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博士論文要旨

論文題目:どのような相手であれば被排斥経験後に再親和できるのか―非排斥者の社会不安および再親和相手の集団成員性と集団の類似性からの検討―
著者:津村 健太 (TSUMURA, Kenta)
博士号取得年月日:2017年3月21日

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【本論文の章立て】
序章
0.1 はじめに
0.2 本研究における社会的排斥、およびその操作方法について
0.3 誰から排斥されるのか
0.4 本研究の概要
0.5 本論文の構成
1章 社会的排斥と攻撃行動・再親和
1.1 社会的排斥とその影響
1.2 被排斥経験後の反応―脅威を受けた欲求の充足―
2章 被排斥経験後の集団類似性の知覚と再親和
2.1 排斥経験後、誰に再親和を求めるか
2.2 再親和相手の見極めと集団類似性知覚
2.3 再親和相手の集団成員性、および集団の類似性知覚が再親和に与える影響
3章 社会不安と被排斥経験後の再親和
3.1 社会不安とは
3.2 社会不安と被排斥経験後の再親和
4章 本論文の目的と実証研究の概要
4.1 本論文の目的および仮説
4.2 実証研究の概要
5章 社会的排斥が集団の類似性の知覚に与える影響
5.1 実験1
5.2 実験2
5.3 実験1および実験2のまとめ
6章 再親和相手の集団成員性が被排斥経験後に再親和を求める程度に与える影響
6.1 実験3
6.2 実験4
6.3 実験3と実験4のまとめ
7章 集団類似性の知覚の低減が被排斥経験後に外集団成員に再親和を求める程度に与える影響
7.1 実験5
7.2 実験6
7.3 実験5と実験6のまとめ
8章 総合考察
8.1 実証研究の結果のまとめ
8.2 本研究の意義と今後の展望
8.3 結語
本論文の第一部では、社会的排斥や被排斥経験後の再親和に関する先行研究を概観し、本研究の目的について述べた。本研究の目的は、社会的排斥経験後に生じる認知上の変化と、その認知上の変化が被排斥経験後の再親和(新たに社会的なつながりを得ること)に与える影響を社会心理学的観点から検討することである。特に、これまでの研究で排斥経験後に他者に再親和を求めるのが困難である可能性が示されている、社会不安の高い人々がどのような相手であれば再親和を求めることができるのか検討する。
人は社会的動物であり、一人では生きていくことが出来ない。そのため、社会的排斥経験後には、再び他者とのつながりを得ることが重要である。実際にこれまでの研究で、人は排斥に敏感に反応し、排斥されると再親和を果たそうとすることが示されている。しかし、相手によっては再親和を得ることが難しい場合もあり、被排斥者は自身を受容してくれる可能性の高い他者を見極める必要があるだろう。そのため排斥されると、受容と排斥に関わる社会的カテゴリーにおいて、カテゴリー間の異同をより正確に区別できるようになると報告されている。他方でこの研究では、カテゴリー内に関しては、その異同を見極められなくなることが示された。このことから、カテゴリー内の事例同士の類似性の知覚が高まっていることが読み取れる。先行研究では個々の事例間での類似性の知覚が検討されているが、集団の類似性の知覚には、集団の全体的な同質性の知覚という側面も重要である。そこで本研究では、集団の類似性の知覚を集団内の成員間の類似性の知覚から成り立つ要素と、集団の全体的なイメージとしての類似性の知覚から成り立つ要素を併せ持つものとして定義し、被排斥経験後に受容と排斥に関わる社会的カテゴリーに対する類似性の知覚が高まるのか、集団(社会的カテゴリー)を用いて検討した。
