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Pulp Fiction


バブル・ザ・バブル

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その八

フィリピンから伊丹空港に着いた僕は、なごり惜しげなクミコの視線を避け、「元気出して」とだけ告げてタクシーに乗った。客に身分証明証をみせない運転手に、あらためてほっとした。

翌日から、もとの不遇で軽めの生活がはじまった。厄介事から抜け出した僕だったが、今度はありがたいとは思わなかった。むしろ、むなしかった。

四億の脱税金と殺人事件は、結局僕に何の問題も残さないかわりに、何一つ与えてもくれなかった(むろん、あのキスは別として)。クミコとミヨの二人組にかかわりつづけるのはご免だったが、だからといって逢えなくなるとなぜか淋しかった。クミコがまた電話をよこすにしても、きっと今度はさらに面倒な事態だろうから、電話など欲しくない。でも、逢えないと寂しいと思うひとからの電話が要らないなんて、もっと寂しかった。

一週間、二週間が経ったが、電話はなかった。むなしさも寂しさも、時間が風化していく。そう僕は思いはじめた。過去のほかの出来事と同じように、感情の記憶はうすれて、ただ不幸せな自分、軽い毎日を生きる自分だけが残るのだ。

三週間、四週間が過ぎるにつれて、僕は本当に不遇で軽めのひとでしかなくなった。教壇に立ってもごもごとした口調でつまらない講義をし、会議では役好きの教授たちの非常識な発言を黙って聞き流した。通勤電車ではあいかわらず推理小説を読み、クリスマス・ソングが流れる地下街でひっそり総菜を買って、1LDKのマンションに帰った。

大学は冬休みに入ろうとしていた。明日から休みという日の真っ昼間、研究室の電話が鳴った。

「山部先生」

元気いっぱいで愛想のよい男の声だ。ということは、大学関係者や学術出版の編集者ではない。

「私、松竹銀行登美ヶ丘支店長のナミヒラと申します」

ふと、いやな予感がした。四億という数字が頭をよぎった。

「先生、フィリピンのケサナ・ラスカサス・デ・オチョ株式会社から二十億二万三千十二円のお振り込みです」

数字の半端さよりも大きさに圧倒された。こんな桁外れのカネにはかかわりたくない、とまず思った。

「どちらにおかけですか? 僕に関係はありません」

「先生!」 ナミヒラはめいっぱい興奮していた。「このたびは当銀行をご利用いただき、本当にありがとうございます。つきましては追って、是非ご相談申し上げたいことがございます。いかがでしょうか? これからそちらにお伺いして、よろしゅうございますか?」

「勘違いなさってると思いますよ」、と言いながら僕の舌はもつれた。「なにかの間違いでしょう」

間違いでなければどんなにいいか、とひそかに考えはじめていた。

「ヤマベ・クニヒコ様でいらっしゃいますよね?」

ナミヒラの自信が揺らいだように聞こえる。がんばれ、ナミヒラ。

「当支店に口座をお持ちで」 ナミヒラはがんばった。「登美ヶ丘の大学に勤務されておられる山部様ですよね? お住まいは東大阪市小松原三の十四の七の二〇三でらっしゃいますよね?」

「わたくしです」

かっと全身が熱くなったが、浮かれはしなかった。むしろ天にも昇る気持ちに、地獄から足を引っ張られる気持ちが絡みついた。間違いなく、僕の口座に巨額なカネが振り込まれた。だがそれは、まったく正体不明のカネなのだ。

