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博士論文審査要旨

論文題目:女性の就労をめぐる政策と政治:フレキシビリゼーション・平等・再生産
著者:堀江 孝司 (HORIE, Takashi)
論文審査委員:加藤哲郎、渡邊治、木本喜美子、高田一夫

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 堀江孝司氏(以下筆者と記す)の学位請求論文「女性の就労をめぐる政策と政治──フレキシビリゼーション・平等・再生産──」は、政治学の立場から、わが国の公共政策における女性問題の政策化をとりあげ、その政治過程を詳細に分析したものである。
 一 本論文の構成

 本論文は、以下のように構成されている。

目次
はじめに

   第1部 現代日本の公共政策と政治学

第1章 労働市場と人口構成をめぐる課題
 はじめに
 第1節 労働市場のフレキシビリゼーション
  (1)はじめに
  (2)概念の整理
  (3)非正規雇用の問題性
  (4)フレキシビリゼーションの構想
  (5)デュアリズムの実態
 第2節 人口構成の変化と労働力不足
  (1)人口動態の中長期的見通し
  (2)人口政策
  (3)まとめ
 第3節 周辺的労働力をめぐる政策の展開
  (1)はじめに
  (2)中高年雇用
  (3)外国人労働者導入をめぐる動き
  (4)小括

第2章 多元主義論と政治学の「近代化」                   
 はじめに
 第1節 政治学の「新動向」
 第2節 日本型多元主義
 第3節 政治学者の知識社会学
 第4節 政治システムの「包括性」
 第6節 政策領域論と本稿で扱う政策

第3章 公共政策の国際比較と政治経済学                 
 はじめに
 第1節 ジェンダーと福祉国家
  (1)ジェンダー派の「主流派」批判
  (2)新しい福祉国家像
  (4)小括
 第2節 福祉国家論と日本の公共政策
  (1)はじめに
  (2)福祉国家形成要因をめぐる議論 
  (3)日本の公共政策
  (4)女性をめぐる政策

   第2部 女性の就労をめぐる政策と政治過程

第4章 非正規雇用をめぐる政治過程I―派遣労働者に関する政策―    
 第1節 はじめに
 第2節 背景と経緯
 第3節 審議会における議論
 第4節 財界・業界・労働側の動き
 第5節 国会での審議と政党の動き
 第6節 政治過程の分析

第5章 非正規雇用をめぐる政治過程II―パートタイム労働政策―       
 第1節 はじめに
 第2節 パートタイム労働者の定義
 第3節 パートタイマー増加の経緯
 第4節 最初の法制化の動きとパートタイム労働対策要綱
 第5節 二度目の法制化の動きと「パートタイム労働指針」
 第6節 三度目の法制化の動きとパートタイム労働法成立
 第7節 むすび-パートタイム労働をめぐる政治過程の特質-

第6章 「平等」の争点化―女子差別撤廃条約と均等法・労基法改正―    
 第1節 はじめに―本章の対象領域―
 第2節 均等法の意義
 第3節 労働省婦人少年局
 第4節 女子差別撤廃条約署名の政治過程
 第5節 均等法以前の政府の方針
 第6節 男女雇用機会均等法制定の政治過程
 第7節 政治過程の分析
 第8節 おわりに


第7章 再生産の政治―少子化問題のアジェンダ化と育児休業法の成立―
 第1節 はじめに―近年の少子化対策―
 第2節 少子化に対する従来の認識
 第3節 「1.57ショック」
 第4節 育児休業法の成立
 第5節 数値の発表と政策
 第6節 むすび

第8章 政策領域間の体系性と整合性―年金改革・税制改革の女性労働への帰結―
 第1節 はじめに
 第2節 就労調整
 第3節 国民年金第三号被保険者制度の創設
 第4節 配偶者特別控除制度の創設
 第5節 むすび

結語                                   
引用文献一覧

 二 本論文の概要

 著者は、第一部で、第二部の実証研究の前提となる理論的問題を扱う。「フレキシビリゼーション・平等・再生産」と副題されているように、女性就労の理論問題を三つの視角から設定し、政治経済学・比較政治学の方法を用いて対象に迫ろうとしている。

