。
 このコースの参加者には、常に変化を続けているメディアや社会の状況に対処できる旺盛な好奇心と意欲が必要です。また、一方でデータの収集や処理に関わる地道な努力にも耐えうる根気強さも求められます。

社会人類学

●人類学の学問上の性格
 人類学を特色づけるのは、具体の研究対象への強いこだわりです。人類学はどんな対象でも理論でも受け入れます。たとえば、対象は人間でなくモノ、現在でなく過去にまつわる事象でも結構ですし、理論が社会学や哲学や科学技術論にかぎりなく近くても問題ありません。寛容を旨とする人類学が絶対に拒むこと―それは対象の細部や周辺や背景へのこだわりを捨て去ることです。人類学では他の科学のように、事例が理論を立証する道具になるのでなく、むしろ理論が事例を演出します。分析者が高みから事例の真相をあばくのでなく、事例と水平に並んで、事例にシンクロナイズするように思考を展開します。
 こんな特色に何か意義があるのでしょうか?人類学は決して細部にこだわるだけの学問ではありません。この学問はどんな民主主義よりもラディカルに既成の序列を疑い、序列化からの脱却に現実を批判し再構築する可能性を賭けています。事例と理論をめぐる人類学の姿勢は、そうした既成の序列に対する何重もの挑戦の表明です。分析対象と分析者、事例と法則、人間と非人間、細部と全体、問題と解決といった二項の間の序列が、ここには含まれています。だから人類学の実践では、分析者が対象によって自分を分析したり、人間が非人間の同類として人間になり直したり、全体が細部によって別の相貌をあらわしたり、問題が矮小な解決を圧倒してあたらしい地平を切り拓いたりすることが起きるのです。

●科目の種類と特徴
①毎年開講の科目
「社会人類学Ⅰ」「社会人類学Ⅱ」(春夏または秋冬・各2単位):社会(文化)人類学の特定のトピックについて、講義形式またはゼミ形式で授業をおこなう。近年とりあげられたトピックの例として、「人類学の可能性:認識論から存在論へ」「科学の人類学」「人間概念の人類学」「『再帰的』思考と実践の多型性」など。なお、本講義は、毎年度2名の教員が平行して2種類の講義を提供している。
「民族誌論」(春夏または秋冬・2単位):民族誌論の特定のトピックについて、講義形式またはゼミ形式で授業をおこなう。近年とりあげられたトピックの例として「人類学的モダニティ論再考」「『比較』再考」「医療と身体」「生殖と知財権」など。
「比較民族誌研究」(通年・4単位):最近の民族誌の形式・内容・表現媒体の多様化に呼応し、その先端的民族誌技法を実地で学ぶ。講義形式・ゼミ形式・実習形式を併用する。
「大杉高司ゼミナール」「久保明教ゼミナール」(各通年・4単位):それぞれ、独自のテーマについて、輪読・研究発表・論文執筆指導・チュートリアルなどをおこなう。なお、全教員が合同で論文合評ゼミを開催する場合もある。

②隔年開講の科目
「周辺状況の諸問題」(夏または冬学期・2単位):植民地主義、グローバル資本主義、自然と文化の分断などによって周辺化されてきた状況について、「周辺化」という概念自体の再検討を含め、講義形式で授業をおこなう。
「人類学特講Ⅰ」(夏学期・2単位)、「人類学特講Ⅱ」(冬学期・2単位):現代人類学の特定のトピックについて、ゼミ形式と講義形式で授業をおこなう。近年とりあげられたトピックの例として「人類学と『他者性』の歴史」「科学と呪術」「アイロニーの翻訳」など。

③履修科目とは別に「一橋人類学セミナー」、「合評ゼミ」、「リーディング・ゼミ」が月一回程度開かれる。これらは学内・学外から招かれた研究者による研究発表や、論文構想やドラフトの発表、現代人類学を代表する最重要文献にもとづく議論の場である。

