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博士論文審査要旨

論文題目:日本の外国人研修・技能実習制度の構造とその変容に関する社会学的研究-韓国の外国人産業技術研修制度との比較を通じて-
著者:李 惠珍 (LEE, Hyejin)
論文審査委員:倉田 良樹、町村 敬志、西野 史子、鈴木 江理子

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1.本論文の構成

 日本政府は「単純労働に従事する外国人労働者は受け入れない」という公式の見解を堅持しながらも、外国人研修・技能実習制度を通じて中国を中心とするアジア諸国から単純不熟練職種の労働力を受け入れ続けてきた。この制度に対しては、国内、国外から継続的に厳しい批判が寄せられてきたが、日本政府が2009年の入管法改正によって行ったのは、この制度を「技能実習制度」として再編することによって、基本的な枠組みを強化させることだった。本論文は1990年以後、拡大基調を続けてきた日本の外国人研修・技能実習制度の制度的な変遷を経時的に分析するとともに、制度変革アクターとしての研修・技能実習生と支援団体に注目して、彼らの行為がなぜ制度変革に向けた有効な影響力を行使できなかったのかについて、韓国の事例と対比しながら社会学的な考察を行っている。本論文の各章は以下のように構成されている。

序章
 第1節 問題の所在:日本における外国人労働者問題
 第2節 外国人研修・技能実習制度に関する先行研究の検討
 第3節 研究課題と論文の構成

第1部 韓国における移住労働者と外国人産業研修制度の構造と変容

第1章 韓国における外国人研修制度の仕組みと制度変容
 第1節 韓国における移住労働者の流入
 第2節 韓国における外国人産業技術研修制度の創設と拡大
 第3節 制度化された「労働力調達システム」としての外国人産業研修制度の解体
 第4節 小括

第2章 韓国における外国人産業研修生と移住労働者支援活動
 第1節 移住労働者支援運動の形成と変遷
 第2節 韓国の外国人労働者政策をめぐるコンフリクトと研修生、非正規滞在移住労働者、支
     援活動
 第3節 小括

第2部 日本における移住労働者と外国人研修・技能実習制度の構造と変容

第3章 日本における外国人研修制度の仕組みと制度変容
 第1節 日本における移住労働者の流入
 第2節 日本における外国人研修・技能実習制度の形成と拡大
 第3節 日本における外国人研修・技能実習制度の仕組みと制度の担い手たち
 第4節 新たな「外国人技能実習制度」の創設
 第5節 小括

第4章 日本における外国人研修・技能実習制度と移住労働者支援活動
 第1節 移住労働者支援団体の形成と変遷
 第2節 外国人研修・技能実習制度と移住(労働者)支援活動
 第3節 小括

終章
 第1節 外国人研修・技能実習制度の経時的な比較分析から何がとらえられたか
 第2節 本論文における分析の限界と今後の課題

2.本論文の概要

 序章では本論文の問題意識と研究課題が示されている。
 まず第1節では、近年の移民研究において指摘されている日本の外国人労働者政策の「特殊性」に言及しながら、本研究における筆者の基本的な問題意識が説明されている。筆者の理解によれば、日本の外国人労働者政策における最も顕著な「特殊性」は、外国人研修・技能実習制度を活用して、建前上受け入れていないはずの単純不熟練労働者を受け入れ続けているという点にある。日本政府はなぜ「研修」や「実習」という狡猾なレトリックを駆使してまで「労働者ではない労働者」を外国から受け入れるという「虚構」の構造を継続しているのだろうか。この「謎」を解明したい、というのが本研究の背景にある筆者の問題意識である。そして韓国からの留学生である筆者は、1990年代前半に日本の外国人研修・技能実習制度と類似した枠組みからなる「外国人産業研修制度」を導入して外国人労働者を受け入れ、日本に追随していたとされる韓国においては、すでに同制度の全面的に廃止と雇用許可制度への切り替えが実行され、外国人労働者政策のあり方は、欧米諸国に近似したものとなっている、という事実に着目する。すなわち、筆者は、韓国との比較を行うことによって、なぜ日本だけが矛盾に満ちた虚構の構造を継続させているのか、という問いに正確に答えることができるのではないか、と考えたのである。
 第3節では、本研究の具体的な研究課題が提示されている。すなわち、本論文の研究課題は日本の外国人労働者政策、とりわけ外国人研修・技能実習制度に関する制度変容のプロセスを韓国と対比させながら経時的に比較分析することで、日本における特殊な虚構的構造の継続という謎を正確に解明していくことである。この研究課題を達成するために筆者が設定している二つのサブクエスチョンは、①両国の外国人研修・技能実習制度の仕組みや運用における違いは何か、という問い(=制度分析)と、②この制度に関わる諸アクター、とくに研修生自身と支援団体の活動家はこの制度にどのように関わり、どのように認識してきたのか、という問い(=アクター分析)である。本論文の章別構成は以上の二つのサブクエスチョンに沿って組み立てられている。すなわち、第1章は韓国の制度分析、第2章は韓国のアクター分析、第3章は日本の制度分析、第4章は日本のアクター分析である。