 第1章では、労働市場のフレキシビリゼーションについてのコーポラティズムとデュアリズムという政治学者の論争を検討しながら、日本の労働市場が、かつて「二重構造」とよばれ非正規雇用の正社員化がめざされていた段階から、正社員のスリム化と派遣・パートタイム労働を組み込んだデュアリズム化が進行し、非正規雇用者が賃金・労働条件・社会保険・雇用安定性・労働組合加入などの面で不平等・不安定な位置におかれており、その大きな部分が女性労働者で、経済団体も政府もそれを容認するのみならず促進しようとしていることが、各種資料・統計で示される。同時に、少子高齢化による長期的労働力不足の対策として、高齢者や外国人労働力よりも女性就労が想定されているとして、その障害となっている出産・育児の条件整備への公的対応が迫られていることをしめす。

 第2章で、著者は、このような問題領域への政府の対応を政策領域論として位置づけるために、日本の政治学で長く論議されてきた、権力構造の問題に論及する。日本の政治学では、戦後長くパワー・エリート論的な政財官三角同盟説が支配的であったが、1980年代から権力の分散・多元化を説く多元主義論が台頭し、政治と経済、政治家と官僚制の関係、族議員の台頭等を問題とする多くの研究を生みだしてきた。著者は、その流れを詳しくトレースし吟味しながら、エリート論と多元主義論、ネオコーポラティズム論とデュアリズム論、新制度論等の理論的・方法的分岐の背後に、現代日本の政治と政策の実証的研究が拡がり深化する過程で生じた、論者の想定する政策領域と位相・アクターの違いがあり、時には論争がかみあわず、時にはこれらの視角が相補的であることを、説得的に示す。そのうえで、ここでとりあげる女性就労政策は、多元主義的な「分配」的利益媒介システムでは抜け落ち、労働・福祉政策による「再分配」を重視するコーポラティズム論でも、労働組合が女性労働の問題に十分とりくまないためほとんど固有の研究対象となったことがなく、既存の政策研究では軽視されてきたことを、問題の特殊性自体から導き出す。

 そこで第3章では、女性就労を、その特殊性をふまえつつ政策研究の対象とするために、国際的な比較公共政策研究や、世界各国の政治経済学の実証研究を参照し、新しい視角をひきだそうとする。参照されるのは、ジェンダー派の福祉国家論批判、「脱家族化」論、比較福祉国家論、審議会制度論、ナショナル・マシーナリー論、等々であり、かつて新しい社会運動論の研究から出発した著者が、女性就労政策を対象とすることで、制度論へと具体化してきたことがうかがえる。

 こうした前提をふまえて、第二部では、主として1980年代のわが国女性政策と政治過程が、具体的に扱われる。第4章が派遣労働、第5章がパートタイム労働で、非正規雇用のフレキシビリゼーションを扱う。第6章では、「平等」の争点化に関わる雇用機会均等法をとりあげる。第7章では、少子・高齢化に関わる「再生産」政策が扱われ、第8章ではそれらをふまえて、異なる政策領域とアクターの比較を加えて分析する。

 第4章は、1985年に成立し、86年から施行された、労働者派遣法をとりあげる。その背景には、労働省の管轄する職業安定所が労働者保護の見地から職業紹介事業を独占していた時代からすでに進行していた、社外工・臨時工など間接雇用の増大があった。労働省が、1978年に需給システム研究会、80年に労働者派遣事業問題調査会を発足した時、労働側の意見はなお分裂していたが、84年に調査会の最終報告をまとめる段階では、労働側も現状を追認して、立法化に反対しなかった。労働省主導で立案され、財界・業界・労働団体という主要アクターに大きな反対がなく、国会審議でも大きな問題にならずに成立した労働者派遣法は、著者によれば、「イシューとしての注目度」が低く、政治化の度合いが低かったために立法化されえた。その背景には、対象となる派遣労働者が労働組合に組織されておらず、労働組合側は、同時期に政治的アジェンダとなった雇用機会均等法の方に関心を集中していた事情があった。

