社会研究入門ゼミ
(一橋大学)



[ 授業概要 ]

題目: 「現代の正義論を読む」

 過去30年間の政治理論では、正義、公正、平等、自由などの概念に関する考察が深められ、あるべき社会像が模索されてきました。昨年話題となったサンデルの議論も、こうした文脈で生まれたものです。

 このゼミでは、今日の政治理論を代表する著作を輪読しつつ、日常的な政治・社会問題と抽象的な理論や概念を結びつけるトレーニングを行ないたいと思います。政治の基礎となるビジョンが、個人の思い込みや主観にとどまるのではなく、他者との理性的な討議によって鍛えられるものであることを、ともに学びたいと考えています。


[ 到達目標と方法 ]

 到達目標は以下の二点です。

(1)文献の読解、レジュメを用いた発表、討議という基礎的な作業に習熟すること。
(2)日常的な政治・社会問題を抽象的な概念と結びつけ、理論的に思考できるようになること。


[ 授業計画 ]

 ゼミは前半と後半に分かれます。前半では、導入としてサンデル『これからの「正義」の話をしよう』を読みます。この本は功利主義、カント、ロールズ、コミュニタリアニズムの理論をたどった一般向けの本です。次に昨年新訳が出版されたロールズの『正義論』を中心として、現代政治理論に関連する論文(毎回20-30ページ程度)を輪読します。

 後半は各自の報告を軸とします。日常生活や政治・社会の問題を取り上げ、それを政治理論の概念と結びつけて考察するトレーニングを積みます。最後に、報告内容を踏まえた小エッセイ(2400字以上)を提出していただきます。


[ 成績評価の方法 ]

平常点(60点)と個人報告・小エッセイ(40点)の合計による絶対評価。

A:発表と討議に積極的に参加した。日常の問題と抽象概念を結びつけ、オリジナルな考察を含んだ報告とエッセイの執筆を行った。
B:発表と討議に積極的に参加した。日常の問題と抽象概念を結びつける報告とエッセイの執筆を行った。
C:発表と討議に参加した。情報の整理・要約を含む報告とエッセイの執筆を行った。
D:発表と討議にほぼ参加し、報告とエッセイ執筆の義務を果たした。


[ 成績評価基準の内容 ]

到達目標にしたがって、(1)文献の読解、報告、討議の基本的な作法が身についたか、(2)抽象的な概念を具体的な問題と結びつけて思考し、それを報告やエッセイに反映できたかどうか、に応じて評価します。


[ テキスト・参考文献 ]

主なテキストは以下の二冊です(ロールズは購入不要)。

マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』早川書房、2010年
ジョン・ロールズ『正義論(改訂版)』紀伊國屋書店、2010年(一部の章)

参考文献として、下記の本も参照する可能性があります。

ウィル・キムリッカ『(新版)現代政治理論』日本経済評論社、2005年
ロバート・ノージック『アナーキー・国家・ユートピア―国家の正当性とその限界』木鐸社、1995年


【受講生に対するメッセージ】

 狭い意味での政治について考えるというよりも、社会にとって「公正」や「平等」や「自由」が何を意味するのかについて考えたいと思っています。