【第14回】一橋哲学・社会思想セミナー


【日 時】 6月23日(土) 13:00-18:00

【場 所】 国立東キャンパス 第3研究館3階 研究会議室   アクセスマップ キャンパスマップ

【講演者】 稲岡 大志(神戸大学)

【タイトル】  哲学者の求めたるところを求めず、
哲学者の跡を求めよ
         ――哲学史研究はいかにして哲学的意義を持つか?

【特定質問者】 淵田 仁(一橋大学) 遠藤 進平(アムステルダム大学)

【講演要旨】

哲学史研究(過去の哲学者の著作に関する研究)はどのような哲学的意義を持つのか。これまで、2016年6月一橋大学哲学・社会思想学会シンポジウム「哲学研究の比較」、2017年5月日本哲学会第76回大会シンポジウム「哲学史研究の哲学的意義とはなにか?」、2018年5月日本哲学会第77回公募ワークショップ「哲学史研究の哲学 ケーススタディ編 ライプニッツ研究の場合」といった機会を通じてこの問いの検討が試みられてきた。本発表ではこうした先行議論を踏まえた上で、より説得力のある(つまり、哲学史研究が哲学的意義を持ちうることに懐疑的、悲観的、否定的、絶望的な人も納得してしまうような)哲学的意義を持つ哲学史研究のモデルを提案する。

これまでの議論では、ほとんどの論者が、過去の哲学者の著作の検討は、現代の哲学的問題になんらかのかたちで手がかりを与える、という意味で哲学的意義を持つという路線を採用してきた。本発表もまたこの路線の上に立ち、その上で、哲学史研究は、何らかの哲学研究のプロジェクトに作業仮説や方向性などを提供するという意味で貢献している、とする「プロジェクト型アプローチ」を提案する。

しかし、学会誌に掲載されている哲学史研究の論文を手に取り、これはどのようなプロジェクトにどのように貢献しているのか、と考え始めると、とたんに苦悩してしまうだろう。専門分化が進む現代の哲学史研究においては、一つ一つの論文を単独で眺める限り、それが具体的にどのような哲学の問題にどのような関わり方を持つのか、想像することが容易ではない。そこで、本発表では、哲学史研究の哲学的意義は、個々の論文単独で評価されるべきものではなく、複数の哲学史研究を一つのまとまりとして捉え、それに対して評価されるべきであると主張する(こうした評価方法を「集合式評価」と呼ぶ)。さらに、プロジェクト型アプローチ+集合式評価を可視化する方法として「モナドロジー・モデル」を提案する。このモデルを用いることで、哲学史研究が持つ哲学的意義がより具体的なかたちで理解可能なものになることが見込まれる。

したがって、本発表が提示するモデルは、哲学史研究がどのようなかたちで哲学的意義を持ち、その意義はどのようにして評価されるべきか、という、哲学史研究の哲学的意義をめぐる2つの問いに答えることができる。これに加えて、発表者が専門としているライプニッツ研究を具体的な事例として提示することで、このモデルの説得力を高めてみたい。しかし、具体例が一つだけでは説得される人もそう多くはないだろう。むしろ、「ライプニッツだからうまくいくのであって、○○だったら無理ではないか」(○○には具体的な哲学者の名前が入る)と疑問に感じる方もおられよう。そこで、本発表では、参加者にグループワークに取り組んでいただく予定である。各自が専門とする哲学史研究がどのような哲学研究のプロジェクトにつながっているのか、哲学史研究を専門としない参加者も交えて、モデルを具体的に作成してもらい、参加者全員で共有することで、このモデルの特徴と問題点をよりはっきりさせて、今後、この主題の議論がより円滑に、より効率よく進展する可能性に繋げたい。(哲学史研究の業績がおありのかたは、どのような形式(コピー、抜き刷り、電子ファイルなど)でもかまいませんので、当日お持ちいただけるとありがたいです)


【講演者紹介&趣旨説明】

 稲岡大志氏は、ライプニッツの数学の哲学、幾何学研究の哲学的重要性などを主たる研究テーマとする気鋭の哲学史研究者であり、様々な学術雑誌で継続的に論文を公刊している。日本ライプニッツ協会で研究奨励賞を受賞していることなどからもわかるように(2014年)、そのライプニッツ研究のクオリティの高さは折り紙付きであり、2018年にはその成果をまとめた『ライプニッツの数理哲学』が研究成果公開促進費(日本学術振興会)の支援を受けて出版される予定である。また、それに加えて論理学者との共著論文がJournal of Philosophical Logicに論文が掲載されるなど、同氏は数学の哲学や現代文化論も含めて広範な活躍を見せている(詳細は<https://researchmap.jp/hiroyuki.inaoka/>を参照)。

 今回の講演では、2018年日本哲学会大会の公募WS「哲学史研究の哲学 ケーススタディ編 ライプニッツ研究の場合」で稲岡氏が提起した「モナドロジー・モデル」をさらに練り上げたものについて提題いただき、それを元に、多様な観点から議論ができればと考えている。本セミナーは、様々な観点からコミット可能であるという意味で広く開かれたものであることを意図されている。哲学史に向けられる(いわれのない?)批判に日頃不満を抱えている方、哲学史研究との有意義な交流をどう実現するかに関心がある方、逆に哲学史研究に批判的な方、あるいは稲岡氏のトーク力に魅了されている方、いずれの参加も(哲学史研究に何らかの関心を持つ限りにおいて)歓迎される。