2007年度法政演習:
「国家と市民社会」
(新潟大学法学部)


[概要]

題目:「国家と市民社会」

 かつて1970年代の先進諸国では、高度経済成長の行き詰まりを背景として、脱生産力主義や管理社会批判を掲げる「新しい社会運動」が展開された。80年代には、アジア・東欧諸国の民主化運動に刺激され、先進国でも自発的アソシエーション運動に着目する「市民社会」論が隆盛となった(Cf. Cohen and Arato, Civil Society and Political Theory, MIT Press, 1994)。

 しかし今日から見れば、これらの議論は次の点で不十分であった。第一に、社会運動のあり方が、各国の統治構造(レジーム)に応じて異なっており、「ポスト産業社会」「反システム運動」という一般的枠組みでは捉えきれないこと(Kitschelt)。第二に、北欧諸国やドイツなど一部では運動の制度化が進み、もはや「新しさ」を強調するだけでは不十分であること。

 このゼミでは、特に福祉国家のゆらぎとのかかわりから、先進諸国で展開されている社会運動を広く主題に据える(福祉NGO、エコロジー、フェミニズム、人種差別反対運動、オルター・グローバリゼーション運動ど)。これらの運動と各国統治構造との関係を検討した上で、広い理論的枠組みの中に位置づけなおし、その可能性を探ることにしたい。

[達成目標]

(1)レジュメの書き方、発表の仕方、学術的な討論の仕方を身に着けること。
(2)現代政治の構造的変容と変革の担い手にかんする基本的理解を得ること。

[授業計画]

毎回発表者を決め、発表の後全員で討議する。

前期では、社会運動論や市民社会論にかんする理論的論文を採り上げ、一般的なフレームワークを構築する。後期では、各国ごとの具体的な社会運動の展開を統治構造(レジーム)との関連から検討した上で、将来の政治のゆくえを総括的に展望する。

[成績評価の方法と基準]

ゼミへの参加(60%)と学習課題(40%)の合計による絶対評価。

[使用テキスト]

前期で採り上げる文献は、オッフェ、ハーバーマス、トゥレーヌ、伊藤るり、梶田孝道、メルッチ、タロー、キッチェルトの論文を予定している。マスターコピーはこちらで用意する。詳細は講義開始時に指定する。

[参考文献]

市民社会論を整理した近著として
  篠原一『市民の政治学―討議デモクラシーとは何か』岩波書店、2004年
  山口定『市民社会論―歴史的遺産と新展開』有斐閣、2004年
社会運動論の最新のまとめとして
  曽根中・長谷川・町村・桶口編『社会運動という公共空間―理論と方法のフロンティア』成文堂、   2004年
近年までの福祉国家論と市民社会論を結合する優れたまとめとして
  宮本太郎「ポスト福祉国家のガバナンス 新しい政治的対抗」『思想』983号(2006年3月号)、27-47頁