「先生、これからご相談に伺ってもよろしいでしょうか? 是非とも先生のお役に立てるよう、私どもは力を尽くす所存でございます」

本当に銀行から電話なのか? 胸騒ぎがして、僕は答えた。

「いえ。僕が銀行に出向きましょう。これからすぐ行きます」

ナミヒラは恐縮に恐縮を重ねる口調で僕を待つ旨を伝えると、電話を切るのを待っている。受話器を置いたとたん、また電話が鳴った。

「クミコよ」

そうか。やはり、いわくつきのカネなのだ。

「いま、社長の息子から手紙がきたんよ。開けて読んだけど、うち、ようわからんのよ。よくみたら、あんた宛てや。みせにいっていい?」

ナミヒラはどんな思いで、僕の遅れた到着を待ったことだろう。僕は僕で、銀行の真向かいの喫茶店でクミコが来るのを、首を長くして待った。

ニセ毛皮のコートを羽織った彼女は、厚手の赤いオーバーを着せたミヨの手を引いて店に入ってきた。

「これやねん」

彼女は封筒のまま僕に手渡した。封筒の宛名は確かにクミコになっており、切手には東京のスタンプが昨日の日付で押されている。差出人の住所と名前は見あたらなかった。

僕は中味をとりだした。縦書きの白い便箋がたった一枚出てきた。「山部様」と最初の行の上に記されている。なるほど、僕宛ての手紙らしい。
犬神教の水晶紅大先生のご指示にしたがい、御口座に約二十億円ふりこみます。

これから毎日朝八時に線香をともし、西南西の方向にむけて三十回犬神様ととなえて両手あわせてください。

わたくしのよごれた人生がきよめられ、腸のガンも良性にかわりますように。男の人生には勝つか負けるしかありません。わたくしは人生に勝ち、きよめられるでしょう。

悪いナオミ叔母に金など渡したくないので、あなたとクミコをだましました。すみません。しかし四億円はわたくしの力で二十億円になりました。上場直前でケツをわりそうな会社にたのまれて、つぎ込みました。決算ほう告がぶじに通り、株が公開されました。フィリピンのゆうれい会社をつうじて、きれいになって帰ってきました。税金も心配なしです。さいわいフィリピンにいらっしたので、投資コンサルタントとして多額のお礼を受け取ったかたちにできます。

しかしこの二十億円はクミコの金ですので、よろしくクミコをお願いします。父の遺言にしたがい、もっと早く彼女を助けてやればよかったと反省します。父の心配どおりクミコはばかな女であり、水晶紅大先生に事情を話すとこうするようにおすすめになるので御口座にふりこみます。

彼女とともにすこやかな人生をお過ごしください。わたくしはきよめられるでしょう。いつか死ぬときにはナオミ叔母だけが相続人なので、犬神教の神様にそっくり寄付してみもとに参る所存です。

合掌。

昭和六十一年十二月吉日
なるほど、クミコでなくても理解しにくい手紙だった。

何度も読み返した末に、ようやく大意をつかんだ。要するに、やくざな道を歩いてきた金持ちのどら息子は、親の富を相続した直後に、自分がガンに冒されているのを知った。彼には家族も子どももいないから、残った富は大嫌いな叔母に行くしかない。そこで父親の遺言を思い出し、可哀想で頼りないクミコのために、彼女が安心して一生を送るだけのカネを保証する道をさがした。どこかの新興宗教がこの男をカモにして、いい加減な指示を与えた結果、彼は見ず知らずの僕の口座にカネを振り込むことを、最良の道と判断したのだ。

封筒と便箋をみつめながら、僕はできるかぎりの疑念を掘り起こしてみた。

カネの出所は確かか?

きっと、あのカバンに詰められた四億円がはじまりだ。株の上場はこのところ、あちこちでおこなわれている。この文面から察するに、彼は上場を認められた会社が、決算報告の不正をあやうく露呈しそうになったときに、あの四億円を拠出した。つまりは上場の利益がパアになりそうになった会社を、窮地から救ったのだ。

見返りに彼は、大量の未公開株を受け取った。公開株を売却して得た彼の莫大な利益は、いまフィリピンの幽霊会社を経て、日本に戻ったというわけだ。

でも、僕の口座番号をどうやって調べたのか?