●科目選択にあたって留意すべき点
 現代人類学は、研究領域と理論双方の幅の広さを特徴としている。学生は意識して人類学の多様な潮流に触れ、そのなかで新たな研究領域を切り拓き、独自の理論的立場を磨き上げていく必要がある。そのためにも、早い時期からできるだけ多様な科目を履修していくことが望ましい。ゼミナールに関しても、指導教員の主ゼミナールに加えて、副ゼミナールを履修することを強く推奨する。
 なお、社会人類学共同研究室に所属する教員が提供する科目(①と②に相当)のうち、ゼミナールを除く全科目は、年度ごとに担当教員が変わるので、同じ科目名の講義を繰り返し履修してもその都度異なる講義を受けることができ、知識を深めることができる。また、学部時代に人類学の教育を充分にうけることのできなかった学生は、学部生向け科目(「人類学概論」、「社会人類学総論」、「現代人類学特論」、「エスノグラフィ」)を履修し、人類学の基礎を身に付けることができる。

●学位論文執筆にむけて留意すべき点
 人類学の学問上の性質から、博士論文執筆のためには、比較的長期(おおむね2年程度)の集中的フィールドワークを実施することが必須となる。フィールドワークの実施にむけて、研究の面ではもちろんのこと、外部からの資金調達や学籍上の身分にかかわる手続きなどを含めて、早い段階から長期の計画を立て準備していく必要がある。この点が、他の分野の研究を志す場合ともっとも異なる点なので、留意されたい。また、フィールドワーク実施後には、上述の論文合評ゼミやチュートリアルなどをペースメーカーとして活用し、複数の教員の多様な観点からの指導をうけながら、博士論文執筆にとりくむことが期待されている。
 一方、修士論文執筆にあたっては、先行研究を渉猟して問題を定め、必要な場合は比較的短期のフィールドワークを実施し、その成果にもとづいて修士論文を執筆することになる。ただし、フィールドワークにもとづいた修士論文を執筆する場合、博士課程学生の場合以上に早い段階からの計画立案が必要なので、その点留意すること。修士論文執筆のペースメーカーとしては、一年次修了時に提出を課すM1論文とその合評会、二年次に履修するリサーチワークショップを活用すること。

政治学

●一橋大学における政治学
 一橋大学では、社会学研究科に政治学が配置されています。ただし、通常、政治学の下位領域とされる国際関係論、国際政治経済学、行政学などは、本学の場合、法学研究科および国際・公共政策大学院で開講されています。そのなかには社会学研究科では履修できない科目もありますから、注意してください。
 これは、戦前「キャプテン・オブ・インダストリー」を輩出した東京商科大学が、戦後に一橋大学と名を変え、「社会科学の総合大学」として再発足するにあたって、商学部・経済学部とともにいったん法学社会学部がつくられ、そこから法学部と社会学部が分離したという一橋大学の沿革と関連しています。日本の政治学は、明治以来、ドイツの大学システムと国法学・国家学の影響を強く受け、憲法・行政学から分岐して法学部の片隅に置かれ、天皇制国家の官僚養成のための学問として生まれ育ちました。戦後の日本国憲法の下で、丸山真男らにより「科学としての政治学」が提唱され、再建された後も、国立大学を中心に政治学を法学部の一部とする伝統が残りました。
 ところが、もともと「官学」でありながら「民間」に多くの人材を送り出してきた一橋大学では、政治を「官」ではなく「民」の視点で学んでいくため、国際関係論や外交史は法学部に置きながら、政治学を社会学・哲学・歴史学・社会政策論などとともに、「社会科学の総合学部」としての社会学部で教育することにしました。社会学研究科の政治学は、この伝統を踏襲しています。一橋大学の政治学は、政治家や官僚を養成するための「国家学としての政治学」ではなく、主権者である市民に不可欠な総合的教養たる「市民社会の政治学」を志向し、一橋リベラリズムの一翼を担ってきたことに特徴があります。

●ゼミ(演習)と研究テーマ
 入学後は、指導教員のゼミ(第一演習)に所属し、教員の指導、他の院生との議論を経ながら、修士論文や博士論文の研究を進めていくことになります。許可を得れば、副ゼミ(第二演習)を履修することもできます。
 指導教員の選択は、大学院で研究を行う上できわめて重要です。テーマが全く重なる必要はありませんが、希望する教員の本や論文を読み、自らの関心と何らかの接点があるか、前もって確認しておいてください。個別に面談を行ったり、ゼミを見学したりすることも可能です。
 教員の具体的な指導テーマは以下の通りです。