また本研究では、集団の類似性の知覚の高まりが、被排斥経験後の再親和に与える影響を検討した。上述の通り、排斥を受けると人は再親和を得ようとする。しかしこれまでの研究で、他者とのコミュニケーションに不安を抱きやすい、すなわち社会不安の高い人は、排斥をされても他者に再親和を求められない可能性が示唆されている。それでは、社会不安の高い人々は、どのような人物に対してであれば再親和を求めることが出来るのであろうか。本研究では、集団成員性に着目し、社会不安の高い者であっても、内集団成員に対してであれば排斥経験後に再親和を求めることが出来るだろうと、予測した。集団の類似性の知覚が高まり内集団と外集団を峻別するようになることで、外集団を脅威だと知覚しやすい傾向がより強くなると考えられる。そのため、排斥を受け外集団に対する類似性の知覚が高まると、外集団成員に対して再親和を求めにくくなると考えられる。さらに、社会不安の高い人は、社会的な場面における脅威を過大視しやすいことから、この影響が顕著に表れると予測される。他方で、内集団の類似性の知覚が高まることで内集団への同一視が高まると考えられる。内集団への同一視が高まると、内集団やその成員に対してより愛着を感じ、また、内集団成員をより信頼するようになる。加えて、外集団と比べて内集団との相互作用は不安を喚起しにくい。これらのことから、内集団に対してであれば社会不安が高い人であっても再親和を求めることが出来る、と考えられる。
上述のように、被排斥後には外集団成員に対して再親和を求めにくくなると考えられるが、いつでも外集団成員との再親和を避けるべきなのであろうか。現代では社会的属性や社会的な役割や地位といったものをあまり伴わないような包括性の低い集団(e.g., 学校のクラス)の成員として自己を捉えることも可能である。外集団成員は脅威だと知覚されやすいが、上述のような包括性の低い社会的カテゴリーの場合には、外集団の成員であるというだけでは実質的な脅威とはならないと考えられる。単に外集団成員であるという理由だけで再親和を求めなくなってしまうことは、社会的なつながりを得る機会を逸してしまっているとも言える。そこで本研究では、外集団の類似性の知覚が高まることで外集団成員に対する再親和が阻害されているのであれば、外集団の類似性の知覚を低減させ多様性を知覚させることで外集団に対しても再親和を求めるようになるのか、検討した。
以上より、本研究の仮説をまとめると以下の通りとなる。
仮説1: 排斥を経験しなかった場合と比べて、排斥を経験した後の方が、集団の類似性の知覚が高まるだろう。
仮説2: 排斥されると、他者との再親和を求めるようになるだろう。その際、外集団成員に対してよりも、内集団成員に対しての方が、再親和を求める程度が高くなるだろう。この傾向は、社会不安の高い人々において、顕著に現れるだろう。
仮説3: 外集団に対する類似性の知覚の程度が高い時よりも低い時の方が、被排斥経験後に外集団成員に対して再親和を求める程度が高くなるだろう。

第二部では、上述の仮説を検討するために実施した、6つの実証研究について述べた。仮説1を検討するため、実験1および実験2を実施した。実験1では、参加者に架空のシナリオを読んでもらい、その場面に遭遇したところを想像してもらった。そのシナリオの内容により、排斥条件と受容条件に参加者を割り振った。シナリオを読んだ後は、男性と女性の類似性に関する質問に回答を求めた。実験の結果、受容条件と比べて排斥条件の方が、異性、つまり外集団に対する類似性の知覚が高くなっていた。しかし、同性、つまり内集団に対する類似性の知覚に関しては、受容条件と排斥条件の間に有意な差は見られなかった。外集団と比べて内集団の類似性を低く知覚する背景の一つとして、内集団ひいきなどの動機が存在していることが指摘されている。実験1では、類似性の知覚の測定に自己報告尺度を用いたが、個人の動機が反映されやすいと考えられるため、自己報告以外の測定法を用いて検討する必要がある。また、本実験は場面想定法での実験であり、実際に排斥を経験した際の知覚の変化を測定できていない。そこで、実験2ではサイバーボール (Cyberball) 課題を用い、参加者に実験室内で実際に被排斥状況を経験してもらった上で、集団内での性格特性の分布のヒストグラムを作成してもらい、類似性の知覚の程度を測定した。
実験2では初めに、参加者にサイバーボール課題に取り組んでもらい、そこで受容条件と排斥条件のいずれかに参加者を割り振った。その後、4つの集団(男性、女性、一橋生、慶応生)の成員について、性格特性が当てはまる程度についてのヒストグラムの作成を求めた。実験の結果、4つの集団のいずれにおいても、受容条件よりも排斥条件の方が、集団成員性に関わらず集団の類似性を高く知覚するようになることを示しており、本研究の仮説1を支持する結果が得られた。
