2015年度学部導入科目(必修)
社会科学概論U


1. 授業概要

【授業科目の目的】

 大学とは、学生と教員がともに自ら学びあうことによって、新しい価値や思想を生み出す創造的な現場です。この講義では、大学ばかりでなく多様な社会の現場においても、「知」の創造者・生産者・編集者として生きていくための技法とマナーを学習します。

 社会科学概論の目的は、専門分化した社会諸科学の原点にある共通の基盤を身につけ、「社会」を総合的にとらえられるようになることです。夏学期での学習は、高校と大学での学びを結びつけることに主眼がありました。冬学期の講義では、さまざまな専門分野の入り口となる論点や理論を広く学びつつ、社会科学の方法を体系的に学習することをめざします。

【授業科目の到達目標】

 本講義は、とくに次の2つのねらいをもって設計されています。
(1)現代社会の諸問題を、できるかぎり総合的、かつ複眼的な視点からとらえ、自分の中にできるだけ多くの問題意識を涵養すること
(2)「答えのない問題」と取りくみ、自らの立場を導けるような社会科学に共通する思考法・論理・調査法を身につけること

【授業の方法】

 講義とディスカッションを組み合わせます。リーディング・アサインメントの予習を前提として、現代社会の代表的な問題を扱いながら、社会科学の基礎的な技法を一つずつ習得していきます。各講義では、前半で現代の社会問題にかんする複数の立場や議論を紹介したうえで、グループ・ディスカッションを行います。後半では、こうした問題を検討するための方法論を提示し、実習を行います。その他、図書館での調査演習、レポート執筆と相互添削、グループ発表などをとり入れ、双方向的な形式となるよう工夫します。

【他の授業科目との関連】

 社会学部で必修となる導入科目であり、夏学期の概論を引きつぐ内容です。

【教育課程の中での位置づけ】

 社会学部の導入科目として、専門的な研究へと進むために必要となる学修スタイルと方法を身につけることをめざします。


2. 授業の内容・計画

【授業の内容】

 (1)社会科学の方法は以下の順序で学びます。
 「対立する見方を学ぶ」、「批判的な議論を構築する」、「問いを発見し、仮説を立てる」、「データを収集し、仮説を検証する」、「歴史と比較を活用する」、「文献を調査する」、「事実と規範の違いを学ぶ」、「理論や概念を用いる」、「論文を執筆する」。

 (2)今年度の講義では以下のような題材・論点を扱います。
 大学教育の意味、新卒一括採用・終身雇用を維持すべきか、格差の拡大は問題か、なぜ少子高齢化が進んでいるのか、国家と市場の関係、公正な社会とは何か、グローバル化は世界を不幸にするか、社会を総体としてとらえる諸理論。

 グローバル化の波にさらされ、私たちの生活のあり方、働き方、家族のあり方、教育のあり方、政治経済のしくみは大きな変化のただ中にあります。私たちは数多くの未解決の「問題」や「矛盾」に日々直面しています。こうした時代だからこそ、複眼的かつ総合的な視野をもって問題をとらえ、社会科学的な思考を武器にして、解決策を模索していく必要があります。本講義では、一方通行の「講義」をできるだけ減らし、受講者がともに考え、論じあう形式を重視していきます。

【計画(回数、日付、テーマ等)】

1. オリエンテーション

2. 大学で何を学ぶか ― 大学改革をめぐる論争
 テーマ:ゆとり教育と入試改革、職業教育の是非、大学で学ぶことの意味
 方法:複眼的な思考とディスカッション、パラグラフのつくり方

3. 働くこと ― 日本型雇用をめぐる論争
 テーマ:新卒一括採用・終身雇用への賛否、労働市場の流動化は必要か
 方法:弁証法の構築、論文に必要な議論の展開とは何か

4. レポート・論文の書き方
 問いの設定、因果的推論、仮説演繹法
 良い文章と悪い文章、引用の仕方

5. 格差は拡大しているか
 テーマ:格差をめぐる論争、統計データの使い方
 方法:仮説の構築、概念の操作化、検証・反証可能性とは何か

6. 家族と社会 ― 少子化を考える
 テーマ:少子化のナゾ、家族意識の強化、「近代家族」の形成と変容
 方法:歴史を学ぶ意味とは何か

7. 国家と市場 ― 各国の多様性
 テーマ:国家はどこまで市場に介入するべきか、公共財・情報の非対称性・公平性
 方法:各国比較によって見えること、共変法と差異法

8. 文献調査の方法
  図書館での調査演習

9. 公正な社会
 テーマ:報酬の格差はどこまで許される? 〜 公正な社会とは?(ハイエク、ロールズ)
 方法:事実の検証と規範の関係、なぜ社会科学で規範理論を学ぶ必要があるか

10. グローバル化の是非
 テーマ:グローバル化は世界の格差を広げているか? 近代化論、世界システム論、ガバナンス論
 方法:データによる理論の修正と発展

11. 現代社会をどうとらえるか
 テーマ:社会を総体としてとらえるための諸理論(マルクス、ヴェーバー、ハバーマス、ギデンズ)
      ポスト近代/後期近代としての現代
 方法:理論をもとにして「問題」を発見する

12-14. 学生発表
  レポート提出もしくはグループ発表

15. 授業のまとめ ― 社会科学を学ぶ意味
 「来たるべき社会」への構想力をみがく

【テキスト・文献】

以下の文献を指定します。
 苅谷剛彦『知的複眼思考法』講談社+α文庫、2007年(880円)
毎回の課題文献はmanabaをつうじて指定します。講義はそれを読んだことを前提に進められます。

【授業時間外の学習(求められる予習・復習の内容)】

 指定された図書および事前配布された文献資料を毎回読むこと。
 それ以外に、授業内で書いた小レポートにたいする相互添削(第3回)、選んだ研究テーマの文献リスト提出(第8回)、グループ発表(第12〜14回)もしくはレポート提出と相互添削(第14回)が求められます。授業内容と連動したテーマを選び、十分な時間をかけて準備を行うこと。


3. 評価

【成績評価の方法】

毎回の討論への参加(不定期3回) 30%
小レポートの提出         10%
文献リストの提出         10%
グループ発表またはレポート    50%

上記の方法で60%以上を合格の目安とし、それ以上は相対評価(均等な分布)とします。
なお初めての授業ですので、成績評価の方法は、出席者数などにおうじて若干変更することがあります。

【成績評価基準の内容】

 受講者は学習スタイルを、高校までの受動的「勉強」から、大学以降で必要な主体的「学び・探究」へと転換していくことを期待されています。したがって、以下の二点をおもな基準として評価します。
(1)毎回の講義に予習したうえで臨み、積極的に討論に加わること
(2)自ら「問い」を立て、社会科学の「方法」にしたがった探究を行い、「理論」の構築に資するようなレポート(またはグループ発表)を作成する努力を行うこと


4. その他

【受講生に対するメッセージ】

 教員は社会科学概論をはじめて担当します。できるだけ学生の意見をとり入れつつ、ともに講義を作りあげていきたいと思っています。

 講義をつうじて、私たちが多種多様な未解決の「問題」に取り囲まれて生きていること、それらを一歩一歩着実に解決するためにこそ、社会科学的な思考が重要となることを理解していただければと願っています。