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2009年度第7回コロキアム報告書

最終変更日時 2010年03月25日 19時57分

多様な学力を抱えた大学での講義
―授業実践の苦労から再創造へ―

1. 概要
(1) 日時:2010年1月29日(金)13:00?15:30
(2) 場所:MT 3509室
(3) 参加人数:のべ17名
(4) 告知方法:ポスター掲示、院生・教員一斉メール、ゼミでの案内状の配布
(5) 報告者(報告順)

丸山真央助教(滋賀県立大学)

大竹晴佳講師(新見公立短期大学)

岩井美佐紀准教授(神田外語大学)

(6) スタッフ

企画と司会進行:佐藤

設営補助:福島賢二氏


2. 目的――各報告者の事例にもとづき以下を理解する。
(1) 就職の際に応募書類の作成や面接においてどのような工夫をしたか。
(2) 着任後に学生の学力と自らの期待水準とのギャップをどう克服したのか。

3. 内容

報告者(敬称略)と報告題目、および内容

第一部

佐藤 裕「導入セッション」

1報告

大竹晴佳「授業実践における課題と試み」

2報告

丸山真央「多様な学生を抱えた大学での講義――授業実践の苦労から再創造へ」

3報告

岩井美佐紀「『若手』OGの立場から」

第二部

質疑応答およびグループ討議


4. コロキアムの要約
本コロキアムは教育技能強化部門の「ティーチング・フェロー講習会B」の一環で開催された。本コロキアムでは、本研究科博士後期課程の修了生で、他大学で教鞭をとっている若手研究者に、いわゆる合格難易度が高くない大学において、どのような教育技能が求められており、またこうした大学への就職の際にはどのような点をアピールするのかをテーマとした。
第一部では、登壇者による報告がなされた。
まず、大竹晴佳講師からは、福祉国家論を専攻し日本の社会保障制度を研究している立場から、看護、地域保健、介護福祉の現場にでていく短大生たちに対して、どのように知識・技術の習得および思考力の涵養を図ってきたのかについての報告があった。大竹講師はその試みとして、知識の習得に充てる時間と、思考を深めることに充てる時間の区別を行っている。具体的には、各授業において考察したいことを明示し、社会福祉制度等のしくみの解説や映像の上映、地域社会の行事等への参加を通じて受講者に感想レポートの提出を求め、学生から引き出した言葉に理論・制度・歴史を重ねる作業を行うことである。現任校の学生たちは概してまじめであるが、テーマを充分理解して論述できる学生は一部にとどまるため、手足を動かして調べたことや、実感として感じたインパクトをもとに学習させることにより教育的効果が期待できるという。また、担当科目ひとつで授業を完結させるのではなく、自他が行う他の授業との接続、カリキュラム全体での位置づけ、卒業後にも現場を通じて発展するような教育の必要性が提案された。
つぎに、丸山真央助教からは、現任校ではなく、非常勤講師を務めた大学における社会調査教育の経験と、それにもとづく大学への就職活動経験についての報告があった。まず、社会調査法の授業では、数学的知識を平易にかつ学生の負担にならないように講じるために、授業開始時に講義の利得を説明し、また授業のアウトラインを示すなどの工夫が必要であることが示された。また、教育とは決して自己満足ではなく、何をどこまで教えるかを科目の性質と学生の水準の比較考量により見極める作業であることが強調された。さらに、「半径3メートルの人間関係」にしか興味を示さない多くの学生たちに対しては、「身近なところから語る」労を惜しまないことが重要であるという。丸山報告では、大学への就職、とりわけ面接の際の留意点にも言及された。面接では、着任後の教育について志望動機との関連で説明することが求められるが、そこでは当該学部の教育目標に沿った授業展開の可否や、組織への適応性などが問われることが示唆された。
最後に、岩井美佐紀准教授からは、外国語学習と海外の地域研究を主体とした大学での講義に関する報告があった。現任校は入試の受験科目が国語と英語のみで、少人数制をとり、自習・出席を重視、学生はコミュニケーション能力が高いものの論理的思考力が弱いところに特徴がある。こうした大学においては、学生のモチベーションを高め、維持する作業が必要となる。たとえば、テーマに対する学生の予備知識を前提としないこと、メリハリのある授業を構成すること、リアクションペーパーのフィードバックをもとに次回の授業の微調整を計ることが重要である。また、研究演習においては、「見た、聞いた、感じた」という体験記に終始しがちな学生に対して、研究書・論文を収集し、読みこなす能力の育成をどう図るかが教育の要となるが、その場合、課外活動(ゼミ旅行など)や「書く力」の養成の効果が大きいことが示された。
第二部では、第一部での報告を受けて、参加者から質疑応答が活発になされた。

5. アンケート回答者の属性
当コロキアムへの参加者は計17名であった。うちアンケート回答者は13名であった。グラフ1からも分かるとおり、参加者を占めるのは、博士後期課程の院生とジュニアフェローである。


表1:専攻別構成

専攻

人数

総合

11

地球

2

合計

16

表2:学年別構成

学年

人数

D1

1

D2

3

D3

2

OD

6

JF

1

合計

13


表3:男女別構成

性別

人数

7

6

合計

13


当コロキアムに対する満足度は高く、回答者13名のうち9名が「満足」、4名が「やや満足」と答えた。満足度に対する理由としては、以下が代表的であるが、いずれも大学での授業実践や教育経験をどう就職に活かすかに関して、多くの院生のあいだで関心が高いことを示すものである。

「授業を行う上での様々な問題を具体的に知ることができて、非常勤先での授業に生かせると思いました。」

「実践に基づいていた報告でした。特に、①学生の興味関心をどう導くか、②自分の関心と学生の関心の接合、③就職時のアドバイス、といった点で参考になった。」

また参加者たちからは、当コロキアムを通じて、授業の実践と運営にかかる具体的な工夫や取り組み等を学ぶことができたことが評価された。以下は参加者の声の一部である。

「研究と教育実践の乖離、社会科学と他分野との差異などを考慮に入れて、授業運営をやっていく必要があることを学んだ。」

「『思考力』をつけさせねばならないと思っていましたが、そのためにはさらにこまかく段階をふんで教育してゆく必要のあることがわかりました。」

6. 今後の課題

  1. 来年度以降も授業科目として展開するTF講習会に、今回のようなコロキアムをいかに組み込むかが課題である。とりわけ、OB・OGによる体験談は、院生のアカデミアにおける就職活動や教育技能の実践に対してきわめて有用な情報提供の手段として機能することが明らかであり、今後の継続が期待される。
  2. アンケートは本コロキアムのものと、TF講習会B全体に対するものとの2種類あったことから、アンケートへの回答は参加者にとって煩雑であったことが分かった。次回は一元化された、より簡潔なアンケートの実施が必要となろう。

以上