2012年度
社会研究入門ゼミ


(一橋大学)

【授業概要】

題目: 「グローバル資本主義と民主主義」

 入門ゼミでは、今日の社会科学を代表する著作を輪読しつつ、日常的な政治・社会問題と、抽象的な理論や概念を結びつけるトレーニングを行います。目の前の問題を、社会科学的な概念を使って分析し、理性的に討議することを学びます。

 今年度のテーマは「グローバル資本主義と民主主義」とします。2008年以降の世界金融恐慌は、金融の規制緩和や短期的な資本取引の自由化が、どれほど多くのコストを社会にもたらすかを明らかにしました。一方、日本やヨーロッパ諸国の多くの国は、長らく低成長に苦しみ、グローバル経済に適応するような改革(労働市場の自由化、産業の規制緩和、政府の効率化など)を迫られています。市場の自由はどこまで許容されるべきか、政府の役割はどの範囲まで必要か。これらの問いは、「効率性と公平性のジレンマ」として長らく議論されてきましたが、まだ決着はついていません。しかしこれらの問いに正面から取り組まなければ、今後の社会のあり方を考えることはできません。

 このゼミでは、フリードマン、スティグリッツという二人のノーベル経済学賞受賞者の平易な本を輪読しながら、市場と政府の関係について、できるだけ原理的に考えてみたいと思います。


【学部・学年の指定】


学部1、2年生


【授業の目的・到達目標と方法】

 到達目標は以下の二点です。

(1)文献の読解、レジュメを用いた発表、討議という基礎的な作業に習熟すること。

(2)社会科学的な物の見方、考え方を学ぶこと。日常的な政治・社会問題を、抽象的な概念と結びつけたうえで、自分の立場を導けるようになること。今年度は「市場とは何か」「国家とは何か」「自由、公正とは何か」を理解し、これらの概念を分析に活用できるようになること。


【授業の内容・計画】

 ゼミは前半と後半に分かれます。前半は本の輪読を行います。毎回発表者を決め、内容をレジュメにまとめて報告していただいたうえで、全員で討議します。

 後半は各自の報告を行います。日常の政治・社会の問題を取り上げ、それを前半の輪読で学んだ理論枠組みを用いて分析し、自分なりの結論を導くトレーニングを積みます。最後に、報告と討議内容を踏まえた小エッセイ(3000字以上)を提出していただきます。

 以上のプロセスを経て、文献の読解、プレゼンテーション、ディスカッション、小論文作成という一連の手法を学ぶことを目指します。


【テキスト・参考文献】

・フリードマン『資本主義と自由』日経BPクラシックス、2008年
・スティグリッツ『世界の99%を貧困にする経済(原題:不平等の代償)』徳間書店、2012年

前者は新自由主義の代表作、後者は平等や政府介入を重視する現代の代表的なエコノミストの最新作です。最初は分かりにくいテクニカルタームも多いと思いますので、ゼミの中でできるだけ丁寧に読解し、解説を加えます。ただしゼミの主眼は、テクストの意味を理解するだけでなく、これらを用いて、いま私たちが直面している社会の問題を分析し、今後の方向性を導くことです。


【他の授業科目との関連】

学部後期ゼミの準備に相当します。


【成績評価の方法】

平常点(30点)、個人報告(30点)、小エッセイ(40点)の合計による絶対評価とします。
A:発表と討議に積極的に参加した。日常の問題と抽象概念を結びつけ、オリジナルな考察を含んだ報告とエッセイの執筆を行った。
B:発表と討議に積極的に参加した。日常の問題と抽象概念を結びつける報告とエッセイの執筆を行った。
C:発表と討議に参加した。情報の整理・要約を含む報告とエッセイの執筆を行った。
D:発表と討議にほぼ参加し、報告とエッセイ執筆の義務を果たした。


【成績評価基準の内容】

 到達目標にしたがって、(1)文献の読解、報告、討議の基本的な作法が身についたか、(2)抽象的な概念を具体的な問題と結びつけて思考し、自分なりの結論を導けたか、に応じて評価します。


【受講生に対するメッセージ】

 担当教員は政治学(福祉国家論)を専門としていますが、入門ゼミでは政治というよりも、民主主義、市場、自由、平等、公正などに関連する問題を広く考えてみたいと思っています。


【キーワード】

 国家・市民社会・公共性、グローバリゼーション、経済・開発


【その他】

 2012年8月24日にシラバスを改訂しました。