 第5章は、同じ非正規雇用でも、法的には違法性がなく、すでに高度成長期から存在して90年代には女性就労の3分の1を占めるにいたった、パートタイム労働をめぐる政治過程を扱っている。パートタイム労働法は1993年に成立するが、著者が注目するのは、1984年前後、88年前後に二度も立法化の動きがありながら、なぜ二度とも挫折し、三度目にようやく法制化されるにいたったのかという問題である。日本の労働市場には、週35時間以下の短時間労働者ばかりではなく、フルタイムで働き職務内容も正規雇用者とほとんどかわらない「疑似パート」が100万人以上存在し、しかもそれが女性の重要な就労形態となっているが、「パートタイム労働とはなにか」という定義自体が、労働省婦人少年局などで、高度成長末期から問題になっていた。しかし、政治的イシューとなるのは、野党や労働組合からの待遇改善・保護要求によってであり、1982年の行政管理庁の勧告以降、労働省もパート・プロジェクトを設けて、労使のコンセンサスによる立法化に動き出す。しかしこれは、財界・経営者側の強い反対と、立法化に不可欠な与党自民党の消極性のために、労・使・学の専門家会議レベルで意見がまとまらず、80年代には実現できなかった。ようやく93年に、「疑似パート」を対象外とし、「短時間労働者」のみの福祉サポート・保護をうたって法制化されたが、ここでは、パート労働者が未組織であったことのみならず、財界の反発の強さと自民党と野党との政治的取引が、挫折と立法化の分かれ目となった。つまり、93年の政治危機のさなかに、自民党は、野党の他の政策領域での妥協をも見込んで、野党との協調にパート労働法案を利用した。ただしそのさい、当事者たるパートタイマーにアピールすることはほとんど考えず、もっぱら財界の反対を考慮して内容を骨抜きすることにより、ようやく立法化されたものだという。

 第6章は、1985年に成立した雇用機会均等法の立法化・施行過程を、女子差別撤廃条約や労働基準法改正をも視野に入れて、「平等の争点化」という視点から分析したものである。女性就労に関わっては、最も社会的・政治的に関心を集め、また先行研究も多い領域である。著者も、均等法問題を「女性という組織されにくいカテゴリーが、日本の政策過程において最も問題化した」典型的事例とみなし、政治学における先行研究である篠田徹らの労働省婦人少年問題審議会での審議を中心とした分析結果をふまえつつ、諸外国の法制化と「国連女性の十年」の役割、労働省婦人少年局が対外的「ナショナル・マシーナリー」でありながら省内では影響力が弱いという官僚制的位置、赤松良子局長のリーダーシップなどを詳細に論じる。著者は特に、財界や自民党各派閥があまり問題の重要性を理解せず、大平内閣から鈴木内閣へと移行する政治的空白期に女性団体・女性有識者主導で署名された女子差別撤廃条約の先行に注目する。すなわち、女子差別撤廃条約署名と批准のタイムリミットをたてにとっての、女性官僚たちによる平等法の政治的非争点化、労働基準法の女性保護規定緩和とバーゲニングしての法案作成・国会審議過程を子細に分析して、経営者側からの反対という入力が少ない段階で女子差別撤退条約が先に署名されており、批准へのタイムリミットという「外圧」が決定的役割を果たした点を、特に強調している。また、本章において著者は、労働省婦人少年局の政策志向が、戦後期以来の「保護と平等」を同時に追求するというものから、両者のうちの「平等」に比重を移したという点についても明らかにしている。

 第7章の対象は、以上の流れとは相対的に区別される、「再生産」問題としての少子化問題のアジェンダ化と、1992年に施行された育児休業法成立の政治過程である。ここでは、西欧諸国での70年代の法制化、1975年の教員・看護婦などを対象とした特定職種育児休業法の成立が前提であったと共に、自民党有力者の一部に、日経連等の反対にもかかわらず推進する動きがあった点に注目する。それが、1990年6月10日の新聞各紙で「平均出生数(合計特殊出生率)1.57人」が大きく報道されて、世論としての「1.57ショック」が生まれ、それによって急速に政治的アジェンダ化して、92年育児休業法、94年の文部・厚生・労働・建設4省による「エンゼル・プラン」まで具体化したものだという。当初日経連が反発したにもかかわらず、この政策が急展開した理由を、著者は、統計数値の発表とタイミングによるアジェンダ・セッティング効果と共に、労働力の長期的再生産という国家存立そのものに関わるテーマの顕在化で、各省庁・与野党間に幅広いコンセンサスがつくられたためだとする。

