各個別分野における社会科学方法論の文献レビューについて

 本研究会では、「質的アプローチに基づく研究手法の内実とその説得性確保メカニズムについて、分野間の相違を踏まえた上での総合的な理解を目指す」という研究課題に取り組むために、個別の専門分野における社会科学方法論に関わる文献のレビューを進めています。具体的には、研究員によって、①研究員の専門分野における社会科学方法論関連の文献リストの作成、および②重要文献の解説レジュメの作成を行っています。

 本ページの成果は、日本学術振興会『課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業(領域開拓)』「分野間比較を通した質的研究アプローチの再検討」(研究代表者:井頭昌彦)の支援を受けたものです。

教育学

担当者:栗原和樹

[0]
サーベイまとめ(教育学)

[1]
Creswell J. W., 2000, Educational Research: Planning, Conducting, and Evaluating Quantitative and Qualitative Research, Merrill Prentice Hall. Chapter2, “Quantitative and Qualitative Approaches”, pp.42-64.
教育研究のリサーチデザインについての教科書をいくつか執筆している著者による1冊。今回取り上げた第2章では、質的研究と量的研究の教育研究における簡単な歴史や、双方の目的・研究の進め方の違いを説明している。

[2]
Morewenna Griffiths, 1998, “Living with uncertainty in educational research“, Educational Research for Social Justice: getting off the fence,Open University Press,pp.65-84.
教育ついて哲学的な議論を展開してきた著者による、社会正義に関わる教育研究においておさえるべきポイントが整理されている書籍。取り上げた5章では、教育研究の特徴や、ポストモダニズムを踏まえた上で教育研究を行う際の注意点が述べられている。

[3]
Ruth Boyask, 2012, "Sociology of education: advancing relations between qualitative methodology and social theory" In Sara Delamont(eds), Handbook of Qualitative Research in Education, Edward Elgar Publishing Limited,pp.21-32.
この書籍は、教育についての質的研究のハンドブックである。取り上げた第2章はその中でも、教育社会学が社会学との関連において理論と方法論がどのような関係を展開してきたのかを議論している。

[4]
Geoffrey Walford, 2007, "Everyone Generalizes, but Ethnographers Need to Resist Doing so" In Walford,G(eds), Methodological Development in Ethnography, Studies in Educational Ethnography Volume12 ,pp.155-167.
教育研究において質的方法論についての教科書も執筆しているWalfordのエスノグラフィーに関する文献。ポール・ウィリスの『ハマータウンの野郎ども』を話題にし、エスノグラフィーにおける匿名性を問題化している。そのうえで、エスノグラフィーが何を問題とするべきことであるのかという観点から質的研究の特徴を論じている。

[5]
Joseph A. Maxwell 2004, " Causal Explanation, Qualitative Research, and Scientific Inquiry in Education", Educational Researcher, Vol.33,No.2,pp.3-11.
本論文は、アメリカの『教育における科学的研究(SRE)』(国立研究評議会)に対するMaxwellによる批判である。SREがランダム化実験を良い研究モデルとして位置づけるのに対して、実在論(realism)の立場からの質的研究の必要性を主張している。

[6]
Johnson, R. Burke, and Anthony J. Onwuegbuzie. 2004. “Mixed Methods Research: A Research Paradigm Whose Time Has Come.” Educational Researcher 33(7):14–26.
近年、日本の教育研究でも混合研究法が注目されつつあるが、その研究方法がどのような利点をもたらしうるのかを議論している。質的・量的それぞれの長所短所が整理され、混合研究法をどのように設計していくのかのモデルの提示が行われている。

[7]
Riehl, Carolyn. 2001. “Bridges to the Future: The Contributions of Qualitative Research to the Sociology of Education.” Sociology of Education 74:pp.115-134.
教育社会学の質的研究においては、解釈主義的な伝統が長く続いている。本論文は、その伝統の中で解釈主義的な研究が教育社会学の主要なテーマ群にどのような貢献を果たしてきたのかを整理している。

[8]
Lampert, Magdalene. 2000. “Knowing Teaching: The Intersection of Research on Teaching and Qualitative Research.” Harvard Educational Review 70(1):86–99.
1980年代から教育研究において、教師を研究の参加者とする研究が増加している。しかし、そのことを無批判に称揚することにはいくつかの研究上の問題点がある。本論文では、教師を研究の参加者としてるすることがどのような問題点を含んでおり、その問題点をどのように乗り越えることができるのかを議論している。

[9]
Metz M. H, 2000, “Sociology and Qualitative Methodologies in Educational Research” Harvard Educational Review ,vol.70(1),pp.60-74.
本論文では、社会学における質的方法論の展開が概説されている。さらに著者は、質的方法と質的方法論を重要に区別し、エスノグラフィに対する人類学的アプローチと社会学的アプローチの区別などを経て、教育における質的研究の将来について論じている。

[10]
Woods. Peter, 1988, “Educational Ethnography in Britain” In Sherman R, Robert & Webb B, Rodman, Qualitative Research in Education; Focus and Methods, pp.88-107.
本論文は、イギリスの教育研究におけるエスノグラフィーの展開や特徴を論じているものである。イギリスにおいてはエスノグラフィーへの関心は日常生活において自明のものとして用いられているカテゴリーや現実の社会的構築に焦点を当てた「新しい教育社会学」の影響が大きい。著者によれば、エスノグラフィーは理論と実践の接合を可能にする可能性を持つ研究手法であるとされる。


社会人類学

担当者:谷 憲一

[0]
サーベイまとめ(社会人類学)

[1]
Okely, Judith 2012 Anthropological Practice: Fieldwork and the Ethnographic Method. Berg Publishers.
この文献は、人類学の肝でもあるフィールドワークがいかなるものであるのかを人類学者へのインタビューも交えながら実践に即して書いている。第一章では人類学的方法論の歴史的成り立ちやその特徴が議論されている。

[2]
Wayne Fife 2020 Chap.1 The Reliability Issue. In Counting as a Qualitative Method:Grappling with the Reliability Issue in Ethnographic Research. Palgrave. pp. 1–21.
パプアニューギニアで教育の研究をしてきた著者による、研究の信頼性を高めるためのフィールドワークの方法論についての書籍。第一章では著者自身の経験に沿いながら「集計する」という方法の意義を論じている。

[3]
Jeffrey Johnson & Daniel Hruschka 2014 ch.3 Research design and research strategies.In Russell Bernard and Clarence Gravlee (eds.), Handbook of Methods in Cultural Anthropology. Thousand Oakds: Rowman & Littlefield Publishers, pp.97–129.
文化人類学における方法論についての論集のリサーチデザインの章。信頼性を高める適切なリサーチデザインのための要素について人類学的研究の例を挙げながら論じている。

[4]
Marcus, George and Michael Fischer 1986 ch. 2 Ethnography and Interpretive Anthropology, In Anthropology as Cultural Critique: An Experimental Moment in the Human Sciences. The University of Chicago Press, pp.17–44.
ポストモダン哲学やポストコロニアル批評の影響を受けた1980年代の人類学の内省と呼ばれる流れの中に位置づけられ、従来の民族誌のあり方を批判的に検討し現在の民族誌の潮流にも大きな影響を与えた重要文献である。人類学の方法論を仮説検証モデルに寄せるという方向性とは別の方向を示す論考として、人類学という広い学問分野の輪郭の一端を示している。

[5]
Julieta Vartabedian 2015 Towards a Carnal Anthropology: Reflections of an Imperfect Anthropologist. Qualitative research 15(5): 568–582.
1980 年代から登場した民族誌の実験的な試みとして位置付けられる論文である。本稿は量的調査に準じた正当化を目指すのではなく、調査者の特徴そのものが特定の調査を可能にすることを方法論的に指摘してる。

[6]
Michael Agar 1980 chapter 6 Narrowing the Focus, The Professional Stranger: An Informal Introduction to Ethnography. Academic Press. pp.119–136.
人類学の方法論について、英語圏のものでは早期にあたる1980年代に書かれた書籍である。第6章は、調査の信頼性を高めるテストのやり方について(著者の不本意さを示唆しながら)書かれた章である。

[7]
Karl Heider 2015 The Rashomon Effect: When Ethnographers Disagree. American Anthropologist 90(1): 73–81.
この論文は、同一対象を扱う民族誌家の見解が異なるときにありうる、調査者の特性や調査方法の相違による見解の分岐について場合分けして考察している。著者は、不同意についての反省を通じて、対象文化のみならず調査者の文化的背景についての理解にも貢献しうることを指摘している。

[8]
Robert Pool 2017 The Verification of Ethnographic Data. Ethnography 18(3): 281–286.
この論文は、説明責任や監査の文化が学術研究を規定するようになってきている中で、客観的な検証という枠には収まらない民族誌的データの性質について考察し、検証のためのデータ保存の在り方について提案している。

[9]
Tom Fricke 2003 Culture and Causality: An Anthropological Comment. Population and Development Review 29(3): 470–479.
この論文は、人類学による人口統計学への貢献がどのように可能なのかを議論している。著者は因果関係を見出す際に、対象の人々自身の意味を探究する必要があると論じている。