 第1章は韓国の制度分析である。
はじめに韓国における外国人労働者の流入と定着についての概観がなされ、韓国では非正規滞在移住労働者と研修生との間に相互交渉・浸透する関係が形成されていることが示されている。この章の中心部分は、韓国において外国人産業技術研修制度が創設され、拡大され、やがては廃止されていくプロセスに関する詳細な経時的分析である。一般に韓国政府は日本の「外国人研修・技能実習制度」に追随して「外国人産業技術研修制度」を導入したといわれているが、実際には、韓国政府は「研修」と「就労」をレトリックのうえで使い分けるという日本のような狡猾な制度設計を仕組んだわけではなかった。日本で行われていたような、「研修」という制度目的を盾にとって監視体制を強化するような施策は採られなかった。端的に言って韓国の制度は日本に比べればかなり単純な仕組みによって運用された。
こうした韓国における外国人研修制度の単純な制度の仕組みが、制度を担うアクターがそれぞれ相対的に独立して活動することを可能にした。そのために、アクターを相互に拘束しあったり、結びつけたりする力は動かず、研修生もまた、自らを自律した「能動的な主体」としてとらえ、他者のもつ情報・知識を利用することで「不自由で安価な保護なき労働者」としての現状を識別し、「離脱」という行為を選択することができた。

 第2章は韓国のアクター分析である。
この章では、韓国において多くの研修生が研修先企業からの失踪という「離脱」戦略を選択し、「労働者」として認定されることなく、そもそも職業選択の自由や転職の自由も認められていない、拘束的な装置から「解放」される契機を獲得していくプロセスを詳細に描き出している。そして研修生によって選択された「離脱」という行為の実践が、居住・労働する空間に閉じ込められることなく、韓国の社会、労働市場の実質的な構成員として彼(女)らを表出させ、外国人労働者政策の対象として「可視化」させる結果をもたらしたことが論じられている。
他方、この章では、研修制度からの研修生の解放が、制度的ルールの拘束力をさらに衰退させるだけではなく、逸脱行為が多発するような制度そのものの正統性への懐疑を引き起こし、制度をめぐるコンフリクトへと結びついていくプロセスにおいて、移住労働者支援運動が果たした大きな役割についても論じている。支援運動に携わる活動家たちは、移住労働者の抱える問題を引き起こす根本的な原因を、彼(女)らを「労働者なのに労働者ではない」と見なしている韓国の外国人労働者政策の虚偽性に求めるとともに、こうした政府公認の虚偽に対抗し、代替的する制度としての「労働許可制度」の導入を要求した。このように韓国では移住労働者支援団体による運動が、単に現行制度を批判するだけではなく、明確な代替案を提示することによって、制度変革のダイナミズムを生み出す大きな役割を果たしたのである。

