2013年度
学部ゼミナール


【研究分野】

政治学、政治理論、比較政治経済学


【ゼミの概要】

1. 目的

 グローバル化の下で、先進国は雇用、福祉、教育、家族などさまざまな仕組みの変革を迫られています。このゼミでは、現代政治の諸課題を広く扱いながら、それらを分析する力を養い、自分なりの意見を持てるようになることを目指します。その際、(1)欧米諸国の現状を踏まえ、レジーム比較の観点から日本の政治や社会を分析すること、(2)「公正な社会とは何か」「どこまでの平等が望ましいのか」など、できるだけ根源的な視座から自分なりのビジョンを作りあげること、の二点を重視したいと思います。

2. 概要

 日本の政治は過去20年にわたって漂流をつづけています。経済不況、財政赤字、少子高齢化、格差拡大、地方分権など多くの課題に直面しながらも、それらへの対応は遅々として進んでいません。このゼミでは「統治構造」「労働」「社会保障」という三つの柱を設定し、今日の政治が抱える問題を学問的に分析しつつ、将来の展望を考えます。

・3年夏学期
 新書レベルから出発して、先進国の現状、政治学・政治経済学・政治理論の基礎について幅広く学習します。毎回文献の報告者を決め、それ以外の参加者はコメントペーパーを用意し、内容についてディスカッションを行います。4年生と合同で時事問題に関するディスカッションも行います。

・3年冬学期
 より専門的な英語論文を輪読します。その目的は、英語での情報収集に慣れ、よりグローバルな視点を持てるようになることです。11月には筑波大学との合同ゼミを行い、12月以降はいくつかの課題ごとにグループを形成し、共同研究を行います。学期末には学術的な作法に沿ったゼミ論文を提出していただきます。

・4年夏学期
 各自で選んだ研究テーマを踏まえ、日本語もしくは英語の専門書について報告します。適時3年生との合同ゼミを行い、時事的なテーマに関するディスカッションも取り入れます。

・4年冬学期
 卒論の研究報告と個人指導(チュートリアル)をくり返すことで、学術論文レベルの卒業論文を仕上げていきます。過去の卒論の一部は担当者のウェブサイトに公開されています。


【テキスト】

夏学期に読む文献は以下のとおりです。

※導入
上野千鶴子、古市憲寿『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります』光文社新書、2011年

1. フレームワーク

コリン・ヘイ『政治はなぜ嫌われるのか』岩波書店、2012年
飯尾潤『日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ』中公新書、2007年
Katz, "Political Parties", in Caramani, Comparative Politics, Oxford Univ. 2011
新川敏光ほか『比較政治経済学』有斐閣アルマ、2004年
川崎、杉田編『現代政治理論(新版)』有斐閣アルマ、2012年

2. 日本と欧米の現代政治

宮本太郎『福祉政治―日本の生活保障とデモクラシー』有斐閣、2008年
濱口桂一カ『新しい労働社会』岩波新書、2009年
大江博『外交と国益―包括的安全保障とは何か』NHK出版、2007年
網谷龍介ほか編『ヨーロッパのデモクラシー』ナカニシヤ出版、2008年
レイプハルト『民主主義対民主主義―多数決型とコンセンサス型の36ヵ国比較研究』勁草書房、2005年
エスピン・アンデルセン『アンデルセン、福祉を語る』NTT出版、2008年

冬学期は、Oxford Handbookシリーズや、American Political Science Review, Comparative Politics, Journal of European Social Policyなどから文献を選択します。

※具体的には以下の本と論文を読みます。

・Mari Miura, Welfare Through Work: Conservative Ideas, Partisan Dynamics, and Social Protection in Japan, London, Cornerl University Press, 2012, 200p.

・Simon Bornschier, “The New Cultural Divide and the Two-Dimensional Political Space in Western Europe”, in Zsolt Enyedi and Kevin Deegan-Krause eds., The Sturcture of Political Competition in Western Europe, Routledge, 2011, pp. 5-30.

・Herbert Obinger, Peter Starke, and Alexandra Kaasch, “Responses to Labor Market Divides in Small States Since the 1990s”, in Patrick Emmenegger et al. eds., The Age of Dualization: The Changing Face of Inequality in Deindustrializing Societies, Oxford University Press, 2012, pp. 176-200.

・Jane Lewis, Trudie Knijn, Claude Martin, and Ilona Ostner, "Patterns of Development in Work/Family Reconciliation Policies for Parents in France, Germany, the Netherlands, and the UK in the 2000s", Social Politics, Volume 15, Issue 3, 2008, pp. 261-286.


【卒業論文タイトル事例】

「地方分権改革を規定する政治過程要因の国際比較分析−1980年代以降の日本・欧州における改革過程の検証」
「社会的排除の視点から見るハルツ改革後のドイツ社会−労働市場と教育制度の関連性」
「現代の日本における母子家庭の貧困―職業能力訓練による改善の可能性」
「規制緩和の進展に関する政治過程分析―電気通信事業と電気事業を事例に」
「政官関係の比較政治学的分析―日本の政官関係が政権交代に対応するために」
「政党の機能低下とその回復の試み−熟議民主主義と政党は統合できるのか」
「ユルゲン・ハーバーマスの討議倫理学―道徳的普遍主義と道徳的相対主義の止揚の成否」


【その他】

政治とは多様な価値を持つ人びとによる討議と共存の営みです。このゼミでも、できるだけ多様な価値観を持つ学生が自由に討議を行い、対立点を認めつつ、各々社会のビジョンを構築していくことを目指します。学生による自治を尊重し、教員はそれを手助けすることを役割とします。