[10]
Thomas Hylland Eriksen 2014 chapter 23 Public Anthropology. In Russell Bernard and Clarence Gravlee (eds.), Handbook of Methods in Cultural Anthropology. Thousand Oakds: Rowman & Littlefield Publishers, pp. 719–734.
この論考は人類学のアカデミズムの外部との関わりに焦点を当てた公共人類学についての概説である。副次的と見なされがちではありながらも、フィールドワークという調査法に依拠し様々な立場や世界観の媒介者を担ってきた人類学が公に果たしうる役割について考察している。


社会政策/社会福祉①

担当者:山邊聖士

[0]
サーベイまとめ(社会政策/社会福祉)

[1]
Graham, H. and E. McDermott, 2006, “Qualitative research and the evidence base of policy: Insights from studies of teenage mothers in the UK,” Journal of Social Policy, 35(1): 21-37.
この論文は,質的研究の知見が政策形成のためのエビデンスとしてどのように貢献しうるかを検討したものである。イギリスにおける10代の母親を対象とした質的研究の系統的レビューをおこなうことで,社会的排除をめぐる新たな論点を提示している。

[2]
Bryman, A., S. Becker and J. Sempik, 2008, “Quality Criteria for Quantitative, Qualitative and Mixed Methods Research: A View from Social Policy,” International Journal of Social Research Methodology, 11(4): 261-276.
イギリスの社会政策研究者を対象に,研究者集団がどのような規準にもとづいて研究の質を判断しているかを調査したもの。量的研究・質的研究・混合研究法のそれぞれについて,妥当性や信頼性,一般化可能性や再現可能性といった規準がどの程度適用されるべきとされているのかを報告している。

[3]
Spicker, P., 2011, “Generalisation and Phronesis: Rethinking the Methodology of Social Policy,” Journal of Social Policy, 40: 1-19.
社会政策に関する著作を数多く執筆してきた著者が,社会政策研究にとって重要だという一般化の方法について論じたもの。因果関係の分析にもとづく一般化がはらむ問題を指摘したうえで,それとは異なるフロネシス(Phronesis,実践的な知)の一般化というアプローチの有効性を主張している。

[4]
S. McKay, 2011, “Response 1: Scientific Method in Social Policy Research Is Not a Lost Cause,” Journal of Social Policy, 40: 21-29.
Spicker(2011)への応答論文①。因果性に関するSpickerの解説および批判の問題点について指摘しているほか,社会政策研究の分野では,フロネシスのアプローチがことさら要求されるほどに定量的研究が支配的なわけではないと主張している。

[5]
Fitzpatrick, T., 2011, “Response 2: Social Science as Phronesis? The Potential Contradictions of a Phronetic Social Policy,” Journal of Social Policy, 40(1): 31-39.
Spicker(2011)への応答論文②。Spickerがアメリカ政治学分野で展開してきた方法論争にみずからの議論を位置づけておらず,またフロネシスの概念に関する哲学的問題にも十分な注意を払っていないと批判している。

[6]
Lin, A. C., 1998, “Bridging Positivist and Interpretivist Approaches to Qualitative Methods,” Policy Studies Journal, 26(1): 162-180.
この論文は,質的研究における実証主義と解釈主義という2つの異なるアプローチについて論じている。とりわけ政策研究においては,実証主義と解釈主義のいずれか一方に傾倒するのではなく,両者を組み合わせた研究を設計することが重要であると著者は主張する。

[7]
Glasby, J. and Beresford, P., 2006, “Who Knows Best? Evidence-Based Practice and the Service User Contribution,” Critical Social Policy, 26(1): 268-284.
保健・医療・福祉に関する政策や実践が「根拠に基づく」べきであるとの考えが普及するなか,何が「妥当」なエビデンスといえるのかについて再考を促す論考。「客観性」は妥当なエビデンスの条件ではないこと,エビデンスの(唯一絶対の)ヒエラルキーなどは存在しないこと,サービス利用者や実践者の経験も量的アプローチから得られる知見と同等に妥当でありうることを,著者たちは主張する。

[8]
Dubois, V., 2009, “Towards a critical policy ethnography: lessons from fieldwork on welfare control in France,” Critical Policy Studies, 3(2): 221-239.
社会政策の分析においてエスノグラフィーがどのような貢献をなしうるかについて論じた文献。社会問題が個別化し,その対応が個々の相互作用のなかで行われる現況においては,そうした相互作用の直接的な観察を行うエスノグラフィーが,とりわけ社会政策の批判的な分析にとって有用であると著者は主張する。

[9]
Lub, V., 2015, “Validity in Qualitative Evaluation: Linking Purposes, Paradigms, and Perspectives,” International Journal of Qualitative Methods, 14(5): 1-8.
この論文は,社会政策の評価との関連で,質的研究における妥当性の規準がどのように概念化できるかを検討したものである。著者は,質的な方法を用いた政策評価には異なる3つの目的があり,これらはそれぞれ異なる科学的パラダイムや妥当性の手続きと結びつくとして,評価の目的や科学的パラダイムの違いに応じた異なる妥当性規準のモデルを定式化している。

[10]
Lewis, D., 2008, “Using Life Histories in Social Policy Research: The Case of Third Sector/ Public Sector Boundary Crossing,” Journal of Social Policy, 37(4):559-578.
社会政策研究におけるライフヒストリー法の有用性について論じた文献。一般に異なるセクターとして区分される「公的セクター」と「サードセクター」をまたいで仕事をしてきた個人のライフヒストリーを素材に,この方法がある事象についてのニュアンスに富んだ理解を提供することで,旧来の単純化された見方やモデルなどに異を唱えることを可能にすると主張される。


社会政策/社会福祉②

担当者:山邊聖士

[1]
Lincoln, Y. S. and Guba, E. G., 1985, “Chap.1 Postpositivism and the Naturalist Paradigm,” in Naturalistic Inquiry, Beverly Hills, California: Sage Publications, 14-46.
本書は,従来の科学的探究を導いてきたとされる実証主義とは異なるパラダイムとしての自然主義的パラダイム(naturalistic paradigm)について論じた著作である。第1章では,自然主義パラダイムが成立するに至る背景,およびそのパラダイムとしての特徴について論じられている。本書の射程は社会政策や社会福祉の領域に限定されないものの,とりわけ質的研究の質を評価する際の規準に関する先駆的業績として,社会政策や社会福祉の領域で大きな影響力をもっている。

[2]
Fischer, F., 1998, “Beyond Empiricism: Policy Inquiry in Postpositivist Perspective,” Policy Studies Journal, 26(1): 129-146.
公共政策分野の学術誌Policy Studies Journalの1998年の特集「政策分析のエビデンスの基礎:経験主義とポスト実証主義の立場」に寄せられた論考の1つ。従来の政策分析が,著者が新実証主義と呼ぶ認識論的立場をとっていることの問題を述べたうえで,それに代わる立場としてのポスト実証主義およびそれが政策研究に対してもつ含意について論じている。

[3]
Lincoln, Y. S. and Guba, E. G., 1985, “Chap.11 Establishing Trustworthiness,” in Naturalistic Inquiry, Beverly Hills, California: Sage Publications, 289-331.
従来の科学的探究を導いてきたとされる実証主義とは異なるパラダイムとしての自然主義パラダイム(naturalistic paradigm)について論じた著作の第11章。自然主義パラダイムに基づく研究の説得力を確保するための4つの規準が提示されている。これらの規準は,社会政策分野における質的研究の質を評価する際の規準としてもたびたび参照されている。

[4]
Maxwell, J. A., 2020, “The Value of Qualitative Inquiry for Public Policy,” Qualitative Inquiry, 26(2): 177-186.
公共政策やプログラムの開発・評価において質的研究が果たしうる役割について概説した論文。公共政策やプログラムの計画や評価においては,意味,文脈,プロセスが重要であり,これらの解明において質的研究に強みがあることを著者は主張している。

[5]
Kay, A. and Baker, P., 2015, “What Can Causal Process Tracing Offer to Policy Studies? A Review of the Literature,” Policy Studies Journal, 43(1): 1-21.
因果的過程追跡(causal process tracing)の方法が政策研究の領域でどのような可能性をもつのかを論じた論文。とくに,同一事例内(within-case)における政策変化の分析から因果関係を解明する有益な方法であることが主張され,その具体的な研究手順も提示されている。

[6]
Steinberg, P. F., 2007, “Causal Assessment in Small-N Policy Studies,” Policy Studies Journal, 35(2): 181-204.
政策的に重要なアウトカムをもたらした因果的な要因が多数発見された場合に,それらの相対的な重要性をいかに評価するかという問題について検討した論文。著者は「因果的重要性」という概念を用いて,少数事例におけるアウトカムの産出に必要な多数の要因をランクづけするアプローチを複数提示している。