続いて仮説2を検討するため、実験3、および実験4を実施した。実験3ではまず質問紙の冒頭で、参加者の社会不安の程度を測定し、参加者を社会不安の高群と低群に分割した。続いて、実験1と同様のシナリオを読んでもらい、参加者を受容条件と排斥条件のいずれかに割り振った。その後、実際にシナリオに書かれた出来事を経験したとしたら、その後にどのような行動を取ると思うか想像してもらい、同性に再親和を求める程度と、異性に再親和を求める程度を尋ね、前者の指標の得点から後者の指標の得点を引いた差分を、再親和相手として同性(i.e., 内集団)を選好する程度とした。実験の結果、社会不安高群では、受容された時よりも排斥されたときの方が、再親和相手として同性を選好する程度が高まっていた。対して、社会不安の低群では、排斥条件と受容条件の間で差は見られなかった。実験3の結果は、社会不安の高い人は、排斥経験後に内集団成員に対して再親和を求めようとするが、外集団成員には求めようとしない、ということを示唆している。しかし、本実験での質問は、シナリオのように排斥される経験をした後に再親和を求めるとしたら、という前提の下での質問であり、内集団成員を相手に実際に再親和を求めようとするのか、という点に関しては検討できていない。そこで、実験4ではサイバーボール課題を用い、排斥経験後に実際に再親和を求めようとするのか測定した。また、実在の集団を用いた場合には、現実の集団間関係や集団の持つ特徴が実験結果に影響を与えていた可能性がある。この点を改善するため、実験4では最小条件集団パラダイムを援用し、集団成員性を操作した。最小条件集団パラダイムでは、ささいな手がかりを基に架空の社会的カテゴリーに参加者を分類する。そのため、集団間関係の文脈とは離れた、社会的カテゴリー化がなされること自体の影響を検討することができるとされている。
実験4は、1セッション3から4名の参加者で実施された。実験に先立って測定した社会不安の程度から、参加者を社会不安の高群と低群に分割した。参加者には最初に、パソコンの画面上に瞬間的に表示される黒い点の数を推量する課題に取り組んでもらった。参加者には、解答の傾向からOver-estimatorとUnder-estimatorに分類することができると教示した。なお、このテストやOver-estimatorやUnder-estimatorといった傾向は実在するものではなかった。続いてサイバーボール課題を実施した。実験2と同様、この課題によって排斥の有無の操作が行われた。その後、最初の課題の結果が伝えられた。その内容は実際の参加者の回答とは無関係なもので、内集団条件では参加者全員がUnder-estimatorであると伝えられたのに対して、外集団条件では自分だけUnder-estimatorでその他の参加者はOver-estimatorである、と伝えられた。その後参加者に、最後に実施する課題にはその場にいる誰かと協力しながら取り組むものと1人で取り組むものがあると伝え、それぞれに取り組みたいと思う程度の評定を求めた。このうち、前者に取り組みたいと思う程度を再親和欲求の程度とした。実験の結果、排斥条件のうち社会不安の高い参加者では、再親和の相手が外集団成員である場合には再親和欲求は高まっていなかったが、内集団成員である場合には再親和欲求が高まっていた。対して、社会不安の低い参加者では、予測と反して、再親和の相手が内集団成員であっても外集団成員であっても、再親和を求める程度が高くなっていた。
 実験3、および実験4では、再親和相手の集団成員性が、被排斥経験後に再親和を求める程度に与える影響を検討した。実験の結果、仮説通り、社会不安の高い者は、排斥されると、外集団成員よりも内集団成員に対して再親和を求めていた。また、被排斥経験後に社会不安の高い者が外集団成員に対して再親和を求める程度は、受容された者が再親和(新たな親和)を求める程度と差が見られなかった。この結果は、社会不安の高い者が、被排斥経験後に外集団成員に対しては再親和を求めないが、内集団成員に対してであれば再親和を求められることを示唆している。