 修士課程の2年目には、リサーチワークショップで報告して、修士論文の執筆を進めていくことになります。リサーチワークショップは、超域社会研究分野として開講され、政治学の教員はもちろん、他の専門の教員も含めた集団指導が行われます。狭い対象に限定されがちな関心を、広い視野から捉え直す機会になっています。

●講義科目など
 大学院在籍者のみが出席する大学院専修科目としては、「政治学A」「政治学B」「国際政治・平和研究」「国際政治・紛争研究」「Politics and Social Media」が開講されています。「政治学A」は、現代政治学の理論と方法を、「政治学B」は、比較政治、政治経済学の理論と方法を主に扱います。年度によって扱う内容が変わりますので、シラバスをよく確認した上で履修してください。「国際政治・平和研究」は、現代国際政治学のマクロ理論や安全保障・維持に関する理論と方法を、「国際政治・紛争研究」は、現代の紛争に関する諸問題を国際正義論から議論し分析して行きます。「Politics and Social Media」では、インターネット上の政治コミュニケーションに関する研究の最先端を、新しく出版された論文を通して学びます。
 社会学部の3・4年生と共通の「共修科目」としては、「Political Behavior」「比較政治」「国際正義論」「Media Research Methods」があります。その他、専攻を横断したプロジェクト型講義として「先端課題研究」が各年度3つ程度開講されており、キャリア支援を目的とした「高度職業人養成科目」などがあります。

環境と社会

●基本的な特徴
 この領域では、社会地理学、環境科学、地球科学、フードスタディーズ、そして地域研究・開発研究を専門とする教員が連携し、人間による資源・環境の利用および管理という、学際的で文理融合的なテーマを探究します。ここでいう環境とは、食料生産の基盤となる生態系から都市の建造環境までを幅広く含んでおり、資源・環境をめぐる社会・知識・技術のあり方について、研究する地域の特殊性を重視し、かつ地球規模の視点をもちながら検討します。方法としては、現象をとらえる時間・空間スケールに気を配りつつ、社会調査、聞き取りや資源・環境の計測によってデータを手にし、分析・検討する野外科学・臨地研究を中心とします。
 本領域において学際的な研究を深めるには、第1演習(主ゼミ)の指導教員と相談しつつ、本領域の他教員あるいは他分野教員のゼミを第2演習(副ゼミ)として履修するとよい場合もあります。そして、修士2年目には超域社会研究分野共通の必修科目であるリサーチワークショップを軸として、隣接分野の教員からコメントを受けながら修士論文研究を進めます。
●関連科目

 【社会地理学】   本学の社会地理学では、人間-環境研究に加えて、地域研究を実践し、また国際開発・協力の「現象」を分析する開発研究を重視しています。発展途上国の政治・経済・社会、貧困と資源・環境、一次産品のバリューチェーン、国際開発・協力の制度や主体(ODA、企業のCSR、官民連携…)などが、主なテーマです。こうした研究は、先進国や新興国とのつながりに注目して行うこともできますし、その結果は途上国の場を通して先進国由来の「社会」理論に相対化を迫ることにもなります。これに加えて、日本を含む各地の人文地理学、社会地理学的な研究も守備範囲です。個人・企業等の立地・分布、移動・近接性、場所イメージなど、人々の行為や認知の空間的側面の研究や、「空間」が「社会」とどのように相互作用して「社会問題」を生みだすのかを研究します。
 関連する授業は、国際開発・協力の枠組みや制度を中心に論じる「国際開発論」、開発が地域の社会経済・環境に与えるインパクト等について学ぶ「社会開発論」、地域研究の来歴・特徴、批判的地域研究を含む近年の研究動向、アジア・アフリカを中心とする途上国の世帯・社会を研究する際に必要な諸理論を学ぶ「地域研究の理論A・B」、そして、地域概念と諸地域の比較方法を検討し、また地域研究における政治、経済、社会の要因の相互作用について考察する「相関地域研究A・B」です。また、開発論をスポーツ社会学と結びつける「スポーツと開発」では、スポーツを通じて開発・平和構築に取り組むNGOの実践や、大規模スポーツイベントに起因する都市・地域開発の諸影響について検討します(※共生社会研究分野との兼任教員がこの科目を提供しますが、「環境と開発」の領域で「スポーツと開発」関連の研究を希望する場合、超域社会研究分野のリサーチワークショップを履修することを推奨します)。