[7]
Foley, G. and Timonen, V., 2015, “Using Grounded Theory Method to Capture and Analyze Health Care Experiences,” Health Services Research, 50(4): 1195-1210.
量的研究の指向をもつ研究者に向けて,質的研究法の1つであるグラウンデッド・セオリーの方法をどのように実践するか解説したもの。とくにヘルスケアにおける人々の経験を分析するにあたってのグラウンデッド・セオリーの方法の手順とその意義について述べている。

[8]
Belgrave, L. L. and Seide, K., 2019, “Grounded Theory Methodology: Principles and Practices,” P. Liamputtong ed., Handbook of Research Methods in Health Social Sciences, Singapore: Springer, 299-316.
健康の社会科学という分野のハンドブックに収められたグラウンデッド・セオリーの方法論に関する概説。方法論の中核的要素についても紹介しつつ、グラウンデッド・セオリー内部におけるアプローチの違いと、各アプローチの応用例を紹介することに力点が置かれている。

[9]
Timonen, V., Foley, G. and Conlon, C., 2018, “Challenges When Using Grounded Theory: A Pragmatic Introduction to Doing GT Research,” International Journal of Qualitative Methods, 17: 1-10.
社会政策の研究者がグラウンデッド・セオリーを方法論的に考察した論文。グラウンデッド・セオリーの研究をいかに実用的な(pragmatic)やり方で行うかという視点から、グラウンデッド・セオリーにまつわる「神話」と、グラウンデッド・セオリーを名乗る研究が固守せねばならない中核的原理を示している。

[10]
Munro, E., 2014, “Evidence-Based Policy,” N. Cartwright and E. Montuschi eds., Philosophy of Social Science: A New Introduction, Oxford: Oxford University Press, 48-67.
社会政策の研究者が、社会科学の哲学の教科書に執筆した「エビデンスに基づく政策(evidence-based policy:EBP)」についての概説。EBPにおけるエビデンスの概念やそれを提供するための方法、EBPに対する主要な批判などがまとめられている。

[11]
Cartwright, N. and Hardie, J., 2012, “Chapter I.B: The Theory that Backs up What We Say,” in Evidence-Based Policy: A Practical Guide to Doing It Better, Oxford, UK: Oxford University Press, 14-58.
科学哲学の立場からエビデンスに基づく政策について論じた著作。ランダム化比較試験などから得られる、ある状況における政策効果についてのエビデンスのみでは、別の状況に政策を適用する場合の有効性が保証されないことなどが主張される。とりあげた章では、こうした本書全体の主張の背後にある理論が提示されている。

[12]
Davies, P., 2000, “Contributions from Qualitative Research,” Davies, H. T. O., Nutley, S. M. and Smith, P. C. eds., What Works? Evidence-Based Policy and Practice in Public Services, Bristol: Policy Press, 291-316.
公共サービスにおけるエビデンスに基づく政策や実践に関する論考を集めた論文集。とりあげた章では、いわゆる質的な研究やデータが、公共サービスの評価以外にもどのような形でエビデンスに基づく政策や実践に貢献しうるのかが整理されている。

[13]
Stoker, G. and Evans, M., 2016, “Crafting Public Policy: Choosing the Right Social Science Method,” G. Stoker and M. Evans eds, Evidence-Based Policy Making in the Social Sciences: Methods that Matter, Bristol: Policy Press, 29-40.
エビデンスに基づく政策形成において利用可能な社会科学の方法を紹介した論文集。とりあげたのは、論文集全体の導入に当たる章である。著者たちは、社会科学の多様な方法が政策形成に貢献しうるという立場から、政策形成者による選択が求められる様々な場面を挙げて、それぞれの場面で適切な社会科学の方法を提示している。

[14]
Parkhurst. J., 2017, “Chap.2 Evidence-Based Policymaking: An Important First Step and the Need to Take the Next,” in The Politics of Evidence: From Evidence-Based Policy to the Good Governance of Evidence, Abingdon: Routledge, 14-37.
政策形成におけるエビデンス利用のガバナンスを重視する立場から、エビデンスに基づく政策形成の新たな展開の方向性を示した書籍の第2章。「何が有効か」というスローガンをはじめ、従来のエビデンスに基づく政策形成のアプローチが抱える限界と、その限界を乗り越えて政策形成におけるエビデンスの利用を改善するための課題について整理している。

[15]
Parkhurst. J., 2017, “Chap.6 What is ‘Good Evidence for Policy’? From Hierarchies to Appropriate Evidence” in The Politics of Evidence: From Evidence-Based Policy to the Good Governance of Evidence, Abingdon: Routledge, 107-127.
政策形成におけるエビデンス利用のガバナンスを重視する立場から、エビデンスに基づく政策形成の新たな展開の方向性を示した書籍の第6章。エビデンスに基づく政策形成の文脈でよく参照されるいわゆる「エビデンス・ヒエラルキー」に代えて、エビデンスの「適切さ」という観点から、政策にとって良いエビデンスを判断する枠組みを提示している。

[16]
Cairney, P. and Oliver, K., 2017, “Evidence-Based Policymaking Is Not Like Evidence-Based Medicine, so How Far Should You Go to Bridge the Divide Between Evidence and Policy?” Health Research Policy and Systems, 15(1): 1-11.
エビデンスに基づく政策形成において健康科学分野の研究者に求められる視点を政策理論(policy theory)に基づき考察した論考。政策形成者は自らの信念や感情に基づき判断を行う傾向にあり、政策形成ではローカルなガバナンスの原則が重視される中、研究者はどこまでエビデンスに基づくよう政策形成者を説得し、エビデンスのヒエラルキーを擁護すべきか、という問いに取り組む必要性が指摘されている。

[17]
Pawson, R., Greenhalgh, T., Harvey, G. and Walshe, K., 2005, “Realist Review -A New Method of Systematic Review Designed for Complex Policy Interventions,” Journal of Health Services Research & Policy, 10(Suppl 1): 21-34.
「何が有効か」について、しばしば最も良質なエビデンスを提供するとされる伝統的な系統的レビューの方法に対し、批判的実在論に根ざした新しいレビューの方法を提示した論考。複数の段階やステークホルダーを伴う複雑な介入の有効性をレビューする際に、この方法がどのように適用できるかを解説している。

[18]
Hammersley, M., 2005, “Is the Evidence-Based Practice Movement Doing More Good than Harm? Reflections on Iain Chalmers’ Case for Research-Based Policy Making and Practice,” Evidence & Policy, 1(1): 85–100.
質的研究の方法論に関する研究で知られる著者が、エビデンスに基づく政策形成や実践を擁護する論者を批判した論文。実践者の意見と研究のエビデンスを明確に区別することで、研究のエビデンスが政策形成や実践にもたらす利益が過大評価されていると主張している。

[19]
Lowndes, V, 2016, “Narrative and Storytelling,” G. Stoker and M. Evans eds, Evidence-Based Policy Making in the Social Sciences: Methods that Matter, Bristol: Policy Press, 103-121.
エビデンスに基づく政策形成において利用可能な社会科学の方法としてのナラティブ・アプローチを概説したもの。政策分析においてナラティブに関心が向けられるに至った経緯や、社会科学者がナラティブの側面から政策形成に貢献する可能性について考察されている。

[20]
Jones, M. D. and McBeth, M. K., 2010, “A Narrative Policy Framework: Clear Enough to be Wrong?” Policy Studies Journal, 38(2): 329-353.
公共政策分野において「実証主義」の立場からナラティブを研究するアプローチとして「ナラティブ政策枠組み(Narrative Policy Framework)」を提示した論文。公共政策分野のナラティブ研究で支配的な「ポスト実証主義」のアプローチに対置する形で、ナラティブ政策枠組みの哲学的な前提と経験的研究の方法を示している。


社会科学の哲学/社会科学方法論

担当者①:清水雄也
担当者②:小林佑太

[1]
Risjord, M., 2014, “Causality and Law in the Social World,” chapter 9 of Philosophy of Social Science: A Contemporary Introduction, Routledge, pp. 208–36.
現在の社会科学の哲学における重要論点を論じた教科書の第9章.社会科学に法則を求めることの諸問題を論じた上で,従来的な因果的説明観とは異なる方向性として,法則を要求しない因果性概念とメカニズム的説明の可能性を提示している.

[2]
Cartwright, N., 2014, “Causal Inference,” in N. Cartwright and E. Montuschi (eds.), Philosophy of Social Science: A New Introduction, Oxford University Press, pp. 308–26.
教科書的論文集に収録された論考.社会科学における因果推論の基本的問題として,因果性の哲学に関連する諸論点を概観する.特に,因果言明の意味,それを発見したり検証したりするための方法,因果的知識の利用といった論点について,いくつかの主要な立場を概観的に論じている.

[3]
Bishop, R. C., 2007, “Explanations in Social Science,” chapter 15 of The Philosophy of the Social Sciences: An Introduction, Continuum, pp. 315–35.
社会科学の哲学の主要トピックを論じた教科書の第15章.一般科学哲学において論じられてきた科学的説明の諸学説を紹介し,それらと社会科学的研究との関係性を整理するとともに,社会科学的説明における価値中立性の問題について予備的な議論を提示している.