対して社会不安の低い者では、予測と反して、相手が内集団成員であろうと外集団成員であろうと、被排斥経験後に再親和を求めていた。これには、社会不安の低い者が持つ特性が影響している可能性が考えられる。例えば、社会不安の低い者ほど、自身の社交的スキルを高く評価することがわかっている。また、社会不安の程度は、ビッグファイブ性格特性とも関連しており、社会不安の低い者ほど外向性が高い。つまり、社会不安の低い者は、外向性が高く社会的スキルの自己評価が高いため、他者との相互作用を積極的に行うことが可能であると考えられる。加えて、他者への信頼が低い者においては、社会不安が低いほど経験への開放性 (openness to experience) が高いことも示されている。開放性は、知的好奇心、新奇性や多様性への選好といったものを反映した特性である。上述の傾向は、特性として他者への信頼が低い者において見られたものであるが、他者を信頼できないような状況においても同様の傾向が生じることは十分に予測できる。社会不安の低い者は、外集団成員との接触のような、他者を信頼できない状況においても経験への開放性を示し、外集団成員との相互作用を持つことが可能なのかも知れない。そのため、被排斥経験後に外集団成員に対しても再親和を求めた可能性がある。この点に関しては、更なる研究が必要であろう。
 最後に、仮説3を検討するため、実験5および実験6を実施した。実験5は、1セッション3から4名の参加者で実施された。実験に先立ち社会不安の程度を測定し、社会不安の低群と高群に参加者を分割した。参加者には最初に、実験4と同様に、パソコンの画面上に瞬間的に表示される黒い点の数を推量する課題に取り組んでもらった。その後、サイバーボール課題に取り組んでもらった。今回の実験では、すべての参加者に排斥を経験してもらった。サイバーボール課題の後、最初に実施した課題の結果が参加者に伝えられ、参加者自身のみがUnder-estimatorで、その場にいるその他の参加者は全員Over-estimatorであると伝えられた。その際、半数の参加者には、同じ判定結果の人同士は互いに性格などがよく似ていると教示し(高類似性条件)、残りの半数の参加者には、同じ判定結果の人同士でも性格などは異なると教示した(低類似性条件)。最後に、実験の最後に実施する課題にはその場にいる誰かと協力しながら取り組むものと1人で取り組むものがあると参加者に伝え、それぞれに取り組みたいと思う程度の評定を求めた。このうち、前者に取り組みたいと思う程度を再親和欲求の程度とした。実験の結果、再親和を求める程度に関して、社会不安の高群と低群のいずれにおいても、高類似性条件と低類似性条件間に有意な差は見られず、仮説は支持されなかった。実験5では、類似性の操作チェックの項目において、高類似性条件と低類似性条件間に有意な差が見られなかったことから、類似性の知覚の操作に失敗していた可能性が考えられる。そのため、類似性の操作を改良し、実験6を実施した。
 実験6では実験の冒頭で社会不安の程度を測定し、社会不安の低群と高群に参加者を分割した。これまでの実験と同様に、パソコンの画面上に瞬間的に表示される黒い点の数を推量する課題に取り組んでもらった。その後、サイバーボール課題に取り組んでもらった。今回の実験でも、すべての参加者に排斥を経験してもらった。サイバーボール課題の後、最初に実施した課題の結果が参加者に伝えられ、参加者全員にUnder-estimatorであったと伝えられた。その際、半数の参加者には、同じ判定結果の人同士は互いに性格などがよく似ていると教示し(高類似性条件)、残りの半数の参加者には、同じ判定結果の人同士でも性格などは異なると教示した(低類似性条件)。さらに実験6では、文章での教示に加えて、同じ判定結果の人の中での性格の分布を表したグラフを呈示した。高類似性条件では分布の裾が広いグラフ、低類似性条件では裾が狭いグラフを呈示した。その後、実験の最後に実施する課題にはその場にいる誰かと協力しながら取り組む課題なので、Under-estimator(i.e., 内集団成員)とOver-estimator(i.e., 外集団成員)のどちらと取り組みたいか、両極尺度上で回答を求めた。実験の結果、社会不安の高い参加者は、高類似性条件よりも低類似条件の方が、課題の相手として外集団成員を選好する程度が高かった。他方で、社会不安の低い参加者は、高類似性条件と低類似性条件で、外集団成員を選好する程度に有意な差は見られなかった。以上の結果は、本研究の仮説3を支持するものであった。