男は僕の勤務先を知ってるし、松竹銀行は大学の主要取引銀行である。僕の給料はここに振り込まれる。それに口座を調べる目的は支払いでなく振り込みであり、わけても巨額な入金だから、登美ヶ丘支店に直接問い合わせておしえてもらったのかもしれない。

とはいえ、こんな話を本当に信じていいか?

男はやくざの道に足を踏み入れたが、根は金持ちの坊ちゃんだ。有り余るカネを相続したけれど、ガンに冒されたいまとなっては、文字どおり神にもすがる心境だろう。カネは死んで持っていけない。大嫌いな叔母が持ち去るだけだ。それに彼には、親身になって相談する相手もいないらしい。とすれば、新興宗教のあやしげな予言に、すがりついたとしてもおかしくない。

僕はごくり唾をのんで、さらに自問した。

税金は、大丈夫か?

僕がフィリピンに行ったことは確かだ。だから、フィリピン国内での投資事業をアドバイスする専門家として、相当の謝礼をもらったとしてもおかしくない。顧問料が妥当かどうかを総利益に照らして判断するのは、日本側でなくフィリピン側の司法だ。莫大な顧問料にかかる税金は、現地ですでに払ったかたちになってるのだろう。幽霊会社はそのためにある。

ということで、すべてOKか?

違う。文面をよくみろ。毎日の祈祷? そんなものは、やらなくてもわかりゃしない。問題は、「クミコのカネですので、よろしくクミコをお願いします」というくだりだ。最後の段落には、「彼女とともにすこやかな人生をお過ごしください」とある。

いったいどういう意味か? 社長に愛された彼女の面倒を、今度はこの僕が引き継いでみろということだ。僕はマニラのホテルで三人で過ごした一夜のことを、生々しく思い起こした。

松竹銀行登美ヶ丘支店の入り口にクミコとミヨを連れて立ったとき、僕はまだ対処を決めかねていた。手紙の内容はすでに彼女にかいつまんで説明したが、よく理解できないという。二十億円の扱いは、支店長の話を聞いた上で判断するしかない。

「山部ですが」

カウンターに坐る女子行員のひとりにそう告げると、行員全員がぴんと耳をそばだてるのがわかった。

「先生、どうも。お待ちしておりました。さ、さ。どうぞこちらへ」

中年男の行員が現れ、もみ手と笑顔とお辞儀を同時にこなして、僕らを店の奥の部屋へと案内した。

「ご家族で来ていただいたんですね。ありがとうございます」

男は三人を長いソファに座らせると、そう言って返事も待たずに名刺を差し出した。支店長代理とある。

「支店長のナミヒラも、すぐ参ります」

ナミヒラは、部下のこの言葉を合図に登場した。

「先生、どうも。先ほどは、電話でご無理を申しまして失礼いたしました」

満面の笑みをたたえて向かいに坐った彼の顔は、名前のせいか気のせいか、ヒラメに似てなくもない。

「あっ、奥様とお嬢様で。結構ですな」

この男に事情を明かして最善策を引き出すまで、どれだけ時間を要するのだろう。僕は気が遠くなった。

「電話でご報告したお金は、きょう日本時間の十二時二十五分に、当店の先生の口座に振り込まれまして。金額が細かいのは、ドル立てで送金されたためです。詳細は、こちらに打ち出してあります」

そういうなりナミヒラは、コーヒーか紅茶のどちらがいいかを僕らに訊いた。

「先生がコーヒーで、奥様は紅茶。では、お嬢さんにはジュースをお持ちしましょう。な、君、わかったろ。わしもコーヒーやで」

途中で急に口調を変えると、入り口に来ていた女子行員が深く頭を下げた。

「先生、それでですな。差し出がましいことを申して恐縮なのですが、いまお振り込みのあった御口座は、そのう、先生のお給料が毎月振り込まれる口座ですよね」

薄給と二十億との数字差に身の縮まる思いだったが、ナミヒラは平然とつづけた。

「つまりその、普通預金にあたるのです。それで、私どもが先生のためにご提案申し上げたいのは、お定期をつくりいただけないかということです。もちろん、当店は先生のため、ご家族のために、大勉強、猛勉強させていただきます。君、あれ貸してくれ」

