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「安丸良夫先生お別れ会」のご案内

2016/04/15

「安丸良夫先生お別れ会」を5月22日(日)の午後に開催します。

 第一部 一橋大学兼松講堂 13:15開場 14:00開始
 第二部 一橋大学マーキュリーホール(マーキュリータワー7階)17:00開始(受付開始は16:30を予定)

 第一部はどなたでも参加できます。第二部は会費をもらいうけます(七千円程度を予定)。
 第二部も、どなたでも参加していただけますが、参加申し込みフォームでお申し込みいただきたく思います。できますれば、5月15日(日)17時までにお申し込み下さい(入力できない場合は、事務担当者に御連絡下さい。登録させていただきます。なお、〆切りを過ぎてもご登録いただくことは可能です。参加できるようになった時点でご入力いただければと思います)。あるいは、「一橋大学社会学研究科事務室気付お別れの会宛」に葉書でお知らせ下さい。

 ※供花については、如水会清和にご相談ください。

安丸良夫先生お別れ会のご案内 第二部参加申し込みフォーム
※申し込みは終了しました



追悼・安丸良夫 1934-2016



2016年4月4日、安丸良夫一橋大学名誉教授が逝去されました。享年81歳でした。

安丸良夫先生は、1974年の出版以来、民衆思想史・民衆宗教史の画期的業績として高く評価されてきた『日本の近代化と民衆思想』をはじめとして、日本史学の分野でたえず学界の第一線に立ち、日本思想史研究の新しい可能性を開拓し続け、身をもって戦後の歴史学界をリードしてきました。

1934年、富山県に生まれた安丸先生は、1953年、京都大学文学部に入学、同大学院博士課程国史学専攻に学び、1962年から1970年まで名城大学商学部で教壇に立ったのち、1970年から退職する1998年まで約30年にわたり一橋大学社会学部で教育研究に携わりました。1997年から2005年までは客員教授として早稲田大学でも教育に携わりました。

単著として公刊された著作は9冊を数え、しかもいずれの著作も、発刊後、国内外の学界で話題を集め、必読書として高く評価されてきました。2007年に刊行された『文明化の経験』(岩波書店)は、幕末維新期を中心とした百年程の間に日本社会が根本的な転換(=文明化)を遂げたという視角から、人々の精神史に迫ろうとした待望の論考でした。反響は大きく、歴史学や宗教学等の関連諸学会で安丸氏をお招きしてこの著作の合評会(書評の会)がいくつも催されました。2013年1月からは、著作集『安丸良夫集』(岩波書店、全6巻)の刊行が始まりました。

その広汎な業績を短く紹介するのは容易ではありませんが、あえて言えば、近世から近代社会成立期の民衆思想・民衆運動・民衆宗教の研究、国家と宗教をめぐる思想史的研究、天皇制をめぐる思想史・精神史分析、そして現代日本の思想状況を論じた研究まで非常に多岐にわたっています。

安丸先生の歴史学界における最大の功績のひとつは、民衆思想史研究という新たな学問・研究潮流を生み出したことにあります。著書『日本の近代化と民衆思想』は、日本の近代化を支えた民衆のエートスを「通俗道徳」と名づけ、通俗道徳論を切り口にして近世~近代の民衆の思想的可能性(及びその限界)を考察した名著で、海外でも紹介され、高い評価を得てきました。『出口なお』は、通俗道徳の実践者である出口なおが大本教を開くにいたる思想形成過程を精緻かつ丹念に描いた研究書で、評伝中の白眉だと評価されています。

安丸先生は、民衆の思想・精神の軌跡を叙述する一方で、民衆が主体を形成していくなかで対峙せざるを得なかったものにも着目して、『日本ナショナリズムの前夜』『神々の明治維新』『近代天皇像の形成』等の著作を執筆しました。そこには、民衆思想・民衆運動・民衆宗教が、国民国家・天皇制国家に強力にからめ取られていく過程が描写されていますが、この見解は今日では、研究史上の通説の位置を占めています。民衆思想史の立場から思想史の方法論を提起したことも特筆すべきことで、著書『<方法>としての思想史』は、斯学を志す者の入門書となっています。また、著作の執筆と同時に、安丸先生は、研究の材料となる基礎史料の整理・刊行にも積極的に取り組んできました。日本思想大系に収載された『民衆運動の思想』・『民衆宗教の思想』、日本近代思想大系の『宗教と国家』・『民衆運動』等は、それぞれの分野の研究を飛躍的に進める役割を果たした史料集で、それらに付された重厚な解説論文とあわせて、後学に与えた影響は非常に大きいものがあります。また、日本史・世界史の一流の研究者を組織して編集した『岩波講座 日本通史』・『岩波講座 天皇と王権を考える』等の講座は、安丸先生の研究の視野の広さを示すお仕事でした。

安丸先生は、国際的な研究交流にも積極的に取り組み、韓国の宗教史研究者をはじめ海外の研究者にも大きな影響を与えてきました。2013年10月、米コロンビア大学で、著作集の完結を記念し、キャロル・グラック教授の主宰により安丸先生の歴史学を検討する会が催されました。日本女子大学教授の成田龍一氏は、このときの様子について「報告者にはハリー・ハルトゥーニアンさんやタカシ・フジタニさんなどアメリカを代表する日本研究者が並ぶとともに聴衆には若い大学院生がひしめき合っていた」こと、「肺の手術の影響で、いくぶん聞き取りにくい安丸さんの発言を、みな一言も聞きもらすまいと耳をかたむけていた」ことをふり返っています。 i)

私たち一橋大学社会学部・大学院社会学研究科にとって、安丸先生の30年近くに及ぶ日本史研究そして本学部・研究科の発展に対する貢献と学恩に対する感謝は、言葉では言い尽くすことができません。安丸先生を同僚あるいは名誉教授・恩師として仰ぎ得ることは私どもの誇りでありました。一橋大学退職後も安丸先生は国立市に住み、キャンパスやご自宅で研究仲間や友人をいつも温かいお心遣いをもって遇して下さいました。安丸先生は私たち全てにとって卓越した教師であり、親しい友人であり、またいつまでも知的刺激を与え続けてくれる存在でした。

2016年2月29日の晩、安丸先生は献本に対する──いつものように鋭い批評と励ましを記した──お返事の葉書を投函するために郵便ポストに向かって歩いていたところ、乗用車にはねられ、病院に搬送されました。入院中、先生は意識を回復し、見舞いに訪れた友人たちと会話を交わすこともできましたが、肺炎を併発し、肺がんとの闘病で片肺の機能しか残されていなかった先生は、4月4日の朝、奥様の彌生さまに看取られて逝去されました。

私たち一橋大学の一同は、教え子・同僚・友人の皆さま、そして先生の不慮の死を悼む日本と世界の全ての皆さまと共に、安丸良夫先生のご逝去を心より追悼します。

一般に公開される「お別れ会」は、2016年5月22日午後2時より、一橋大学キャンパス兼松講堂において開催されます。

お悔やみの言葉をお送りになりたい皆さまには、下記のメール・アドレス宛にメッセージをいただければ幸いです。




2016年4月21日
一橋大学大学院社会学研究科





i) 成田龍一「安丸良夫さんを痛む」『朝日新聞』2016 年4月13日掲載。