 第3章は日本の制度分析である。
この章ではまず、日本における外国人労働者の労働市場への参入と定着過程が概観され、越境労働の日本的特徴が明らかにされる。このなかで、日系人、研修生・技能実習生、未登録労働者が、日本の外国人労働市場のなかでそれぞれ分断されたまま、相互交渉する関係を構築することができない状況に置かれていることが明らかにされる。外国人研修・技能実習制度に関しては、送り出し国と日本の双方にわたる制度の担い手に着目して、その複雑で重層的な独自の構造について分析がなされる。日本の外国人研修・技能実習制度は、①研修生の募集や事前教育を担当する海外の送り出し機関、②送り出し機関から派遣される研修生と受け入れ企業とを仲介し、研修生を監理する役割を担う受け入れ機関、③研修生を受け入れて、研修、就労の場を提供する受け入れ企業という3者が、密接かつ有機的に結びついて研修生を重層的に拘束することで、国境を越えた移住労働管理システムとして成立している。外国人研修技能実習制度は、移住労働者を研修というレトリックを用いることで厳格な拘束状況のもとで就労させ、3年後には確実に帰国させるために仕組まれた、二国間にまたがるシステムである。この重層的な拘束装置は法と現実の乖離を必然的に生み出すものであるにも関わらず、送り出し国も巻き込んだ日本政府の追認によって維持されている。
「研修」というレトリックを維持しながらも、送り出し国の労働力輸出システムと連結される仕組みであることをはっきりと認識し、これに一定の国家的な管理のルールを構築しようとした日本政府の意識的な制度設計は、研修制度における「重層的な拘束・剥奪」の仕組みを生み出した。その仕組みによって制度を構成するアクターである受け入れ団体、受け入れ企業にとって、研修・技能実習生は確実に監視し、管理できる、扱いやすい労働力として固定された。また、送り出し機関、受け入れ機関、企業の三者によって囲い込まれ、孤立の状況におかれた研修・技能実習生の多くは、自らの状況を相対化するための知識を不十分な形でしか持ち合わせていなかった。そのために、研修・技能実習生たちは、送り出し国と受け入れ国の双方の政府が公認している不公正な受け入れプロセスと現状を「抵抗しがたい」ものとして認識・受容している。彼(女)らは、事前に約束されていた最低限の条件さえ履行されない、という極端な不公正行為に直面したときにだけ、しかも帰国直前にはじめて、「不満」を表出する。そうした不満の表出は、研修・技能実習生の劣悪な状況を「一時的に」可視化させることになる。しかし、自らの抱える賃金未払いなどの問題の解決を求める研修生の不満は、制度全体に向けられるのではなく、彼(女)らを受け入れている企業だけに向けられるのであり、受け入れ企業との間で和解・合意が成立して自らの問題が解決すれば、直ちに帰国するのが一般的であった。このような問題解決における研修生の行為戦略のパターンは、研修・技能実習生のかかえる問題の責任を個別の受け入れ企業の問題へと矮小化し、研修生を一時的に可視化することしかできなかった。個別の問題として一時的に可視化されることはあっても、重層的な仕組みに埋め込まれている研修・技能実習生の全体的な問題状況は、制度とはかかわりをもたない日本社会の側からは把握されにくい不可視状態で固定され続けているのである。外国人研修・技能実習制度は、このようなメカニズムによって再生産されている。
この重層的な拘束の仕組みに埋め込まれた研修・技能実習生は、その「自由・自律性」を重層的に剥奪された状況に追い込まれることになる。それだけではない。母国では保証金等によって自由を奪われ、日本では零細事業所の閉鎖空間に閉じ込められ、分断状況におかれている研修・技能実習生にとって、離脱(失踪)による状況の改善という戦略は極めて困難である。その結果として、劣悪な状況・待遇を甘受しながら3年の期間を全うして直ちに帰国するという、現状を受容するような研修・技能実習生自身の行為戦略もまた、日本社会における彼(女)らの存在を「不可視」な状態に保つことに寄与しているのである。