[4]
Morgan, S. L. and C. Winship, 2015, “Mechanisms and Causal Explanation,” chapter 10 of Counterfactuals and Causal Inference: Methods and Principles for Social Research (Second Edition), Cambridge University Press, pp. 325–53.
反事実説的な因果論の観点から社会科学における因果推論の考え方を体系的に論じた『反事実と因果推論——社会研究のための方法と原理』の第10章.メカニズムという概念を用いながら,単に因果効果を推定するだけでなく十分に深い因果的説明を求めることの意義・歴史・方法を論じている.

[5]
Runhardt, R. W., 2015, “Evidence for Causal Mechanisms in Social Science: Recommendations from Woodward’s Manipulability Theory of Causation,” Philosophy of Science 82 (5): 1296–307.
社会科学におけるメカニズム解明のためには,従来的な過程追跡だけでは不十分であり,因果の可操性説(介入主義)によって定義されるような反事実的証拠を与えなければならないと主張する論考.方法論的考察のための事例として,Bakkeによるチェチェン紛争研究が取り上げられている.

[6]
Waldner, D, 2016, “Invariant Causal Mechanisms,” Qualitative & Multi-Method Research 14: 28–34.
因果メカニズムを特有の不変性概念によって特徴づけ,その観点から,過程追跡の原理的な要件としての「完全性基準」を論じた論考.ここで提示される不変性の概念は,Woodward的な可操性説(介入主 義)におけるそれではなく,産出説的因果論における生成と構成に関するものとして定義される.

[7]
Woodward, J., 2002, “What Is a Mechanism? A Counterfactual Account,” Proceedings of the Philosophy of Science Association 2002 (3): S366–77.
メカニズム概念の重要性を認めた上で,それを自らの因果論と説明論における鍵概念である「介入の下での不変性」を用いて適切に特徴づけることができると主張する論考.因果関係と反事実的条件文との関係,他の学説との比較,モジュール性条件についても論じている.

[8]
Menzies, P., 2012, “The Causal Structure of Mechanisms,” Studies in History and Philosophy of Biological and Biomedical Sciences 43(4): 796–805.
メカニズム的説明に関する従来の学説にメカニズムの因果的構造に関する詳細な特徴づけが欠けていることを指摘した上で,因果の介入主義/構造方程式モデルの枠組みを用いることでその欠点を補うことができると主張する論考.

[9]
Hitchcock, C., 2009, “Causal Modeling,” in H. Beebee, C. Hitchcock, and P. Menzies (eds.), The Oxford Handbook of Causation, Oxford University Press, pp. 299–314.
構造方程式を用いた因果モデリングについて論じた論考.因果モデリングの基本的な方法と利点を,哲学的因果論の観点から説明している.また,確率的因果論と現実因果の問題に因果モデリングを適用する議論についても紹介している.

[10]
Hitchcock, C., 2017, “Actual Causation: What’s the Use?” in H. Beebee, C. Hitchcock, and H. Price (eds.), Making a Difference: Essays on the Philosophy of Causation, Oxford University Press, pp. 116–31.
現実因果(しばしば単一因果ないしトークン因果と同一視される概念)について,それを知ることの意義を因果の行為者性説(可操性説)の観点から検討する論考.反事実説的に解釈される因果モデル(構造方程式モデル)を用いて,現実因果の意義は経路固有効果を識別することにあると論じている.

[11]
Glennan, S., 2009, “Mechanisms,” in H. Beebee, C. Hitchcock, and P. Menzies (eds.), The Oxford Handbook of Causation, Oxford University Press, pp. 315–25.
因果のメカニズム説(メカニズム概念によって因果概念を分析/解明できるという立場)を擁護する論考.特に(プロセスではなく)システムとしてのメカニズム概念に訴える因果論を,他学説(特に可操性説)と比較しつつ,動作概念を用いない仕方で展開している.

[12]
Cartwright, N., J. Pemberton, and S. Wieten, 2020, “Mechanisms, Laws and Explanation,” European Journal for Philosophy of Science 10 (3): Article Number 25.
メカニズム的説明(の一部)が,通説に反して,被覆法則説明の一種であると主張する論考.メカニズムへの言及を伴う説明を説明たらしめているのは,実際にはメカニズムの記述ではなく,法則による予測可能性の提示であるという見解を,認識論と存在論の両面から論じている.

[13]
Krickel, B., 2020, “Reply to Cartwright, Pemberton, Wieten: ‘Mechanisms, Laws and Explanation,’” European Journal for Philosophy of Science 10: Article Number 43.
Cartwright ほか(2020,資料[12])に対する新メカニスト側からの反論を展開する論考.メカニズム的 説明が被覆法則説明の下位類型であるというCartwrightたちの議論は説得的なものになっておらず,むしろ,(良い)被覆法則説明の方がメカニズム的説明の下位類型なのだと論じている.

[14]
Dowe, P., 2011, “The Causal-Process-Model Theory of Mechanisms,” in P. M. Illari, F. Russo, and J. Williamson (eds.), Causality in Sciences, Oxford University Press, pp. 865–79.
Salmon的なメカニズム論とCraver的なメカニズム論を組み合わせることで,両学説の欠点を克服した新しい複合的学説が作れると主張する論考.Salmon的な因果プロセスの表現を含むような因果モデル(因果プロセスモデル)の導入を提案している.

[15]
Illari, P. M., and J. Williamson, 2011, “Mechanisms are real and local,” in P. M. Illari, F. Russo, and J. Williamson (eds.), Causality in the Sciences, Oxford University Press, pp. 818–44.
科学における因果探求とそれを踏まえた哲学的因果論に関する論考を集めた論集の第38章.様々な仕方で特徴づけられるメカニズムについて,科学者と哲学者が合意している前提から出発し,メカニズムとは何か,その形而上学はどのようなものであるべきかを論じている.

[16]
Waskan, J., 2011, “Mechanistic Explanation at the Limit,” Synthese 183 (3): 389–408.
J. Woodwardによるメカニズム説批判に対して,因果知覚に関する心理学実験の知見を援用しつつメカニズム説を擁護した論文.Woodwardの批判に答え得る因果主張の学説として現実主義メカニストの理論が検討されている.本論文掲載誌の同じ号にはWoodwardによる応答論文も掲載されている.

[17]
Woodward, J., 2011, “Mechanisms Revisited,” Synthese 183 (3): 409–27.
因果の差異形成説である介入主義の立場からメカニズムについて論じた論文.同時掲載されたWaskan(2011)の論文に対する応答であり,差異形成説ではメカニズムの重要な側面を捉えることができないという主張に対して,差異形成説によるメカニズムの特徴づけを擁護する.

[18]
Psillos, S. and S. Ioannidis, 2019, “Mechanistic Causation: Difference-Making is Enough,” Teorema: International Journal of Philosophy 3 (38): 53–75.
因果のメカニズム説を批判し,メカニズムの差異形成説を擁護した論文.メカニズムを存在的カテゴリーとしての動作によって特徴づけるメカニズム説に対して,メカニズムとは差異形成関係のネットワークであると論じる.

[19]
Weinberger, N., 2019, “Mechanisms Without Mechanistic Explanation,” Synthese 196 (6): 2323–40.
メカニズム的説明が通常の因果的説明とは異なる形式をもつという主張を批判した論文.メカニズム(全体)の構成要素(部分)とは,原因から結果に至る経路上の媒介因子であり,メカニズム的説明に固有とされるレベル相互説明について,そのような形式の説明は存在しないと論じる.

[20]
Woodward, J., 2002, “There Is No Such Thing as a Ceteris Paribus Law,” Erkenntnis 57 (3): 303–28.
Ceteris Paribus(cp)法則を特集したErkenntnis誌(2002年57巻3号)掲載の論文.特殊科学における一般則をcp法則とみなす議論を批判し,介入主義にもとづく代替学説を提示している.なお,Erkenntnis誌では2014年にもcp法則に関する特集が組まれている.

[21]
Schrenk, M., 2014, “Better Best Systems and the Issue of CP-Laws,” Erkenntnis 79 (10): 1787–99.
Ceteris Paribus(cp)法則を特集したErkenntnis誌(2014年79巻10号)掲載の論文.D. Lewisによる法則の最善体系説を修正,拡張することで特殊科学におけるcp法則の理論を提示することができると論じる.なお,Erkenntnis誌では2002年にもcp法則に関する特集が組まれている.

[22]
Schurz, G., 2014, “Ceteris Paribus and Ceteris Rectis Laws: Content and Causal Role,” Erkenntnis 79 (10): 1801–17.
ceteris paribus(cp)法則を特集したErkentniss誌(2014年79巻10号)掲載の論文.一般にcp法則と呼ばれているものは,「他の条件がすべて等しい」という文字通りの意味でのcp法則と,「他の条件がすべて適切である」という意味でのceteris rectis(cr)一般則の2つに区別され得ると論じる.