第三部では、6つの実証研究の結果を概観し、本研究の意義と得られた示唆、および今後の展望について議論した。
先行研究では、社会不安の高い人が社会的排斥を経験した後に、再親和を求めるのが困難である可能性が指摘されてきた。また、高社会不安者が他者との社会的なつながりを作ることが難しく、相互作用の相手から排斥されやすいということも示されている。これらの点を鑑みれば、社会不安の高い者が排斥を経験した際に、どのようにして再親和を得ることが可能となるのか検討することが重要であると考えられる。しかし、管見の限りでは、この点に関して検討した研究は見当たらない。本研究では、再親和相手の集団成員性に着目し、内集団成員の相手であれば高社会不安者でも再親和を求められることを示した(実験3、実験4)。加えて、集団類似性の知覚を低減させることができれば、高社会不安者も外集団成員に対しても再親和を求められる可能性を示した(実験6)。社会的排斥が心身の不適応をもたらすことから、被排斥経験後には再親和を得ることが重要である。これまでの研究では明らかにされてこなかった高社会不安者の再親和の可能性を示したことは、本研究の大きな意義である。また、被排斥経験後に生じる攻撃性の昂進を抑制するといった側面においても、本研究は寄与するものと考えられる。
本研究では高社会不安者の外集団成員への再親和を促進する方略として、外集団の類似性知覚を低減させるという方法を採った。これ以外にも、外集団成員に対する再親和を促す方法はいくつか考えられる。例えば、社会的スキルトレーニングや共通内集団アイデンティティを形成させる、といった方法が考えられる。しかし、これらの方略は、前者は長期的な介入が必要であり、後者は有用な場面が限られる恐れがあるといった可能性がある。対して、外集団成員を類似していないと知覚する方略は即座に用いることが可能であり、また適用できる外集団も多いと考えられる。こういった点を鑑みると、本研究の知見の有用性は高いと言えるのではないだろうか。このように本研究の意義や有用性を挙げることができる一方で、本研究には限界点も存在する。本研究では、被排斥経験後に他者と共に実験課題に取り組みたいと思うか、ということを尋ねており、被排斥経験後に社会不安の高い人が実際に他者と社会的なつながりを構築することができるか、という点についてまでは検討できていない。この点に関しては、今後十分に検討すべき課題であろう。
また本研究では、被排斥経験後に集団の類似性の知覚が高まることが示された。これまでの研究で、被排斥経験後には受容可能性のある再親和相手を見極められるようになる、ということが示されてきた。しかし、この背景にどのようなプロセスが存在しているのかは、十分に解明されていなかった。先行研究で示された知見の背景にあるプロセスを示したことは、本研究の意義の一つとして挙げることができるだろう。また、被排斥経験後における集団類似性の知覚の高まりという認知的な変化から、他の社会的排斥研究で得られた知見の背景プロセスを説明できる可能性もある。加えて、類似性の知覚は人の認知活動の基盤を支える基礎的なプロセスであり、後続の認知や行動等に大きな影響を及ぼすことが予測される。あるいは、集団の類似性の知覚は、集団アイデンティティや集団凝集性の知覚とも大きく関連している。集団の類似性や集団アイデンティティ、集団凝集性の知覚は集団間の行動や認知に様々な影響を与える。今後、集団の類似性の知覚が高まることが、被排斥者の認知や行動に対してどのような影響をもたらすのか、再親和行動以外の側面からも検討する必要があるだろう。ただし、本研究では受容と排斥に関わる社会的カテゴリーのうち、集団(社会的カテゴリー)に対する類似性の知覚しか検討できておらず、この点は本研究の限界点の一つである。他の社会的手がかりについても、本研究の知見と同様の実験結果が得られるのか、という点については、今後の検討課題である。

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