 第4章は日本のアクター分析である。
この章ではとくに、賃金未払いや各種の中間搾取に直面した外国人研修・技能実習生による抗議行動やそれを支援する支援団体の活動に注目し、それらの活動が何故韓国で見られたような制度変革へつながる動きを形成できなかったのか、という問いを立て、それに答えを出すことが試みられている。日本においても、受け入れ団体や受け入れ企業による不正行為に対して研修生・技能実習生自身が「不満」を表出し、それを受けた支援団体が研修・技能実習生問題を社会問題化するような展開が全く起こらなかったわけではない。だが研修・技能実習生の抗議行動は殆どの場合、帰国直前での未払い賃金の回収要求という形態で行われていた。そうした行動は特定の職場において発生した「個別」のケースとして寸断されたままに止まり、集合化された要求へと結びつかない結果に終わることが多かったのである。筆者は日本でも研修・技能実習制度が社会問題として可視化されることはあるが、韓国のような全面的で継続的な可視化には至らず、個別的で一時的な可視化に止まるものであった、と評価している。
たしかに韓国と同様に日本においても、一部の支援団体は、個別ケースの救済に終始するのではなく、制度の変革や撤廃を政府に対して要求する運動を展開しようとしていた。個別的な相談活動に止まるのではなく、組織的なネットワーク形成の試みがなされ、省庁交渉などの政策要求活動も展開された。なかでも筆者は研修・技能実習制度をめぐる本格的な政策論議が初めて公的な場でなされることとなった2009年の入管法改正の過程に注目し、この過程で支援団体がどのような取り組みを行ったかを詳細に跡づけ、なぜ支援団体の活動が有効な影響力を行使できなかったのかについて考察している。筆者はその要因として、多文化共生というスローガンに示されているような議題設定の曖昧さ、研修・技能実習生問題を社会問題として可視化させるような動員ができなかったこと、具体的な代替法案、政策提案を提示できなかったこと、などを指摘している。
他方、研修・技能実習制度の問題をより明確に「労働問題」として認識し、この方向で運動を進めていく戦略も可能だったかも知れない。だが、研修技能実習制度の改正や変革において、日本の労働組合ナショナルセンターが現実的な影響力を行使するような展開は起こらなかった。同時に支援運動からも、ナショナルセンターや労働運動に対する積極的な働きかけは行われず、変革を求める運動におけるネットワーキングや動員は労働組合・運動全体ではなく、その一部しか取り組むことができなかった。その結果、日本においては、現行の制度的枠組みを維持・拡大しようとする国家や経営者による論議が前提となって制度的枠組みの改正が進められ、外国人研修・技能実習制度の維持・変革をめぐるコンフリクトは顕在化しなかったのである。

 最終章では、これまでの議論を整理するとともに、2009年の入管法改正により成立した新たな外国人技能実習制度が、結局のところ序章で指摘した日本の外国人労働者政策の「特殊性」を強化・再生産するものにほかならなかった、ということを指摘している。