[23]
Fenton-Glynn, L., 2016, “Ceteris Paribus Laws and Minutis Rectis Laws,” Philosophy and Phenomenological Research 93 (2): 274–305.
例外を伴う特殊科学の一般則には,ceteris paribus(cp)法則とは異なる種類の法則,minutis rectis(mr)法則が存在すると論じた論文.本論文は,決定論的なmr法則がより厳密な確率的法則への近似であると述べ,そうした確率的法則を導出する方法を提示している.

[24]
Wagner, G., 2020, “Typicality and Minutis Rectis Laws: From Physics to Sociology,” Journal for General Philosophy of Science 51 (3): 447–58.
物理学の哲学において「典型性」という用語で指示されている現象が,物理学だけでなく社会学の中にも見出されると主張する論文.「典型性」という考えが類比によって社会学にもち込まれた歴史的経緯について述べ,典型的現象を記述する社会学的法則の法則論的地位を明らかにしている.


歴史学

担当者:鈴木良和

[1]
Miles Fairburn, “The problem of generalising from fragmentary evidence”, Social History: Problems, Strategies and Methods, Macmillan, St. Martin's Press, 1999, pp. 39-57 (chapter2).
本論文は、科学哲学の議論を用いて歴史家の研究で実践されている方法を分析した『社会史——問題、戦略、方法』の第二章である。断片的な証拠(事例研究)から集合性に関する主張を論証する際に生じる問題と、そうした問題を制御する方法について論じられている。

[2]
Miles Fairburn, “Some Solutions for the Problem of Fragmentary Evidence”, Social History: Problems, Strategies and Methods, Macmillan, St. Martin's Press, 1999, pp. 58-84 (chapter3).
第二章に引き続き、断片的な証拠(事例研究)から集合性に関する主張を論証する際に生じる問題に対して、具体的な研究を参照しつつ五つの解決策を検討する。「致命的な事例」、「比較可能な事例からの外挿」、「観察の重さと多様さの最大化」、「対抗仮説の振るい落とし」、「状況の論理」が主要な解決策として検討される。

[3]
Carlo Ginzburg and Carlo Poni, “The name and the game: Unequal exchange and the historiographic marketplace”, in Edward Muir and Guido Ruggiero (eds.), Microhistory and the Lost Peoples of Europe, The Johns Hopkins University Press, 1991, pp. 1-10.
ミクロストリア研究のマニフェストとして受け取られてきた重要な論文。著者は、1970年代のフランス・イタリア間の歴史学の差異から出発し、フランスの数量的手法に対するイタリアのミクロストリアの独自な立場を表明している。

[4]
Giovanni Levi, “Microhistory and Recovery of Complexity”, Susanna Fellman and Marjatta Rahikainen (eds.), Historical Knowledge: In Quest of Theory, Method and Evidence, Cambridge Scholars Publishing, 2012, pp. 121-132.
著者のジョヴァンニ・レーヴィは、「ミクロストリア叢書」の刊行メンバーの一人であり、ギンズブルグとともにイタリアのミクロストリアの旗手として知られている。今回取り上げる論文では、1970年代末のミクロストリアの歴史家たちに共有されていた問題意識や方法論が回顧され、現在におけるミクロストリアの意義についても述べられている。

[5]
Jacques Revel, “Microanalysis and the Construction of the Social”, Jacques Revel and Lynn Hunt (eds.), Histories: French Constructions of the Past, The New Press, 1995, pp. 492-502.
著者ジャック・ルヴェルはフランスにおけるミクロストリアの方法論の第一人者。今回取り上げる論文では、フランス社会史の特徴が簡潔に描写され、ミクロストリアが社会史にもたらした方法論的な影響について論じられる。

[6]
Matti Peltonen, “What Is Micro in Microhistory?”, Hans Renders, Binne de Haan (eds.), Theoretical discussions of biography: approaches from history, microhistory and life writing, Brill, 2014, pp. 105-118.
本論考では、経済学、社会学、歴史学においてミクロ・マクロという概念が導入される過程が概観される。特に焦点が当てられているのは、1970年代末に新たに登場したミクロストリアにおいて、ミクロという概念がどのような新しい意味で用いられたのかについてである。

[7]
Edward Muir, “Introduction: Observing Trifles”, in Edward Muir and Guido Ruggiero (eds.), Microhistory and the Lost Peoples of Europe, The Johns Hopkins University Press, 1991, pp. vii-xxviii.
同論考は、Quaderni storici誌からミクロストリア関連の重要な論文を選び出して英訳した論文集『ミクロストリアとヨーロッパの失われた人々』の序論である。ミクロストリアの手法をギンズブルグを中心に論じており、「徴候解読型パラダイム」の概要が簡潔に紹介されている。

[8]
Sigurður Gylfi Magnússon, “"The Singularization of History": Social History and Microhistory within the Postmodern State of Knowledge”, Journal of Social History, 36-3, 2003, pp. 701-735.
マグヌソンはアイスランドの歴史家であり、レイキャビク・アカデミーにあるミクロストリア研究所(The Center for Microhistorical Research)の創始者である。「歴史の単数化」(the singularization of history)として知られる彼の方法をはじめて紹介したのが同論文になる。

[9]
Penny Summerfield, “Subjectivity, the self and historical practice”, Sasha Handley, Rohan McWilliam and Lucy Noakes (eds.), New directions in social and cultural history, Bloomsbury Academic, 2018, pp. 21-44.
文化論的転回以降の自己や主観性に関する歴史研究の動向が、ケーススタディを参照しながら整理されている。ポスト構造主義、ポストコロニアル、フェミニズム、精神分析の理論が紹介されている。

[10]
Jan de Vries, “Playing with Scales: The Global and the Micro, the Macro and the Nano”, Past & Present, 242, Issue Supplement 14, 2019, pp. 23–36.
同論考は、『過去と歴史』誌の2019年の特集号「グローバルヒストリーとミクロヒストー」に掲載された論文である。グローバル・ミクロヒストリーの最新の展望が、理論的な観点から論じられている。

[11]
John-Paul A. Ghobrial, “Introduction: Seeing the World like a Microhistorian”, Past & Present, 242, Issue Supplement 14, 2019, pp. 1–22.
同論考は、2019年の『過去と現在』誌特集号「グローバルヒストリーとミクロヒストリー」のイントロダクションである。グローバルヒストリーが抱えている問題をわかりやすく提示するとともに、そうした問題を解決するためにグローバルヒストリーとミクロヒストリーを接続する近年の議論の動向を整理している。

[12]
Christian G. De Vito, “History Without Scale: The Micro-Spatial Perspective”, Past & Present, 242, Issue Supplement 14, 2019, pp. 348–372.
ミクロヒストリーとグローバルヒストリーを結びつける方法としてもっとも有力なのがスケールという概念を用いることである。こうした潮流に対して著者は、この概念によってもたらされる問題点を指摘し、スケールに依拠せずにミクロヒストリーとグローバルヒストリーを結びつける方法として「ミクロ・空間的歴史学」を提示する。

[13]
Romain Bertrand and Guillaume Calafat, “Global Microhistory: A Case to Follow”, Annales. Histoire, Sciences Sociales, English Edition, 73-1, 2018, pp. 3-17.
同論文は、2018年のアナール誌特集号「ミクロ分析とグローバルヒストリー」のイントロダクションである。近年ブームになっている「グローバル・ミクロヒストリー」の方法論、有効性、課題に関して大きな見通しを提示している。

[14]
Filippo de Vivo, “Prospect or Refuge? Microhistory, History on the Large Scale”, Cultural and Social History, 7-3, 2010, pp. 387-397.
同論文は、ジョン・ブルーアの論考「ミクロヒストリーと日常生活の歴史」に対するデ・ヴィーヴォの応答である。ブルーアは、ジェイ・アプルトンの「眺望-隠れ場」理論をミクロヒストリーに応用することを提唱した。デ・ヴィーヴォはこの提言を肯定的に受け取り、いくつかの点で発展させようとしている。

[15]
Francesca Trivellato, “A New Battle for History in the Twenty-First Century?”, Annales. Histoire, Sciences Sociales, English Edition, 70-2, 2015, pp. 261-270.
デイヴィッド・アーミテイジとジョー・グルディは、ミクロな歴史学の台頭により歴史研究に長期の視点が失われたことを批判し、そこにこそ歴史家が公的な役割を失った原因があると指摘した。それに代わり彼らが提唱したのは、ビッグデータの分析を利用した「長期持続」への回帰であった。同論文は、この問題に関するアナール誌特集号に掲載されたトリヴェッラートの応答である。

[16]
David Armitage and Jo Guldi, “For an “Ambitious History” A Reply to Our Critics”, Annales. Histoire, Sciences Sociales, English Edition, 70-2, 2015, pp. 293-303.
2015年のアナール誌では、デイヴィッド・アーミテイジとジョー・グルディを火付け役とする「長期持続」論争の特集号が組まれ、五人の歴史家が批判的に応答した。今回紹介する論文は、そうした批判を受けたうえでのアーミテイジとグルディによる再応答である。

