【第20回】一橋哲学・社会思想セミナー


【日 時】 2019年11月29日(金) 13:30-17:00

【場 所】 国立東キャンパス 第三研究館3階 研究会議室    アクセスマップ キャンパスマップ

講演者】 川瀬和也(宮崎公立大学)

【講演タイトル】 分析哲学者のためのヘーゲル研究入門

【要旨】

 ヘーゲルは、西洋哲学史におけるビッグネームでありながら、同時に、分析哲学者にとって最も近寄りがたく難解な哲学者の一人である。しかし近年では、分析哲学者としても著名なR. ブランダムやJ. マクダウェルが度々ヘーゲルに言及してきたことなどから、以前に比べて、英語圏の哲学業界におけるヘーゲルの存在感は大きくなっている。また、この流れと相互に影響を与え会いながら、分析哲学に親和性の高い英語圏のヘーゲル研究が、急速な発展を遂げてきた。このような背景のもと、本公演では、特に非専門家の立場から押さえておくべき近年のヘーゲル研究の動向を紹介し、非専門家としてヘーゲル哲学をどのように扱っていくべきかについて、オーディエンスとともに考えてみたい。この目的に鑑み、本公演は内容・形式とも、レクチャーの要素を強めたものとする。この観点から、講演を三つのパートに分ける。各パート1時間弱、合計3時間程度を予定している。また、アクティブ・ラーニングの要素を取り入れ、大学院生へのプレFDの機会とする。

目的
 現代英語圏におけるヘーゲル受容の状況について知る。また、これを通じて、各自の関心に応じてヘーゲル哲学との付き合い方を考える。

目標
ヘーゲルが大まかに言ってどのようなことを考えた哲学者なのか、説明できる。
・現代英語圏におけるヘーゲル研究の流れについて説明できる。
・分析哲学とヘーゲルの接点について考えることができる。
・行為論を題材に、分析哲学の議論とヘーゲルの議論を結びつける際の注意点を考えることができる。
・ヘーゲルの文章の特徴について説明できる。

パート1:現代のヘーゲル研究
 講演の最初のパートでは、ヘーゲル哲学に関する基礎知識を提示したうえで、現代英語圏のヘーゲル解釈の大まかな特徴を整理する。
 ヘーゲル哲学のとっつきにくさには、第一義的には、彼の文章の異常なまでの難解さ、晦渋さに由来する。しかし、それ以外に、比較的容易に取り除くことができる、とっつきにくさの要因もある。それは、ヘーゲルが生きた当時のドイツの哲学者たちの中で、カント哲学をめぐる問題が当然の前提として共有されていたということだ。この前提を共有しない私たちにとって、ヘーゲルの叙述はいかにも唐突に見えたり、リサーチ・クエスチョンを欠いているように見えたりする。このことを知っておくだけでも、ヘーゲル哲学はぐっと近付きやすくなる。
 カントとの関係という問題は、ヘーゲル哲学研究史においても問われ続けた問いである。近年の英語圏のヘーゲル研究も例外ではない。そこにおいても、カントとヘーゲルの関係をどう理解するのかという問題は、中心問題であり続けている。本講演でも、この観点を軸に、現代英語圏におけるヘーゲル研究の論争状況を整理したい。

パート2:ヘーゲルと分析哲学
 このパートでは、特に分析哲学の立場からヘーゲルにアプローチするにはどうすればよいかを考える。
 分析哲学とヘーゲルの接点といえば、真っ先にブランダムやマクダウェル、あるいはセラーズの名前が浮かぶだろう。彼らがヘーゲルに注目しているのは、単なる気まぐれや個人的な好みだけによるものではない。むしろ彼らによるヘーゲルへの言及は、近年の分析哲学の発展と話題の多様化によって、ヘーゲルを援用できそうなトピックが、分析哲学の中に増えてきたことに敏感に反応したものであるように見える。具体的には、(メタ)形而上学への関心の高まりや、制度や社会に関する研究の隆盛、行為の哲学とメタ倫理学の接続、そして、いわゆる理論と実践の区別にメスを入れようとするプラグマティズムの隆盛といった、分析哲学内部の動きを挙げることができる。
 本講演では、これらの流れを概観した後、行為の哲学を例にとって、ヘーゲルと分析哲学を接続させる生産的な試みとしてどのようなものがありうるかを考える。これは単にヘーゲルを扱うコツのようなものを論じるものではなく哲学研究と哲学史研究の関係を考えるきっかけにもなりうるトピックである。

パート3:ヘーゲルを読んでみる
 パート1とパート2を通じてヘーゲル哲学の概要がつかめたとしても、そのことと、実際のヘーゲルの文章を読むことの間にはなお距離がある。このパートでは、実際にヘーゲルの文章を読みながら、その特徴を紹介し、読解のコツを考える。ヘーゲルを読むことは、新たな言語を学ぶことに似ている。短い時間の中でヘーゲルをすらすら読みこなせるようになることは難しいが、それでもヘーゲルの文章の特徴を理解し、自力でヘーゲルを読むための入り口に立って
もらえるような内容としたい。


参加費無料、事前申し込み不要です。お気軽にご参加ください。