また途中で口調が変わると、さきほどの支店長代理が近寄って来て、プラスチック製のボードをナミヒラに渡した。

「先生、これをご覧いただきたいんです。私どものご提案が、どれだけ先生にとってお役に立つのか、いっぺんにわかります」

四・〇%、四・〇五%、四・二%といった似た数字がべたべた並べられていて、僕には正直ぴんとこなかった。ナミヒラはそれぞれの数字が、どの銀行のどんなタイプの預金の金利かを説明していくと、急にボードを裏返してみせた。

表面とそっくりの表示だが、四・三%、四・三五%、四・五%とか高めの数字が並んでいた。ナミヒラはそれが、どの銀行のどんなタイプのローンの金利かを説明した。それから急に声を大きくして、一番高い数字を手の甲で繰り返し叩いてみせた。

「先生。これですよ、これ。私どもは、お金を貸すときよりも高い金利を、先生の定期預金にご提供しようというんです。どうですか? この最高の数字でお預かりさせていただくのです」

ナミヒラはそう言うと、両手を股の間にはさんで頭をさげた。くっと笑うと、顔を上げて照れ笑いを披露した。

「銀行とはおもしろいところでしてな。金貸しのくせして、金貸し以上の金利を預金におつけするんですよ」

僕は笑っていいのか、真剣な顔をつづけるべきなのか迷った。

ナミヒラは迷いを見透かすように、また口調を変えて「おい、電卓や」と支店長代理に言った。人差し指でぽんぽんと小気味よくキーを叩くと、彼は僕にそれを手渡した。

90、000、000

ゼロばかりちらちらするが、すぐには読めない。

「九千万円」 ナミヒラは僕の目をみて笑った。「どうですか。年間で九千万円の利子ですぞ」

驚く僕をさらに圧倒するように、彼は電卓を自分に向けて何回かキーを叩くと、ふたたび僕に数字をみせた。

 7、500、000

今度は読める。七百五十万円。

「月にならすと、こういうところです」

僕の年収よりずっと多かった。三十で割れば二十五万。ただ寝起きするだけで、毎日あたらしく二十五万円が転がり込んでくるのだ。

僕はくらりとした。カネに目がくらむとは、本当の話なのだ。

「なにか問題がおありですか?」 ナミヒラは僕の目をのぞき込んだまま、真面目な顔をして訊く。「率直におっしゃっていただければ、私どもとしましても、先生のため、ご家族のために、力を尽くす所存です」

やはり彼だって、この大金のうさんくささを嗅ぎとっていたのだ。ナミヒラは繰り返した。

「問題がおありなら」

問題は、僕の良心だった。

「実をいいますと」 良心が声をだした。「詳しいことは省くとして、あのですね。この大金は僕のカネではなく、彼女のカネなんですよ」

僕はクミコを指さした。

「はあー」 ナミヒラは目を丸くしてソファにもたれた。「奥様のお金なんですか」

「ですから、あの。彼女の名義でここに口座を開いて、それにいまの利子率をつけてもらえないでしょうか?」

僕は一挙に要望を伝えた。ナミヒラはソファに沈んだまま、なかなか起きあがろうとしない。禿げかかった頭のうしろで両手を組むと、彼はおもむろに体を起こした。

「話が少し違ってきますな、先生」

ナミヒラは金貸しの顔になっていた。

「うちとしては、それでも有り難いお話なのですがね、先生。ただそうすると当然、贈与税をもっていかれますな。七割の税金。二十億円の七割ですよ、先生」

それでも大変な数字が残るでしょう、と僕は暗算で掛けたり割ったりしようとした。でも急に力が抜けて数字がかすんでしまい、気がつくと先ほどのナミヒラのように、体をソファに沈めていた。