 最後の第8章は、以上の個別政策領域分析のたんなる比較・まとめではなく、これらが今日の男女共同参画社会政策にまで体系化され総合化されてくるプロセスにみられた、政策領域間の体系性と整合性に関する重要な問題提起となっている。より具体的には、男女雇用機会均等法成立と同じ1985年に、会社員・公務員等の配偶者が掛け金を払わずに基礎年金を受け取れるようになった国民年金第3号被保険者制度が成立していることに着目する。この厚生省主導の女性就労抑制効果をもつ政策が、年金改革というイシューの中から、均等法との関連が特に意識されずに採用されたこと、また1987年の大蔵省の税制改革で、当初売上税とセットでサラリーマン減税の一環として浮上した税制上での配偶者特別控除制度が、売上税の流産にもかかわらず導入された事例を分析して、これらが労働省主導の均等法の立法趣旨とは整合せず、むしろ女性就労抑制効果をもち、同時期の国家政策としての体系性を欠いていたことを、クローズアップした。この複数政策領域の複合による政策効果の減殺という問題提起は、すでに著者の個別の学術論文として発表されて、学会・ジャーナリズムから広く注目されたものである。著者はそこで、これらの事例を通俗的な省庁間セクショナリズムの問題に解消することなく、一見関連がない政策領域において、全く異なる政策意図・目的のもとに推進された個別政策間の意図せざる齟齬による複合的効果であるとする、オリジナルな一般的命題をひきだしている。そのインプリケーションは、女性就労や男女共同参画社会形成といった政策領域では、とりわけ政府による省庁横断的な総合政策調整が必要であるということで、今日のODA(政府開発援助)や「人間の安全保障」をめぐっての政策策定にも応用可能な、重要な政治学的視角である。第4?7章での個別政策領域での詳細な政策過程・政策パターン分析は、この第8章を加えて総合されることにより、本論文の学問的水準を引きあげるものとなった。

 結語では、以上を総括して、第一部で設定したフレキシビリゼーション・平等・再生産という三つの政策課題に即して、それぞれの1990年代以降のパーフォーマンスを概観し、女性就労という高度経済成長終焉後に日本社会が直面した「族議員のいない」政策領域において、労働組合・経営者団体・官僚制・政党等それぞれのアクターの果たした役割、グローバル化という「横からの入力」の意味を論じ、複数の政策領域間の整合性と連関という「問題の発見」を述べて、従来の政治学・行政学に対して新たな方法的課題を投げかけている。

 三 本論文の評価

 以上に要約した堀江孝司氏の論文は、次のような点で、高く評価できるものである。


 第一に、女性就労という、政治学ではこれまでほとんどとりあげられことのなかった未開の政策領域に取り組み、労働者派遣法、パートタイム労働法、雇用機会均等法、育児休業法という複数の関係法規の政策決定過程を綿密に分析して、実証密度の濃い一貫した政治過程の研究にしあげたことである。

 第二に、政治学の既存の方法論と先行研究の周到な整理をふまえ、比較政治学的手法を意識的に用いて、政府関係文書・議事録等第一次資料をも用いて分析しながら、フレキシビリティ・平等・再生産という争点に関わる政策決定のアクターと「外圧」を含む力関係の変化のパターンを抽出・比較し、女性就労政策の孕む多面的性格を浮き彫りにしたことである。

 第三に、それぞれの個別政策について歴史的背景・政治的争点化・政策策定と政治的バーゲニングの論理的分析を行うと共に、アジェンダ設定から政策効果まで政治過程のタイムスパンを伸ばした分析を行い、雇用機会均等法成立に先行した女子差別撤退条約署名の政治過程とその意義など、先行研究にオリジナルな視点と新たな知見を加え、1980年代の労働政策・女性政策研究に、政治学分野にとどまらない貢献を果たしたことである。

