博士論文一覧

博士論文審査要旨

論文題目:マックス・シェーラーの感情の哲学のアクチュアリティ
著者:横山 陸 (YOKOYAMA, Riku)
論文審査委員:大河内泰樹、加藤泰史、井頭昌彦、音喜多信博

→論文要旨へ

1、 本論文の概要
 本論文は、20世紀初頭に活躍した哲学者・現象学者であるマックス・シェーラー(Max Scheler 1874-1928)の哲学の全体像を、感情の哲学という観点から再構成し、その現代的意義を明らかにしようとしたものである。
 筆者はとくにシェーラーの感情論のなかでも、一見合理的には理解不可能に思える共同主観的感情の理論の積極的な意味を、①心身二元論の克服としての他者知覚論、②それに代わる〈生命と精神の二元論〉の構想とこれに基づく〈一体感〉についての理論、③ニーチェの同情批判に対する反論としての「共感」と「人格愛」の現象学、および④〈価値の階層性〉を主張する価値倫理学における「浄福」と「悔恨」、という四つの分析を通じて明らかにしている。筆者はこれらのシェーラーの議論をそれぞれ現代の感情をめぐる哲学的議論とつきあわせながら、形而上学や宗教に還元されない現代的意義をもつ感情の哲学としてシェーラー哲学の積極的な意義を主張する。

2、 本論文の成果と問題点
 本論文はひとつひとつの主張が大変刺激的であり、かつ文章も読者を引き込んで読ませるもので、論述の仕方においてすぐれたものであることを特筆しておきたい。本論文の内容上の成果は以下の三点にまとめることが出来る。
 第一に本論文は、感情の哲学という観点から、知覚論、価値論、倫理学といったシェーラー哲学の全体像を再構成しようとしたという点において新しい視点を提示しており、新たなシェーラー像を切り開くすぐれた研究となっている。本論文は日本のシェーラー研究にたいする一つの大きな貢献となっているといえるだろう。
 第二に、シェーラーの感情の哲学を再構成するにあたって、知覚論、ケアの倫理学、価値論といった現代の議論とつきあわせながらその現代的な意義を明らかにしているところである。とくに、シェーラーの感情論は、彼の形而上学や宗教に還元されがちであったが、筆者は形而上学や宗教と切り離してもシェーラーの集合的感情論が理解可能であることを明らかにし、その現代的な意義を示すことに成功している。
 第三に本論文は、シェーラーの哲学を上記のように現代の議論とつきあわせてその現代的意義を明らかにしようとするにとどまらず、ブレンターノ、マッハの現象主義、新カント派など、シェーラーの先行者ないし同時代の哲学的議論をふまえたうえで、シェーラーの哲学を再構成している。こうしてシェーラーの議論の文脈を明らかにすることにより、本論文の論述はさらに説得力を持つものとなっている。
 このように、本研究はたいへんすぐれた成果をともなっているものの、問題点がないわけではない。第一に、第一章で導入されている「現象的・論理的」の区分が、心の哲学など現代の議論の文脈に位置づけたときにどのような意味を持つのかが必ずしも明瞭ではなかった。第二に、記述上の問題として、シェーラーの議論の再構成とそれを発展させた筆者独自の議論とが記述上適切に分節化されておらず、読者の適切な理解が困難とおもわれる箇所がいくつか見受けられた。
 しかし、以上の問題点については、横山氏本人も自覚するものであり、今後の研究の進展によって解決されることが期待される。審査員一同は、本論文が明らかにしたことの意義を高く評価し、一橋大学博士(社会学)の学位を授与するのに相応しい業績と判定する。

最終試験の結果の要旨

2018年3月14日

2018年2月13日、学位請求論文提出者の横山陸氏の論文について最終試験を行った。本試験において審査員が提出論文「マックス・シェーラーの感情の哲学のアクチュアリティ」について疑問点を質問したのに対し、氏はいずれの質問においても十分な説明を行った。
 よって審査員一同は、横山陸氏が一橋大学学位規則第5条第1項の規程により一橋大学博士(社会学)の学位を授与されるに必要な研究業績および学力を有するものと認定した。

このページの一番上へ