「笑うのは、税務署だけですな。先生」

いまこそ良心の声が必要だ。でも一度引っ込むとなかなか出てこないのが、僕の良心の欠点だ。

「ええやん、このままで」

クミコが声をだした。

「税務署はドロボウと一緒やて、社長がいうてた。わざわざカネ渡すことないわ」

「はい」

ナミヒラは背中を曲げずに体を斜め前に傾けた。クミコの方に向いたのである。

「奥様自身がそれをお望みなら、私どもには先生の名義を変えるように強制する権限などございません」

ナミヒラは僕を悪者に変えないよう気を配ったのか、すぐにもとの姿勢になって僕をみた。

「そうすれば、おふたりにかかる税金は、御利子のたった2.5パーセント。ま、法律で決めたことだから、これはいたしかたあませんが」

ナミヒラはまた電卓を叩いて、数字を僕にみせた。

「二百二十五万円」 胸を張って言う。「これだけの金額をおふたりでお納めになるわけです。立派なものですな」

「そら、たいしたカネや」 

なにを話してるのか、わかっているのだろうか? 僕は疑いの目でクミコをみた。

「それでいこ。な、あんた。うち、ちいとも構わんさかい」

彼女がこちらに向いたので、僕らはみつめあう格好になった。

「それでは」 ナミヒラは一件落着を宣言するように、体をそりかえらせて微笑した。「いまのお話は聞かなかったことにさせてもらいまして、私どもは先生と奥様とに、精一杯のご奉仕をさせていただきます。おい、君、通帳つくるで」

支店長代理を外に走らせたてから、彼はテーブルに置かれた飲み物を僕らに勧めた。

「いやあ、わが行は先生の大学と大変懇意にさせていただてまして」 間を持たせるためのおしゃべりだった。「最近では、理事長も私の名前を覚えてくださったようで、先日大学におじゃました折には、『ナミヒラ、元気か?』など言葉をかけていただきました。光栄ですな」

僕を不遇にした男に対する賛辞など、聞きたくもなかった。でも僕の脳裏にはふと、思ってもいなかった光景が浮かんだ。あの古狸の土建屋が二十億円の主となった僕をみて、目をみはるシーンである。

「なんや、二十億くらい」と鼻であしらうだろうが、中小企業の経営者にとっては欲しくてたまらない現ナマのはずだ。あいつはどんなに威張りふんぞりかえっても、事業のやりくりにあくせくしなければいけない。一方僕はといえば、借金や税金や手形決済になんら悩まされることなく、ただ毎日寝起きするだけで二十五万円を手にする身分になったのだ。あの男が大学に乗りつける運転手つきのベンツなど利子の一ヶ月分で買えるだろうし、運転手の月給となれば一日で払うことができる。

ただし、と忘れずに心でつぶやいた。これはクミコのカネなのだが。

「ほらできました」

支店長は真新しい通帳を開いて、ゼロが九個ならぶ金額を僕とクミコにみせた。それから頁をめくると、「山部」の三文判が大切そうにシールにおおわれて輝くさまを確認させた。

「お通帳とご印鑑はくれぐれも、別々に保存なさいますように。もしも御必要なら、私どもの貸金庫を是非ご利用ください。年間わずか五千円でお貸ししております」

そう言って微笑むナミヒラは、僕や理事長よりもずっと幸福そうだった。

僕らは部屋をでると、支店長と支店長代理と女子行員に付き添われて細い廊下をとおり、とくべつな出入り口に立った。外は銀行の駐車場のようだ。

「おとなしいお嬢様ですなあ」

ナミヒラはミヨの頭を撫でて、最後の愛想をふりまいた。

「またなにかございましたら、私どもにお声をおかけください。先生と奥様のために、精一杯お力になる所存でございます。どうか、末永くおつきあいくださるよう、お願い申し上げます」

支店長の言葉とともに、彼ら三人はそろって深々と頭をさげた。頭を上げた顔をみるのが恐くなって、僕は急いで回れ右して歩き出した。


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