 第四に、直接女性就労に関わる労働者派遣法・パートタイム労働法・雇用機会均等法・育児休業法に、年金改革や税制改革という異なる争点領域の間接的政策効果をも加えて考察することにより、異なる政策領域間の整合性と複合的政策効果という新しい問題領域を開拓し、政策科学研究への重要な問題提起をなしえたことである。

 本論文は以上の点で、日本の政治学・行政学研究に大きな貢献をなしえたと判断できるが、同時に、著者の今後の研究における、新たな課題を提示するものともなっている

 第一に、第一部での膨大な方法論的検討をふまえるならば、第二部の個別政策の政策過程・政策効果の実証的分析においても、当事者インタビューや企業・地域での具体的政策効果の検討など、より精緻な調査・資料収集がありえたのではないかと思われる。主たる対象が1980年代に成立ないし浮上した関係法規の類型的比較・政策パターン分析、それらの複合的政策効果に設定されたことにより、捨象ないし副次的に扱われた側面での肉付けが期待される。また第二部の実証分析で得られた、異なる領域間の複合的政策効果等の著者の命題が、第一部の理論的整理にどのようなかたちではねかえり、どのような理論的意味を持つのかも、新制度論など公共政策論の90年代以降の展開をふまえて、いっそうの展開が期待される。

 第二に、著者の修士論文のテーマであった社会運動レベルでのアクターと入力が、政策決定について実証密度の濃い本論文では、労働組合のナショナルセンター以外は、余り登場しない。これは、著者が、多元主義論などが所与と想定しがちな圧力団体的利益媒介・利益表出が、とりわけ日本では女性というカテゴリーでは政治化しにくいという点に着目した結果であるが、著者も認めるように、女性内部にもさまざまな社会的カテゴリーが重合・分化し、とりわけ政策効果の測定では、異なる帰結をもたらしうるだろう。そのように考えると、政策過程の分析でも、いわば「政策非決定」「アクターの不在」の領域に立ち入り、「1.57ショック」がなければなぜ社会的関心をもたれず、「外圧」がなければなぜ争点化しにくかったのかという問題設定も必要になるだろう。本論文の問題提起が重要であるだけに、さらなる理論的・実証的深化が望まれる。

 第三に、著者の分析対象は、実際に女性労働が非正規雇用のかたちで増大した1980年代を中心とし、同時期の三つの政策課題、四つの立法(プラス年金改革・税制改革)の共時的分析とその比較にしぼられているが、通時的・歴史的にみると、雇用機会均等法改正や内閣府男女共同参画局開設など90年代以降の展開も、重要と考えられる。そのさい、著者の想定した女性カテゴリーの位置、三つの政策課題の相対的比重、さらには著者が分析した政策効果の環境条件変化による変容等も、より長期的視野から再吟味される必要があるだろう。著者は、90年代以降の実証的分析を、今後の課題として自覚しているが、冷戦崩壊から日本の構造不況、政党再編、省庁再編といった環境要因の大きな変化が、女性就労という政策領域の性格・アクターにどのような影響・変化をもたらしたかを提示できれば、本論文は、より説得力をますであろう。

 以上は、本論文の欠陥というよりも、本論文の対象領域と時期の限定を超えた問題群であるが、著者の力量は、そうした課題にも理論的・実証的にとりくみうるものと評価して、さらなる研究の拡大・深化を期待したい。

 以上の審査結果から、審査委員一同は、本論文を学位請求論文にふさわしい学術的水準をもつものとみなし、口述試験の成績をも考慮して、堀江孝司氏に、一橋大学博士(社会学)の学位を授与することが適当であると結論する。

最終試験の結果の要旨

2002年2月13日

 2002年1月16日、学位請求論文提出者堀江孝司氏の試験および学力認定を行った。

 試験において、提出論文「女性の就労をめぐる政策と政治──フレキシビリゼーション・平等・再生産──」にもとづき、審査委員が疑問点につき逐一説明を求めたのに対し、堀江氏は、いずれにも適切な説明を行った。

 専攻学術について、審査委員一同は、堀江孝司氏が学位を授与されるのに必要な学力を有するものと認定した。

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