3.本論文の成果と課題

 本論文の成果は以下のような点にある。
 第一には、日本の外国人研修・技能実習制度に関して、膨大な資料を駆使しながら1980年代以前の前史にまで遡って歴史的な変遷を跡づけるとともに、制度の現状についても俯瞰的な全体像を提示したことである。日本の外国人労働者に関する日本内外の社会科学的な先行研究を顧みると、日系ブラジル人に関する研究が量的にも突出し、質的にも高度な成果を達成してきた。就業者数において日系ブラジル人に迫る規模を持っている外国人研修・技能実習生に関しては、学術的な研究が量的に乏しいだけではなく、その多くが特定の事例に基づく断片的なものにとどまっている。研究がはかばかしく進んでこなかったのは、地理的な分散性、制度・政策の不透明性、多重の仲介者を介する雇用関係の複雑性、研究者のアクセスを阻むブローカーと受け入れ企業による妨害、など様々な要因が寄与しているが、本研究はそれらの困難な要因にひるむことなく、制度に関する通史と全体像を描き出す作業に取り組んだ。後に指摘するようないくつかの欠落点が残されているとはいえ、本論文で示された通史と全体像は今後この制度の研究に取り組む人々にとって有益な参照軸となることは間違いがない。
 第二には、2009年の入管法改正による「外国人研修・技能実習制度」から「外国人技能実習制度」への転換に関わる政策決定過程に密着して、とくに支援団体の影響力行使や動員のあり方について詳細な分析を行い、社会運動研究としても一定の成果を上げたことである。筆者の考察は、 ①自ら参与観察によって収集したデータを用いている点において、そして②同時期の韓国でも取り組まれていた外国人産業研修制度に対する支援団体の運動との対比を行っている点において、他の研究者の追随を許さない独自の知見を多く生み出している。
 第三には、この制度を構成する一方のアクターである研修生・技能実習生がとりうる行為戦略がどのようなものであるのかを探ることによって、この制度がもたらす「重層的な拘束」の構造を研修生・技能実習生自身の視点からも説明していることである。日本の外国人研修・技能実習制度について、類似の制度を導入してきた韓国と比較した場合にしばしば指摘されてきた特徴の一つは、「失踪者比率」の低さであった。この「失踪者比率」の低さに関しては、従来、制度を主導している側の管理体制、監視体制という観点から説明されることが多かったが、本研究は研修生・技能実習生自身の行為戦略としても「離脱」という戦略が取りにくいものであることを明らかにしている。この制度による重層的な拘束について研修生・技能実習生自身の観点からも説明を与えたことは、既存研究にはない本研究の功績といえよう。
 次に残された課題についても指摘しておこう。
 第一点は制度分析に関する課題である。本論文では、団体監理型制度における主要アクターである協同組合等の一次受け入れ団体について、二次資料に基づく基本構造の説明を与えるだけに止まり、アクター分析も含めた踏み込んだ考察を行うことができなかった。受け入れ団体に関しては、例えば、①人材ブローカーとしての収益構造、②受け入れ企業との関係、③JITCOとの関係、④送り出し団体の関係、など、まだ充分な解明が行われていない課題が多い。これらの点に関してさらに踏み込んだ解明を行うことを筆者に期待したい。
 第二点は労働市場分析に関する課題である。日本の労働市場における日系人と外国人研修・技能実習生の位置づけを比較した場合、後者の特徴は地域的、業種的な分散性にある。だが本論文では日本の労働市場のなかで、様々な地域・業種ごとに多様な活用がなされている外国人研修・技能実習生の実態を描き出すことができなかった。本論文は製造業全般を対象として設定し、「人手不足で悩む零細企業の生き残り戦略として活用される外国人研修・技能実習制度」という大きな枠組みによって現状を把握している。そうした認識が誤りであるというわけではないが、一口に製造業といっても、日本の外国人研修・技能実習制度は縫製業、鋳造業、自動車部品産業などそれぞれの業種ごとに独自の形態で展開している。本研究では、研修・技能実習生が働く製造現場での調査が不充分であるため、業種ごとの多様な姿を描き出すことができなかった。この点の解明も今後に期待したい。
 第三点は、政策過程分析に関する課題である。本論文では、政策決定における関係省庁間の利害調整という要因がもたらす影響力の大きさについて言及しているが、この点の具体的な解明にまで踏み込むことはできなかった。関係省庁の行動については、わずかに支援団体を通じてアクセスが行われただけに終わり、政策文書などの二次資料に基づく推測以上の収穫を得ることができなかった。法務省、外務省、経済産業省、厚生労働省など、この制度に関わる多くの省庁の利害のせめぎ合いや各省庁と制度を利用している業界の関係などについても、今後解明されるべき課題として残されている。
 とはいえ、こうした問題点については、筆者も充分に自覚しており、今後の研究によって克服されていくことが期待されるものであり、本研究の成果を大きく損なうものとは言えない。制度分析、労働市場分析、政策過程分析、という多方面にわたる問題点を指摘したが、このことは裏を返せば、筆者の問題関心が幅広いものであることを反映したものであるとも言える。

4.結論
 審査委員一同は、上記のような評価に基づき、本論文が当該分野の研究に寄与するところ大なるものと判断し、一橋大学博士(社会学)の学位を授与するに値するものと認定する。

最終試験の結果の要旨

2013年2月13日

 2013年1月21日、学位論文提出者、李恵珍氏の論文について最終試験を行った。試験においては、提出論文『日本の外国人研修・技能実習制度の構造とその変容に関する社会学的研究:韓国の外国人産業技術研修制度との比較を通じて』に関する疑問点について、審査委員から逐一説明を求めたのに対して、李恵珍氏はいずれも充分な説明を与えた。よって審査委員一同は、一橋大学博士(社会学)の学位を授与されるのに必要な研究業績及び学力を有することを認定した。

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