社会学研究分野

  「社会学研究分野」は、社会の構造とその動態を総合的に明らかにし、学んでいくためのユニットです。この分野の教員の専門は、社会学史、社会理論、政治社会学、環境社会学、社会ネットワーク分析、計量社会学、社会階層論、文化の社会学、観光研究、都市社会学、国際社会学、国際移動研究、移民政策論、ジェンダーの社会理論、ジェンダー・セクシュアリティ研究、歴史社会学、戦争社会学、教育社会学、労働社会学、スポーツ社会学など多岐にわたっています。

※ 各研究分野の詳細については社会学部履修ガイドを参照してください

1. 社会学の考え方

 社会学は、「さまざまな社会現象を、人間生活の共同という視角から研究する社会科学の一分野」を意味します。したがって社会学は、ミクロからマクロに至る多様な社会現象に取り組むことになります。しかしそれらはいずれも、次の問いに対する答えを探っていると言えます。

第一の問い:人はなぜ、共同し合うのか?
 人間は、共同することによって、一人では実現できなかった大きな夢や目標を達成することが可能になる。それを支える仕組みはいったい何か。人々を「つなげる」ものとは何か。
第二の問い:人はなぜ、自分で作ったはずの社会によって、逆に不自由になってしまうのか?
 しかし、こうして生まれた仕組みは、いつの間にか人間にとって疎遠なものとなり、むしろ多くの不自由をもたらす固い殻(=構造)になってしまう。それはなぜなのか。
第三の問い:人はどのようにして、社会を変えていくことができるのか?
 冷たく固い殻になってしまった社会を、人はいかに変えていくことができるのか。そのための条件とはいったい何だろうか。

 そして、これらの問いに答えを与えていくためには、さまざまな社会現象に関心をもち、それを解き明かすために必要な理論と方法をしっかりと習得し、さらに具体的なトピックに向けて習得した理論と方法を適用していくことが必要になります。

2. 学び方

 上の課題に取り組み、それを深めていくためには、自分がどのような社会現象に関心をもっているのかを自覚し、以下の科目群を体系的に学んでいくことが求められます。

1)社会学的思考法の歴史、理論的基礎に関する科目群
 取り上げる対象が多岐にわたる社会学ですが、その背後には社会学共通の思考法があり、それは歴史的な蓄積を踏まえています。社会学理論を学ぶことで、バラバラに見えていた社会現象のつながりを理解すると同時に、その「まとまって」見えるようになった社会現象の見方には、実は非常に多様な理論的視角があることを理解できるようになります。

2)社会学的思考法をもとに各自が関心をもつテーマ・分野に関する知識を深める科目群
 社会学理論は社会学史を通じて学ぶことができますが、現実の社会との対話を通じてアップデートしていくことが欠かせません。計測可能な数値を用いる数理社会学や計量社会学、歴史的な視角から社会の変動を分析する歴史社会学、特定の地域に注目してなされる都市社会学、他にも、政治社会学、環境社会学、社会階層論、文化の社会学、観光研究、国際社会学、ジェンダー・セクシュアリティ研究、戦争社会学、教育社会学、労働社会学、スポーツ社会学などがあり、それぞれのテーマや領域に焦点をあてながら、現状の社会の仕組みのあり方とその変動可能性を分析していきます。

3)社会分析・社会調査の方法に関する科目群
 理論と実証の対話は、きちんとした方法に基づいてこそ成り立つものです。社会調査とは、社会学徒のみならずひろく社会科学者が、社会の仕組みや人びとの暮らしの現実をさぐり、人間の行為とそれを支える論理に分け入っていくため、対象について調査・観察し、その結果を記述・分析していく営みと方法のことです。

3. 社会調査士資格について

 一橋大学社会学部では、社会調査に必要な科目を多面的に学ぶカリキュラムを用意しています。これらは、一般社団法人社会調査協会が認定する「社会調査士」という資格制度にも対応したカリキュラムとなっていますので、これらの科目を体系的に学ぶことで社会調査のリテラシーを習得するだけでなく、社会調査士の資格取得の申請も可能になっています。
 一般社団法人社会調査協会が定めている社会調査士の「標準カリキュラム」(A~G)と社会学部で開講する科目との対応関係はつぎのようになります。


