2011年度学部基礎科目「政治学」
(一橋大学)



[ 授業概要 ]

 ワーキングプアの増大、少子高齢化、財政赤字、そして未曾有の大震災への対応など、日本社会は多くの深刻な課題に直面しています。しかし肝心の政治はほとんど機能していません。なぜ日本の政治はこれほど不安定なのでしょうか。なぜこれほど長く停滞が続いているのでしょうか。われわれは政治にどうかかわり、どう政治をよくしていくことができるのでしょうか。

 この講義では、現在の政治動向を例にとりながら、近年発展してきた政治学の諸理論、他の先進国との比較を踏まえ、日本政治の問題点を分析し、今後のあるべき方向をともに考えてみたいと思います。一人一人が政治学的な思考を身につけること、つまりたんなる政局批評ではなく、できるかぎり構造的・制度的に政治現象を分析できるようになることを目指します。


[ 到達目標と方法 ]

 到達目標は次の3点です。

(1)日本を含めた先進国がどのような政治課題に直面し、それらにどのように対応しようとしているのかを知ること。
(2)現代政治学の基礎理論を幅広く習得すること。
(3)以上を踏まえ、日本政治の機能不全の理由と今後の展望を、自分なりに分析し表現できるようになること。

 一方通行の講義とならないよう、適時学生への質問をはさみ、学生同士でディスカッションする時間を組み込みます。また講義時間内に2度の小レポートを実施し、次の時間でフィードバックと進度の調整を行います。


[ 授業計画 ]


日程 概要 アサインメント
第1回 オリエンテーション

第2回 漂流する日本政治
 全体のイントロダクションとして20年間の日本政治の流れをふり返り、政党の離合集散、対立軸の不在という問題を指摘する。
石川真澄、山口二郎『戦後政治史(第3版)』岩波新書、2010年、175-186頁、203-216頁、223-234頁
第3回 日本の政治経済体制の変容
 「コーポラティズム」と「仕切られた生活保障」という概念を軸として、戦後日本の政治経済体制の特徴と、90年代以降の変容について考察する。
宮本太郎『福祉政治』有斐閣、2008年、12-23頁、28-34頁
第4回 大きな政府と小さな政府@
 公共経済学にける市場と政府の役割区分を踏まえ、日本の行財政改革の流れについて検討する。
スティグリッツ『入門経済学』3版、東洋経済新報社、2005年、213-219頁、222-237頁(227頁、231-232頁を除く)
第5回 大きな政府と小さな政府A
小レポート講評とディスカッション@

第6回 政党は機能しているか
 先進諸国に共通する政党システムの変容を踏まえ、日本の政治改革、二大政党化の流れを検討する。
久米郁男ほか『政治学』有斐閣、2003年、452-457頁、485-489頁、496-502頁
第7回 大統領制と議院内閣制
 日本の官邸強化、政府・与党一元化の流れを、先進国の比較枠組みである「中核的執政論」を用いて検討する。
飯尾潤『日本の統治構造』中公新書、2007年、140-153頁
第8回 制度とリーダーシップ
 リーダーシップが機能する条件を「新度論」、「拒否権プレーヤー論」から探り、小泉政権以降の首相のリーダーシップを検討する。
新川敏光ほか『比較政治経済学』有斐閣アルマ、2004年、257-268頁
第8回 政官関係
 官僚の役割、各国の類型を踏まえ、日本の政官関係について検討する。
真淵勝『行政学』有斐閣、2008年、496-501頁、581-585頁
第10回 小レポート講評とディスカッションA
第11回 マスメディアとデモクラシー
 今日のメディアポリティクスと日本の問題点を、「言説政治」と「ポピュリズム」という枠組みから検討する。
蒲島郁夫ほか『メディアと政治』有斐閣アルマ、2007年、240-257頁
第12回 社会運動と政治
 日本ではなぜ環境政治やジェンダーポリティクスが弱いのかを、「新しい社会運動論」を参照して検討する。
丸山仁「社会運動から政党へ?―ドイツ緑の党の成果とジレンマ」大畑裕嗣ほか編『社会運動の社会学』有斐閣、2004年、198-212頁
第13回 グローバル化とナショナリズム
 ナショナリズムのゆくえを、「近代主義」と「原初主義」の対立、および「リベラル・ナショナリズム」論の枠組みから検討する。
大澤真幸編『ナショナリズム論の名著50』平凡社、2002年、296-313頁
第14回 現代政治とデモクラシー
まとめ



[ 成績評価の方法 ]

学期末試験(70点)+小レポート(30点)+通常点(上乗せ)の合計から、相対評価を行います。
小レポートは1回提出するごとに15点とします。
通常点は授業内での発言に応じて加算します。
なお前年度の成績分布(学期末試験受験者のみ)は以下のとおりです。A27%、B31%、C24%、D6%、F11%。


[ 成績評価基準の内容 ]

授業時間内の小レポートは、用意された質問に講義内容を踏まえて答えるという形式をとります。
学期末試験は、(1)現代政治学の基礎理論を理解し、(2)それを用いながら現代政治の問題点と展望を自分なりに分析し、表現できれば合格点とします。


[ テキスト・参考文献 ]

教科書はありません。リーディング・アサインメントは政治学の基礎知識を一通り習得できるよう、以下のテクストから幅広く抽出します。

久米郁男ほか『政治学』有斐閣、2003年
石川真澄・山口二郎『戦後政治史(第3版)』岩波新書、2010年
真淵勝『行政学』有斐閣、2008年
スティグリッツ、ウォルシュ『入門経済学』東洋経済新報社、2005年
伊藤光利ほか『政治過程論』有斐閣アルマ、2000年
飯尾潤『日本の統治構造』中公新書、2007年
新川敏光ほか『比較政治経済学』有斐閣アルマ、2004年
蒲島郁夫、竹下俊郎、芹川洋一『メディアと政治』有斐閣アルマ、2007年
建林正彦、曽我謙、待鳥聡史『比較政治制度論』有斐閣アルマ、2008年
宮本太郎『福祉政治』有斐閣、2008年


各回の参考文献は以下を参照。

→ 参考文献リスト