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2009年度第5回コロキアム報告書

最終変更日時 2010年01月27日 18時05分

「企画と実践」成果報告会 ――方法としての現地調査について考える――

1. 概要


(1) 日時:2009年12月8日(火)11:45?13:00
12月10日(木)11:45?13:00
(2) 場所:マーキュリータワー3508室(8日)
3409室(10日)
(3) 参加人数:のべ3名
(4) 告知方法:ポスター掲示,院生・教員一斉メール,
ゼミでの案内状の配布
(5) 報告者(報告順)

  1. 田口陽子氏(文化人類学,インド研究)
  2. 田邊佳美氏(国際社会学,フランス研究)
  3. 岩崎茜氏(環境倫理学)
  4. 丸山雄生氏(大衆文化史,アメリカ研究)

(6) スタッフ

  1. 企画と司会進行:佐藤
  2. 進行補助:荒木淳子先生
  3. 設営:RAの皆様


2. 目的――各報告者の事例にもとづき以下を理解する。

  1. 若手研究者研究調査助成(以下、「企画と実践」)による短期間の調査で最大の成果をあげ、博士論文の一部とするためのノウハウを学ぶ。
  2. 調査の「準備」、「手法」、「実践」それぞれにおいて必要な心構えと準備について、以下の点に焦点をあてながら理解する。

(1) FWと研究室や図書館での勉強との相違,つながりはどのようなものか。
(2) 仮説検証型FWの場合、どのように事前準備を行い、現場でデータを集めるのか。

3. 内容

<1日目>



<2日目>


4. コロキアムの要約

本コロキアムでは、各分野から4名の院生を招聘し、博士論文執筆を目的とした短期間の調査で用いた手法について報告していただいた。各報告の要旨は以下のとおり。

第一日目:人類学・社会学の視点から

(1) 田口陽子氏報告

  • 田口氏は「インド、ムンバイの商店街における公共性と地域主義の台頭に対する人類学的調査」と題し、2009年7月25日〜9月29日にかけて予備調査を実施した。調査の焦点は、地域主義の台頭として語られることの多い、極右政党の現地語化政策とヒンドゥー教の祭礼の拡大と組織化が、実際にはどのような文脈で起こっているのかという問題意識である。田口報告は、以上を明らかにすべく用いた手法を以下のごとく説明した。
  • まず田口氏は、のちに計画する長期的な調査で複雑な人間関係に組み込まれる前に、質問紙調査を通じて商店街の商人や従業員の社会的特質の把握をめざした。同時に、言語政策や祭礼についての聞き取り調査を行った。調査実施中には政府の税金調査や企業によるマーケティング調査と勘違いされることはあったものの、商人達の開放性も手伝って調査を遂行することができたという。また、田口氏は調査期間中になるべく多くの研究者と面会し、ネットワークを構築するとともに、調査の知見を補強していった。さらに、学校や家庭レベルでの祭礼・結婚式・旅行への参加を通じて、偶然に任せてさまざまな体験をした。


(2) 田邊佳美氏報告

  • 田邊氏は「『移民の記憶』を創造・実践する市民団体の活動調査――フランス・国立移民史シテに関与するアソシエーションの調査から」と題した調査を、2009年9月1日〜10月1日にかけて実施した。田邊氏は修士課程在学時にも「企画と実践」の助成を受けているが、今回の調査は博士論文のための予備調査として位置づけられる。修士論文では、移民の記憶を彼/彼女たちが所有権もつものとしてとらえ、それを承認する場(シテ)の設立をめざした国家と移民との新たな関係を分析した。今回の調査ではこうしたナショナルな文脈に加え、市民社会や移民自身による「移民の記憶」の保存と承認に対する利害関係を、聞き取りと資料収集をもとに分析した。
  • 今回の調査の経験にもとづき、田邊報告はつぎの点を強調した。まず、インターネットでの情報収集や質問票の作成は調査前に終了させることである。それにより、現地での先行研究や資料収集がスムーズに進み、また聞き取り調査に多くの時間を充てることができるという。つぎに、対象とする市民団体のネットワークがナショナルな文脈でどう解釈できるのかを把握するために、シテの設立にあたり中心的な役割をはたした組織のみならず、周辺的な役割を担った組織への聞き取りも必要であったことである。田邊氏は、以上を今後の長期調査に役立てたいという。


第二日目:倫理学・歴史学の視点から
(1) 岩崎茜氏報告

  • 岩崎氏は「アルド・レオポルドの自然環境思想に関する調査」と題し、2009年9月7日〜17日にかけて米国・ウィスコンシン州にて予備の文書調査・資料収集と聞き取り調査を行った。岩崎氏の調査は、「環境倫理学の父」と呼ばれるアルド・レオポルドの思想の分析を通じて、生態学的知識(科学・技術)と自然に対する考え方(倫理)との融合から、環境保護実践の倫理やそのシステムを構築するための予備的考察を目的とした。岩崎報告は、調査を(1)申請段階、(2)計画・実施段階前期、(3)実施段階後期に分け、各段階で必要になる心構えを以下のごとく説明した。
  • (1)の段階では、過去の研究の延長線上に当該研究を位置づけ、そのための調査が確実な成果を生みだす根拠を明示する必要がある。それにより、助成金を拠出する側を説得できるからである。
  • (2)の段階では、調査の焦点を絞るために、調査の「核」をどこにおき、何をするかを明確にする必要がある。また不測の事態への対応のために、日程に猶予を設ける必要がある。
  • (3)の段階では、現地にいる時に感じた「なぜ」を終始自分に問いかけ、雑感をつねにメモし、そこから感じたことを研究に生かす工夫が必要となる。


(2) 丸山雄生氏報告

  • 丸山氏は「動物の表象に注目した20世紀転換期のアメリカ文化史の再考」と題し、2009年8月30日〜9月21日にかけて、博士論文の補足調査として史資料の収集を行った。丸山氏の研究は、剥製技師・探険家、女性作家、映画作家による手記や新聞・雑誌等をてがかりに、エキゾチックな動物を媒介とした当時の米国の豊かさの文化と帝国主義の文化を横断的に検討している。丸山報告は、歴史学の文書調査かかる手法やノウハウを、以下に着目して説明した。
  • (1)大学図書館での調査では、長期休暇中のサービス制限に注意が必要である。(2)大規模の博物館での調査は、アーカイブの開館時間が短いこと、また写真や映像は保存状態に差があるため、閲覧に時間がかかり、それを克服するためには性能が向上した最近のカメラを用いる必要がある。(3)小規模の博物館での調査は、ライブラリアンとの密な連携が図れることがメリットである。
  • いずれの場所でも、資料収集の効率化を図るための「分類」は必須である。また、社会史・文化史に関する調査では、対象となる人物の社会生活に関する資料は参考にはなりうるが、短期間の学術調査では資料価値の高い手紙や日記類、scrap booksに絞る必要がある。


5. 今後の課題

  1. 「企画と実践」の成果報告会は今回が3度目である。しかしながら、成果報告会は、参加者はもとより、報告者からも調査・研究活動をふり返るよき機会であると好評を博すものの、毎回参加者数が確保できない傾向にある。その問題として開催時期が挙げられる。とくに12月は投稿論文等の締め切りと重なっているため、別な時期での開催を検討する必要がある。
  2. 本コロキアムでは、一般の研究報告では得ることのない調査遂行上の苦労や工夫に焦点をあてたものの、通常のゼミとの「差別化」が各院生にうまく伝わらなかった。今後、同様のテーマで参加者数を増やすために、院生たちにどうアピールするか対策を講じる必要があろう。

以上