 【環境科学・地球科学】   環境科学・地球科学ともに複合的な学問分野であり、さまざまな方法論で研究を進めることができます。文理を問わずさまざまな学問分野からのアプローチがあり、またそれらの分野を横断するような研究があります。扱う対象自体も、固体地球、水、大気、廃棄物、生態系などさまざまあり、そのスケールも宇宙環境、地球環境、地域環境、都市環境、住環境などグローバルなものからローカルなものにまでわたっており、それらが相互に関わりあっています。演習では、研究や研究と関連する文献(主に英語)について議論します。修士論文は、広く環境を扱うものについて、フィールド実験やアンケート調査、データ解析やインタヴュー調査など幅広い手法を扱っており、その成果は学会発表や査読付き英文誌への投稿により積極的にパブリッシュしています。

 【フードスタディーズ】   「食のグローバリゼーション」と「食と自然環境」といったように、わたしたちの生活の基本である「食」にまつわる問題群(環境保全、食文化/食様式、食の安全、フェアートレードなど)を、ローカル/グローバルに、重層的・多面的に分析します。いずれも問題設定の仕方によっては、単純に白黒や善悪を決められないテーマとなります。たとえばマーガリンを事例に考えてみましょう。現在、マーガリンの主原料はインドネシアやマレーシアで生産されるアブラヤシから採れるパーム油です。しかし、20世紀にはいったころから1950年代ぐらいまで、ヨーロッパでは鯨油がマーガリンの主原料でした。イギリスもノルウェーも、マーガリンを製造するために南極まで船団を派遣していた、と言っても過言ではありません。バターの代用品としてのマーガリン開発史はいうまでもなく、健康や美容、環境、倫理といった視点からも、わたしたちの食生活と「近代」が、密着したテーマであることがわかります。演習では、学生各自の研究発表のほか、関連分野の著作について内容はもとより、著者の研究手法についても討論します。修士論文は、広義の「食環境の変容」を扱うものであれば、自由に設定可能です。研究対象とする現場(フィールド)に浸り、じっくり観察するとともに、人びとの声に耳を傾けつつ、臨場感あふれる研究を志してください。

●履修上のアドバイス
 学際的な本領域においては、さまざまな履修モデルが考えられます。たとえば、地域研究や開発学についての基礎知識を固めるべき人の場合には、修士1年次に、「地域研究の理論」や「相関地域研究」をとるだけでなく、「国際開発論」や「社会開発論」も履修するとよいでしょう。また、たとえばデータの扱い方や基礎的な解析を学びたい場合は、「科学と技術」や「環境とデータ」の履修を勧めます。地球科学的、環境科学的な研究では、数値を把握し可視化する力が求められることが多く、自然科学分野の研究手法が生かされます。逆に、すでにNGOなどで活動したことがあり、地域研究や開発学、あるいは環境に関わる研究について一通りのことを知っている場合は、本領域の教員が担当するゼミに参加しつつ、授業は周辺の関連分野を中心にとることも考えられます。必要に応じて、超域社会研究分野以外の教員が担当する科目の履修も検討することになります。
 修士1年次では、理論的な基礎を固めると同時に、修士論文のテーマを絞り込んでいきます。テーマによっては、1年次のうちに統計解析や地理情報システム(GIS)の理論とソフトの使用方法を習得するのがよいでしょう。また、社会地理学であれ、フードスタディーズであれ、環境科学的、地球科学的な研究であれ、開発研究であれ、地域研究のアプローチを取り入れる場合には、対象国・地域の言語を習得することが望まれます。大学院進学時に未習得の場合は、修士2年次に1年間、対象地域に滞在し、言語習得と並行してフィールド調査・隣地研究を始め、3年かけて修士課程を修了する計画を立てることも考えるべきでしょう。そのためには、1年次に研究助成金に応募することも重要です。他方、地域研究よりも、たとえば開発論に重点を置く場合には、現地語の習得は目指さず、2年次の夏休みに数週間から2ヶ月くらいを対象地域で過ごし、英語を用いて(通訳を依頼しつつ)聞き取りなどを行うことになります。環境関連データの計測や住民意識調査を中心に行う環境科学の研究についても同様です。また、テーマによってはフィールド調査を行わず、代わりに文献収集を目的として現地を訪れ、主に現地語や英語による文献に基づいて論文を書く場合もありえます。