[17]
Hans Medick, “Turning Global? Microhistory in Extension”, Historische Anthropologie, 24-2, 2016, pp. 241-252.
同論文は、グローバル・ミクロヒストリーの方法論に関する近年の研究状況のレビューである。特に中国における(あるいは中国に関する)グローバルヒストリーやミクロヒストリーの現状が紹介されている点が有益。

[18]
Francesca Trivellato, “Is There a Future for Italian Microhistory in the Age of Global History?”, California Italian Studies, 2-1, 2011.
著者によれば、ミクロヒストリーがグローバルヒストリーに与えた影響は、従来、物語りの形式という点に限られていた(特に英語圏においては)。それに対して著者は、マクロスケールな説明パラダイムの妥当性を検証するという、イタリアのミクロストリアの歴史家たちがそもそも有していた方法論的な野心に注目することで、グローバルヒストリーとミクロヒストリーを新たに交差させる方法を探求している。

[19]
Brad S. Gregory, “Is Small Beautiful? Microhistory and the History of Everyday Life”, History and Theory, 38-1, 1999, pp. 100-110 (Review of The History of Everyday Life: Reconstructing Historical Experiences and Ways of Life by Alf Lüdtke and William Templer: Jeux D'Échelles: La Micro-Analyse à L'Expérience by Jacques Revel)
本稿はアルフ・リュトケ編『日常生活史』とジャック・ルヴェル編『スケールの戯れ』の書評論文である。イタリアのミクロストリアのアプローチをエピソード的ミクロストリアと体系的ミクロストリアに分けたうえで、フレデリック・バルトの人類学の手法をモデルにした体系的ミクロストリアの手法の特徴と限界について論じられている。

[20]
Paul-André Rosental, “Construire le 'macro' par le ‘micro’: Fredrik Barth et la microstoria”, in Jacques Revel (ed.), Jeux d’échelles: la micro-analyse à l’expérience, Gallimard: Seuil, 1996, pp. 141-159.
イタリアの社会的ミクロストリアの方法に関する考察。この方法は、多角的アプローチと混同されることがあるが、著者はフレデリック・バルトの議論を参照することで両者の違いを説明している。社会的ミクロストリアとは、諸々の行動を、その頻度にかかわらず(統計上の少数と多数は同じ地位にある)、「同じ」プロセスで説明できるような生成モデルの構築を目指すアプローチである。

[21]
Simona Cerutti, “Microhistory: Social Relations versus Cultural Models”, in Anna-Maija Castrén, Markku Lonkila, and Matti Peltonen (eds.), Between sociology and history: essays on microhistory, collective action, and nation-building, Finnish Literature Society, 2004, pp. 17-40.
イタリアのミクロストリアには「文化的」アプローチと「社会的」アプローチという異なる二つの方向性があった。こうした従来のラベルを批判し、社会的ミクロストリアの延長線上に両者を橋渡しする新たなミクロストリアを構築しようとした論文。

[22]
Michel Vovelle, “Serial History or Case Studies: a Real or False Dilemma in the History of Mentalities?”, Eamon O’Flaherty (trans.), Ideologies and Mentalities, The University of Chicago Press, 1990, pp. 232-245.
数量的研究(系の歴史学)を批判する形で1970年代以降に復活してきたケーススタディの隆盛に対して、心性史における数量的研究の第一人者として知られる著者が応答した論考。数量的研究とケーススタディのメリットとデメリットを指摘しつつ、両者の視点がともに必要であり両立可能であることを認めている。

[23]
Claire Lemercier and Claire Zalc, “Quantitative History from Peak to Crisis”, Quantitative Methods in the Humanities : An Introduction, University of Virginia Press, 2019, pp. 7-27.
同論考は、人文科学における数量的研究入門の序論である。1970年代以降、数量的方法への批判がイタリアのミクロストリアを筆頭に生じた。著者らは、そうした批判を真剣に受け止めたうえで新たな数量的研究の方法と利点について説明し、質的と量的という現在の不幸な分業を克服しようとする。第四回の先端研研究会のレジュメも参照のこと。

[24]
Claire Lemercier and Claire Zalc, “Quantification, Networks, and Trajectries”, Quantitative Methods in the Humanities : An Introduction, University of Virginia Press, 2018, pp. 101-125 (chapter 5).
同論考は、人文科学における数量的研究入門の第五章。ネットワーク分析とイベントヒストリー分析を中心に量的分析の多様な手法とその利点が説明される。こうした分析手法は、マイノリティ的な変種や個人の行為主体性を無視することなく、一般的な結論を導きだす方法として注目されている。

[まとめ]
歴史学における質的研究の方法論サーベイのまとめ
本稿は、領域開拓プログラム「分野間比較を通した質的研究アプローチの再検討」の一環として実施された歴史学分野における文献サーベイである。


ジェンダー研究/フェミニスト方法論

担当者:永山理穂

[1]
Naples, Nancy A., and Barbara Gurr, 2014, “Feminist Empiricism and Standpoint Theory: Approaches to Understanding the Social World,” Hesse-Biber, Sharlene Nagy eds., Feminist Research Practice: A Primer, Thousand Oaks: Sage Publications, 14-41.
本稿は、フェミニスト方法論およびフェミニスト認識論の解説書として高い評価を得ているFeminist Research Practice: A Primerの第二版に収録されている。本稿では、フェミニスト認識論のうち、フェミニスト経験主義[feminist empiricism]とフェミニスト・スタンドポイント理論[feminist standpoint theory]についての解説がなされる。

[2]
Davis, Kathy, 2008, "Intersectionality as Buzzword: A Sociology of Science Perspective on What Makes a Feminist Theory Successful,” Feminist Theory, SAGE Publications, 9(1): 67-85.
本稿は、フェミニズム理論において「インターセクショナリティ[intersectionality]」という概念が著しく普及した、その成功の理由を論じたものである。2022年7月14日時点の被引用数は3808で、インターセクショナリティを論じるに当たっての重要文献として位置づけられている。

[3]
Jayaratne, Toby Epstein and Abigail J. Stewart, 2008, “Quantitative and Qualitative Methods in the Social Sciences: Current Feminist Issues and Practical Strategies,” Jaggar, Alison M.ed., Just Methods: An Interdisciplinary Feminist Reader, Routledge, 44-57.
本稿は、フェミニスト方法論を網羅的にカバーした著作として評判の高いJust Methods: An Interdisciplinary Feminist Reader (Alison M. Jagger 編、2008年)に収録されている。本稿は、フェミニストによって提起されてきた定量的研究と定性的研究の使い分けに関する議論を概観したのち、研究にフェミニスト的視点を導入するための戦略を提示している。

[4]
Sprague, Joey, 2016, “How Feminist Count: Critical Strategies for Quantitative Methods,” Feminist Methodologies for Critical Researchers: Bridging Differences Second Edition, Rowman and Littlefield Publishers, 95-143.
本稿の著者であるJoey Sprague(カンザス大学教授)は、フェミニスト方法論における著名な研究者の1人である。本稿は、フェミニスト方法論の入門書として名高いFeminist Methodologies for Critical Researchers: Bridging Differencesの第2版に収録されている。本稿では、定量的研究の課題が整理されたのち、フェミニスト研究者たちがいかにそれらの課題に対処してきたのかについて説明がなされている。

[5]
Sprague, Joey, 2016, “Qualitative Shifts: Feminist Strategies in Field Research and Interviewing,” Feminist Methodologies for Critical Researchers: Bridging Differences Second Edition, Rowman and Littlefield Publishers, 145-193.
本稿は、⑷と同様、フェミニスト方法論の入門書として名高いFeminist Methodologies for Critical Researchers: Bridging Differencesの第2版に収録されている。本稿では、従来の定性的方法論に対するフェミニストによる批判が紹介されたのち、定性的方法論の問題点に対処するためにフェミニストが用いてきた戦略が示される。

[6]
Ramazanoglu, Caroline and Janet Holland, 2002, “Escape from Epistemology? The Impact of Postmodern Thought on Feminist Methodology”, Feminist Methodology: Challenges and Choices, SAGE Publications, 81-101.
本稿は、フェミニスト方法論の理論および実践を体系的に整理したFeminist Methodology: Challenges and Choicesに収録されている。本稿は、ポストモダン思想がフェミニスト方法論に与えた影響について論じている。

[7]
Sprague, Joey, 2016, “Seeing through Science: Epistemologies,” Feminist Methodologies for Critical Researchers: Bridging Differences Second Edition, Rowman and Littlefield Publishers, 33-62.
本稿は、⑷と同様、フェミニスト方法論の入門書として名高いFeminist Methodologies for Critical Researchers: Bridging Differencesの第2版に収録されている。本稿では、フェミニスト方法論の認識論として、実証主義、構築主義、批判的実在論、スタンドポイント理論が紹介されたのち、スタンドポイント理論の有効性が論じられる。