 基礎科目と発展科目の配置、ならびに各科目の開講予定(毎年開講されるものと1年おきに開講されるもの、特定の年度のみ開講されるものがある)を考慮しながら、履修計画を立ててみるとよいでしょう。資格取得について詳しくは、本学社会調査士/専門社会調査士資格制度ホームページ(https://www.soc.hit-u.ac.jp/~hccsr/)、および一般社団法人社会調査協会ホームページ(https://jasr.or.jp/)を参照してください。

4. 参考文献

長谷川公一・浜日出夫・藤村正之・町村敬志『社会学 新版』有斐閣、2019年
アンソニー・ギデンズ『社会学』(第5版)松尾精文他訳、而立書房、2009年
玉野和志『ブリッジブック 社会学』(第2版)信山社、2016年
中島道男・岡崎宏樹・小川伸彦・山田陽子(編)『社会学の基本――デュルケームの論点』学文社、2021年
エミール・デュルケーム『社会学的方法の規準』菊谷和宏訳、講談社、2018年
アルバート=ラズロ・バラバシ『新ネットワーク思考』青木薫訳、NHK出版、2002年
ランドル・コリンズ『脱常識の社会学第二版』井上俊・磯部卓三訳、岩波書店、2013年
多田治『社会学理論のエッセンス』学文社、2011年
井坂康志・多田治『ドラッカー×社会学 コロナ後の知識社会へ』公人の友社、2021年
多田治『旅と理論の社会学講義』公人の友社、2023年
長谷川公一・品田知美『気候変動政策の社会学――日本は変われるのか』昭和堂、2016年
筒井淳也『仕事と家族――日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』岩波書店、2015年
永吉希久子『移民と日本社会』中央公論新社、2020年
梶田孝道(編)『新・国際社会学』名古屋大学出版会、2005年
宮島喬・佐藤成基・小ヶ谷千穂(編)『国際社会学』有斐閣、2015年
宮島喬・梶田孝道・小倉充夫・加納弘勝(監修)『講座 国際社会』(全7巻)東京大学出版会、2002年
小井土彰宏(編)『移民受入の国際社会学』名古屋大学出版会、2017年
森千香子『排除と抵抗の郊外――フランス〈移民〉集住地域の形成と変容』東京大学出版会、2016年
吉野耕作『文化ナショナリズムの社会学』名古屋大学出版会、1997年
小泉康一(編)『「難民」をどう捉えるか――難民・強制移動研究の理論と方法』慶応義塾大学出版会、2019年
佐藤文香監修/一橋大学社会学部佐藤文香ゼミ生一同『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた――あなたがあなたらしくいられるための29問』明石書店、2019年
伊藤公雄・牟田和恵(編)『全訂新版ジェンダーで学ぶ社会学』世界思想社、2015年
加藤秀一『はじめてのジェンダー論』有斐閣、2017年
千田有紀・中西祐子・青山薫『ジェンダー論をつかむ』有斐閣、2013年
弓削尚子『はじめての西洋ジェンダー史――家族史からグローバル・ヒストリーまで』山川出版社、2021年
ソニア・O.ローズ『ジェンダー史とは何か』長谷川貴彦・兼子歩訳、法政大学出版局、2017年
ポール・ウィリス『ハマータウンの野郎ども』ちくま学芸文庫、1996年
広田照幸『教育』(思考のフロンティア第Ⅱ期)岩波書店、2004年
濱口桂一郎『新しい労働社会――雇用システムの再構築へ』岩波新書、2009年
小川慎一・山田信行・金野美奈子・山下充『「働くこと」を社会学する――産業・労働社会学』有斐閣、2015年

(事典など)
『社会学小辞典 新版増補版』有斐閣、2005年
『社会学文献事典 縮刷版』弘文堂、2014年
『現代社会学事典』弘文堂、2012年
『コミュニティ事典』春風社、2017年
『社会調査事典』丸善、2014年