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博士論文審査要旨

論文題目:戦後日本における知的障害者処遇
著者:原田 玄機 (HARADA, Genki)
論文審査委員:猪飼周平、堂免隆浩、白瀬由美香、小澤温

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1. 本論文の概要
 本論文は、従来部分的な観点から論じられることが一般的であった知的障害者福祉の歴史を当事者に対する見守りの必要性の大きさと家族による処遇の可能性の観点から総合することで、知的障害者福祉史に統一的な観点を与えようとした労作である。

2. 本論文の成果と問題点
 本論文は、戦後日本における知的障害者福祉の歴史を概観的に検討することによって、従来細分化された支援対象や論点ごとに議論されてきた知的障害者福祉史を、統一的な一つの流れをもつ歴史として練り直そうとしたものである。
 このような知的障害者福祉の総合化の構想を支えているのが、本論文において「見守りの必要性」と「家族による処遇可能性」という2つの評価基準による処遇領域の分類である。これによって、本論文は、戦後の知的障害者福祉が、時代とともに焦点を移しつつ、常に一定のバイアスをもって変遷してきたことを説明することを可能にしている。
 著者によれば、1950-60年代においては、軽度の知的障害者に対する就労訓練が重視されていたが、その後において見られるような大きな支援対象の偏りはみられなかった。これに対し、1970-80年代においては、見守りの必要性の大きな知的障害者に注目が集まり、見守りの必要性が小さい知的障害者が対象から外れるという重度バイアスおよび、家族による処遇を前提とする家族バイアスがかかっていった。これに対応して、就労支援政策の不在および家族処遇を前提として、擬似的な就労を可能とする作業所が増加していった。
 このような知的障害者福祉史の整理によって、本論文は、1990年代以降なかでも2000年代以降の知的障害者福祉にみられる、発達障害に対する認識の広がりや家族の負担の軽減施策などの歴史的意義を正当に評価することを可能にしている。その意味において、本論文の基本的な目論見である知的障害者福祉の歴史的総合は、大きな成功を収めていると評価できよう。
 他方で、本論文には、荒削りな面が散見されることも指摘せざるをえない。概念規定の厳密さに欠ける点、統計資料の吟味の粗さがみられるほか、1970-80年代において知的障害者福祉の重度・家族バイアスがみられた原因についての論証が完全ではないといった課題も指摘できる。
 ただし、これらの難点によって、論文の価値が本質的に損なわれることはなく、また筆者自身これらの難点についてはよく自覚しているところであり、今後の研究の進展の過程で、克服されることが十分に期待できる。

最終試験の結果の要旨

2019年2月13日

 2018年12月18日、学位請求論文提出者・原田玄機氏の論文について、最終試験を行った。
 本試験において、審査委員が、提出論文「戦後日本における知的障害者処遇」に関する疑問点について逐一説明を求めたのに対し、氏はいずれも十分な説明を与えた。
 よって、審査委員一同は、原田玄機氏が一橋大学学位規則第5条第1項の規定により一橋大学博士(社会学)の学位を授与されるに必要な研究業績および学力を有するものと認定した。

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