[8]
Gunnarsson, Lena, 2017, "Why We Keep Separating the ‘Inseparable’: Dialecticizing Intersectionality," European Journal of Women’s Studies, 24(2): 114-127.
本稿の著者であるLena Gunnarson(スウェーデン・エレブルー大学講師)は、フェミニスト理論の専門家であり、近年はフェミニスト批判的実在論に関する論考を多数執筆している。本稿は、2017年にEuropean Journal of Women’s Studiesに掲載されたのち、フェミニスト批判的実在論の体系的成果であるVan Ingen et al. eds., 2020, Critical Realism, Feminism, and Gender: A Reader, New York: Routledge.に再掲されている。本稿は、交差性カテゴリーの分離可能性/不可分性をめぐる議論における、二者択一的な思考法を問題視し、弁証法的批判的実在論に依拠しながら交差性を捉えることを提案する。

[9]
Gunnarsson, Lena, 2011, " A Defence of the Category ʻWomenʼ," Feminist Theory, 12(1): 23-37.
本稿は⑻の著者であるLena Gunnarson(スウェーデン・エレブルー⼤学講師)による論考である。本稿は、2011 年にFeminist Theory に掲載されたのち、フェミニスト批判的実在論の体系的成果であるVan Ingen et al. eds., 2020, Critical Realism, Feminism, and Gender: A Reader, New York: Routledge.に再掲されている。本稿は、ポストモダン・フェミニズム以降のフェミニスト理論における、「⼥性」カテゴリーの忌避傾向を問題として捉え、その背景に存在する概念的混乱を整理する。筆者は、批判的実在論の⽴場を援⽤し、フェミニスト理論において「⼥性」カテゴリーをいかに打ち⽴てることができるのかについて検討する。

[10]
Carbin, Maria and Sara Edenheim, 2013, “The Intersectional Turn in Feminist Theory: A Dream of a Common Language?” European Journal of Women's Studies, 20(3): 233-248.
Maria Carbin はスウェーデンのウメオ⼤学社会科学部教授、Umeå Centre for Gender Studies(UCGS)教授で、マルクス主義フェミニズム的な反資本主義闘争、ジェンダーに基づく暴⼒などの論考がある。Sara Edenheimは同⼤学歴史学准教授、UCGS上級講師で、フェミニスト理論・批判的政策分析をしている。本論⽂は、フェミニズム理論における交差的転回が、いかにして成功したのかが分析されている。筆者たちは、フェミニズム理論における交差性の広範な取り込みが、この分野における議論を曖昧にする可能性を指摘している。

[11]
Brisolara, Sharon, 2014, “Feminist Theory: Its Domain and Applications,” Brisolara, Sharon, Denise Seigart and Saumitra SenGupta eds., Feminist Evaluation and Research: Theory and Practice, The Guilford Press, 3-41.
本論文の著者であるSharon Brisolaraは、コーネル大学哲学科で博士号(Program Evaluation and Planning)を取得した。彼女は、政策やプログラムを評価するプログラム評価者であり、北カリフォルニアにある政策評価組織Evaluation Solutionsを経営している。 本稿は、フェミニズム理論とフェミニスト方法論を政策評価の実践に取り入れるために著されたFeminist Evaluation and Research: Theory and Practiceの冒頭章であり、主要なフェミニスト方法論が網羅的に紹介されたのち、フェミニスト的な政策評価のための8つの原則を提示している。

[12]
Frost, Samantha, 2011, "The Implications of the New Materialisms for Feminist Epistemology," Heidi E. Grasswick ed., Feminist Epistemology and Philosophy of Science: Power in Knowledge, Springer: 69-83.
本論文の著者であるSamantha Frostは、イリノイ大学Political Science, Gender and Women’s Studies教授で、専門は政治理論、新物質論およびフェミニズム理論である。 本論文は、Heidi E. Grasswick編Feminist Epistemology and Philosophy of Science: Power in Knowledgeに第4章として収録されている。本稿で筆者は、新唯物論new materialismの概要を解説したうえで、それがフェミニスト認識論にとって有益であることを示している。

[13]
Schuster, Julia, 2021, "A Lesson from ʻCologneʼ on Intersectionality: Strengthening Feminist Arguments against Right-Wing Co-Option," Feminist Theory, SAGE Publications, 22(1): 23-42.
本論文の著者であるJulia Schusterはオーストリア・リンツのヨハネス・ケプラー大学Womenʼs and Gender Studiesに所属している。近年の論文は、フェミニズム理論、労働市場における女性差別、オーストリアにおけるエスニック・マイノリティ差別などを題材としている。 本論文は、2015年の大晦日にケルンで起こった性暴⼒事件についての主要メディアの報道に対するフェミニストの反応を分析し、インターセクショナリティ概念を適用したことによって、フェミニストの主張に矛盾が生じたことを主張している。

[14]
Ramazanoglu, Caroline and Janet Holland, 2002, “Escape from Epistemology? The Impact of Postmodern Thought on Feminist Methodology”, Feminist Methodology: Challenges and Choices, SAGE Publications, 41-82.
本稿は(6)と同様、フェミニスト方法論の理論および実践を体系的に整理したFeminist Methodology: Challenges and Choicesに収録されている。本稿では、真実truthと客観性objectivityという概念に対して、フェミニストたちがいかなる方法論的態度をとってきたのかが説明される。

[15]
Clegg, Sue, 2020, “Agency and Ontology Within Intersectional Analysis,” Van Ingen, Michiel, Steph Grohmann, and Lena Gunnarsson eds., Critical Realism, Feminism, and Gender: A Reader, New York: Routledge, 163-179.
本論文の著者であるSue Cleggはリーズ ・ベケット大学名誉教授であり、批判的実在論とフェミニスト理論、高等教育論を専門とする。 本稿で著者は、インターセクショナリティ論において、構造とエージェンシーの間の分析的区別が曖昧になってしまうことを問題視する。著者はこの問題に対処するために、批判的実在論者であるMargaret Archerの議論を援用し、批判的実在論を採用することがインターセクショナリティ論の再考において有用であると主張する。

[16]
Ramazanoglu, Caroline and Janet Holland, 2002, “From Truth/Reality to Knowledge/Power: Taking a Feminist Standpoint”, Feminist Methodology: Challenges and Choices, SAGE Publications, 81-101.
本稿は(6)と同様、フェミニスト方法論の理論および実践を体系的に整理したFeminist Methodology: Challenges and Choicesに収録されている。本稿は、主要なフェミニスト方法論のひとつとして挙げられるフェミニスト・スタンドポイント理論について概説している。

[17]
Grasswick, Heidi E., 2011, “Introduction: Feminist Epistemology and Philosophy of Science in the Twenty-First Century,” Heidi E. Grasswick ed., Feminist Epistemology and Philosophy of Science: Power in Knowledge, Springer, xiii-xxx.
本稿は、フェミニスト認識論およびフェミニスト科学哲学の議論を体系的に整理したFeminist Epistemology and Philosophy of Science: Power in Knowledgeの冒頭章である。本稿は、本論文集に寄稿された論考の背景を示すために、過去25年間におけるフェミニスト認識論に関する議論を整理する。

[18]
Bilge, Sirma, 2013, "Intersectionality Undone: Saving Intersectionality from Feminist Intersectionality Studies," Du Bois Review, 10(2): 405-425.
著者のSirma Bilgeはモントリール大学社会学部教授で、インターセクショナリティ理論の専門家であり、これまでに多数のインターセクショナリティに関する論考を執筆している。本稿は、インターセクショナリティがフェミニスト学界でかつてないほど国際的な評価を得ている今、学問的フェミニズムdisciplinary feminismが、それを再構成し弱体化させる実践に携わっていることを指摘している。2023年4月現在の本稿の引用数は882であり、インターセクショナリティに関する代表的な論考として位置付けられている。

[まとめ]
フェミニスト方法論に関する文献レビューのまとめ
本稿は、領域開拓プログラム「分野間比較を通した質的研究アプローチの再検討」の一環として実施されたフェミニスト方法論に関する文献レビューのまとめである。


政治学

担当者:狩谷尚志

[1]
Gerring, J. (2017) Qualitative Methods, in Annual review of political science, 20(1), 15-36.
本稿は、比較政治並びに定性的方法論を専門とするジョン・ゲリングによる、定性的手法と定量的手法に関する研究者間の議論を検討したレビュー論文である。定性・定量的研究それぞれの定義を確認したうえで、両手法の差異と親和性に関する論点が提示される。

[2]
Julia Lynch and Martin Rhodes (2016) Historical Institutionalism and the Welfare State. O.Fioretos, T. G. Falleti, and A. Sheingate eds.The Oxford Handbook of Historical Institutionalism, Oxford University Press.
本論文は、2016年に出版されたオックスフォードハンドブック「歴史的制度論」に収められている。福祉国家研究において影響力を有する「歴史的制度論」の発展の過程と理論的特徴を明らかにしている。

[3]
Mahoney, J. (2010) After KKV: The New Methodology of Qualitative Research, in Worldpolitics, 62(1), 120-147.
本稿は、比較歴史分析と定性的方法論を専門とするジェイムズ・マホニーによる論文である。本論は同著者による(2012)“A Tale of Two Cultures: Qualitative and Quantitative Research in the Social Sciences ”の2年前に公開されており、KKV以降の定性的方法の発展について検討を行っている。

[4]
Ezequiel, González-Ocantos, 2020, “Designing Qualitative Research Projects: Notes on Theory Building”, Case Selection and Field Research, in Luigi, Curini and Robert, Franzese (eds.), The Sage Handbook of Research Methods in Political Science and International Relations, Los Angeles, SAGE, pp. 104-120.
本稿は、政治学・国際関係論に関する定性的・定量的方法論を幅広くカバーした最新の著作、”SAGE Handbook of Research Methods in Political Science and International Relations”に収められた論文である。本稿では特に、定性的研究における特定事例の適切な理解、過程追跡の遂行、説明の妥当性を得るために必要な研究設計について、理論・モデル設定の重要性という観点から検討を行っている。

[5]
Yanow, D. and P. Schwartz-Shea (2010) “Perestroika Ten Years After: Reflections on Methodological Diversity”, Political Science and Politics, Cambridge University Press, 43(04), pp. 741 - 745.
本稿は、解釈的手法並びにその哲学的基礎を専門とするDvora Yanowと、政治学を専門とするPeregrine Schwartz-Sheaの共著による論文であり、両者による解釈的手法の明確化を試みた書籍(『解釈的リサーチデザイン(2012年出版)』)の2年前に公表された論文である。当該論文では、アメリカ政治学会において生じた定量的手法と解釈的手法に関する論争(「ペレストロイカ」論争)とその影響を、年表を用いて振り返るとともに、論争以降に進展した「政治学研究の多様性」の内容が示されている。

[6]
Yanow, D. and P. Schwartz-Shea (2014) " Wherefore “Interpretive” An introduction”, in Yanow, D. and P. Schwartz-Shea (2014) Interpretation and Method: Empirical Research Methods and the Interpretive Turn. Armonk, NY and London, M.E. Sharp. pp.xiii-xxxi.
本稿は、解釈的手法並びにその哲学的基礎を専門とするDvora Yanowと、政治学を専門とするPeregrine Schwartz-Sheaの編著による、Interpretation and Method: Empirical Research Methods and the Interpretive Turn 第2版の冒頭に収められた論文である(初版:2006年)。序章にあたる当該論文は、本著全体の検討課題とともに解釈的アプローチの定義や特徴、その多様性について図表とともに検討を行っている。

[7]
Imke Harbers and Matthew C. Ingram(2020) " Mixed-Methods Designs “ in Luigi Curini, Robert Franzese eds, The Sage Handbook of Research Methods in Political Science and International Relations, Los Angeles, Sage, pp. 1117-1132.
本稿は、政治学・国際関係論に関する定性的・定量的方法論を幅広くカバーした著作、”SAGE Handbook of Research Methods in Political Science and International Relations”に収められた論文である。混合手法の最新の研究動向が示されるとともに、その特徴及び課題について考察が行われている。

[8]
Adam McCauley and Andrea Ruggeri (2020) "Chapter 2: From Questions and Puzzles to Research Project, in Luigi Curini, Robert Franzese eds, The Sage Handbook of Research Methods in Political Science and International Relations, Los Angeles, Sage, pp.27-43.
本稿は、政治学・国際関係論に関する定性的・定量的方法論を幅広くカバーした最新の著作、”SAGE Handbook of Research Methods in Political Science and International Relations”に収められている。オックスフォード大学にて反乱や政治的暴力に関する研究を行っているA. McCauleyと、同大学にて平和維持、内戦や政治的暴力を研究テーマとするA. Ruggeriの共著論文である。本論文は、政治学・国際関係論が検討対象とするリサーチクエスチョンの種類とその設定方法について、図表・リストを用いて考察を行っている。

[9]
James Mahoney (2016) "Causality and Time in Historical Institutionalism" in O. Fioretos,T. G. Falleti and A. Sheingate(eds.), The Oxford Handbook of Historical Institutionalism, Oxford University Press, pp. 71-81.
本論文は、2016年に出版されたオックスフォードハンドブック「歴史的制度論」に収められている。本稿は、「歴史的制度論」の鍵概念である「クリティカル・ジャンクチャー」、「漸進的変化」、「経路依存性」に着目し、各概念が含意する因果と時間の関係について、図表を用いて明確化している。

[10]
Chiara Ruffa (2020) "Chapter 59: Case Study Methods: Case Selection and Case Analysis,, in Luigi Curini, Robert Franzese eds, The Sage Handbook of Research Methods in Political Science and International Relations, Los Angeles, Sage, pp. 1133-1147.
本稿は、政治学・国際関係論に関する定性的・定量的方法論を幅広くカバーした最新の著作、”SAGE Handbook of Research Methods in Political Science and International Relations”に収められた論文である。特に、定性的・定量的手法における事例研究の位置付けについて検討を行っている。

[11]
Edwin Amenta and Alexander M. Hicks (2021) Research Methods . Daniel Béland, Kimberly J. Morgan, Herbert Obinger, and Christopher Pierson eds. The Oxford handbook of the welfare state, Oxford University Press, 2021. 133-152
本稿は、2010年の初版出版時に「福祉国家研究に関する最も信頼できる論集」と評価されたオックスフォードハンドブックが、全面的な改訂を経て2021年に出版した第2版に収められている。上記論文は、主に福祉国家研究のアプローチを因果型研究(causal research)という観点から整理し、それぞれの研究アプローチの意義と課題を指摘している。

[12]
Xymena Kurowska and Berit Bliesemann de Guevara (2020) "Interpretive Approaches in Political Science and International Relations”,, in Luigi Curini, Robert Franzese eds, The Sage Handbook of Research Methods in Political Science and International Relations, Los Angeles, Sage, pp. 1133-1147.
本稿は、政治学・国際関係論に関する定性的・定量的方法論を幅広くカバーした最新の著作、”SAGE Handbook of Research Methods in Political Science and International Relations”に収められた論文である。当該論文では、政治学・国際関係論における解釈的アプローチの位置付けと研究上の特徴について検討を行っている。

[13]
John S. Dryzek(2006) Revolutions Without Enemies: Key Transformations in Political Science, in The American political science review, 100(4),487-92.
本稿は、熟議民主主義論と環境政治に関する著作で知られるジョン・ドライゼクによる研究論文である。本稿では主にアメリカにおける政治学の歴史的変遷を考察している。具体的に、1880年代から1990年代にかけてのアメリカにおける政治学の発展を、四つの学術的「運動」として検討し、19世紀後半の国家論と20世紀中盤の行動科学主義が、アメリカにける政治学の認識を転換させたと指摘する。

[14]
Keating Michael(2009)“Putting European political science back together again” in European Political Science Review : EPSR, Cambridge, 1:2, pp. 297-316.
M.キーティングは、ヨーロッパ政治、ナショナリズム、地域政治を専門とする政治学者である。本稿は、欧州・ヨーロッパにおける政治学の研究動向を、実証主義的研究と解釈主義的研究の展開という観点から整理している。本稿は上記の整理を踏まえ、今後の政治学が考慮すべき三つの要素として社会的文脈、歴史(時間と空間)、規範性を取り上げ、異なる手法が相互に共存することを許容するという意味での、方法論的多元主義の重要性を主張する。

[15]
P. Schwartz-Shea and D. Yanow (2012) “SPEAKING ACROSS EPISTEMIC COMMUNITIES”, in P. Schwartz-Shea and D. Yanow (2012) Interpretive Research Design: Concepts and Processes, Routledge, pp.130-139.
本稿は、解釈的手法並びにその哲学的基礎を専門とするDvora Yanowと、政治学を専門とするPeregrine Schwartz-Sheaの共著による論文であり、両者による解釈的手法の明確化を試みた書籍Interpretive Research Design: Concepts and Processes(『解釈的リサーチデザイン:概念と過程』)の最終章に収められている。本稿では、実証主義的研究と解釈主義的研究という異なる認識論的コミュニティを横断する手法として混合手法を取り上げ、考察を行っている。

[16]
P. Schwartz-Shea, 2014 “Judging Quality : Evaluative Criteria and Epistemic Communities”, in Yanow, D. and P. Schwartz-Shea, 2014 Interpretation and Method: Empirical Research Methods and the Interpretive Turn. Armonk, NY and London, M.E. Sharp. pp.120-146.
本稿は、解釈的手法並びにその哲学的基礎を専門とするDvora Yanowと、政治学を専門とするPeregrine Schwartz-Sheaの編著による、Interpretation and Method: Empirical Research Methods and the Interpretive Turn 第2版の冒頭に収められた論文である(初版:2006年)。7章にあたる当該論文は、解釈的研究の評価基準に関するこれまでの研究レビューを行った上で、解釈的研究を評価する際の七つの基準を新たに提示している。

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