社会調査

社会科学研究と社会調査

 社会科学研究において社会調査は、社会認識にとって不可欠の方法であり、社会理論と社会調査は車の両輪の関係にあります。したがって社会調査は、単なる技法ではなく、社会と人間を経験的・実証的に解明しようとするときに踏まえるべき方法として、それ自体、研究史が蓄積されています。実証的研究に欠かすことができない社会調査に関する知見を幅広く獲得し、これを駆使する力を身につけることは重要な課題です。また社会調査の実践方法、とりわけ調査対象との距離感、信頼関係の構築など、社会調査をとりおこなう際に求められるリテラシーを幅広く身につけておくことも重視されなければなりません。リサーチ・デザイン、質問紙の作成、フィールドワーク、インタビュー、得られたデータの整理・集計とその分析にいたるまでの一連のプロセス、およびこれにもとづいて理論化へと進んでいく道筋に関する知識を修得することは、各々の研究テーマに実証的に接近するために不可欠な能力を養成することになるでしょう。

 また、社会調査にとって大切なのは、社会に関する貴重なデータを収集することにとどまるわけではありません。データを収集すれば、今度はそのデータを適切に分析することが大切になってきます。どんなに貴重なデータでも、それを正しく活用できなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。だからこそ、データを正しく分析し、そこから意味のある知見を引き出すための知識や技法を学習することが大切になります。

 もしきちんとしたデータ分析能力を身につけることができれば、その能力は皆さんがこの先経験する様々な場面で役立てることができます。現代社会では様々な情報が溢れ、そういった意味では分析のためのデータに事欠きません。しかしどんなに豊富な情報をもっていても、そこから意味ある知見を引き出すためには、データの収集/分析についての、一定レベル以上の社会調査に関する専門的知識が必要になるのです。

履修モデルケース

 社会現象が多様である以上、調査という方法を通じての社会現象への接近もまたマルチメソッドなものである必要があることは言うまでもありません。既存の統計的データの吟味と活用についてと同様に、自らの手と足で企画した調査活動を遂行し、歴史的・社会的に意義ある資料をつけ加えていくことに習熟することは、実証研究を志す場合には欠かすことができません。とりわけ大きな変動期にある現代社会に解析のメスを入れようとすれば、量的調査と質的調査を組み合わせ、両者の方法を統合する、バランスのとれた方法が求められているのです。

 また社会が変われば、社会調査の考え方も方法もそれとともに変わっていく必要があります。たとえば、インターネットが私たちの社会に普及したことによって社会調査をめぐる環境はいやおうなく変化しました。また社会調査によって収集されるデータの複雑さが増したことで、データを分析する手法も高度になりました。したがって、これらの変化に対応しつつ社会の今の姿を明らかにするためには、大学院において社会調査に関する専門的な知識・技法の学習をさらに進めていく必要があります。

 こうした観点から履修モデルを考える際に、「専門社会調査士」の資格取得を念頭におくとよいでしょう。社会調査に関わる専門教育を受けた人が申請できる「社会調査士」「専門社会調査士」の資格制度があります。最近では、データサイエンスが重視されるようになった一方で、データサイエンスをきちんと理解できる人材の不足も明らかになってきています。そうした流れの中で、専門社会調査士を取得していることは、データの収集/分析について高度な専門知識をもっていることの証となります。加えて、社会調査教育に力を入れる大学/大学院が増えたことで、大学教員の公募要件に専門社会調査士の資格を含める例も見受けられるようになりました。もし専門社会調査士の資格を取得していれば、このような公募にも問題なく対応できます。専門社会調査士資格の取得は、本学の大学院生にとって十分にメリットのある資格だといえます。社会学部、社会学研究科では、社会調査に必要な科目を多面的に学び、かつ専門社会調査士資格を取得できるカリキュラムを用意しています。これらの科目を系統的に学んで各々の研究に生かすとともに、それが結果として資格取得につながればと考えています。なおこの資格取得について詳しくは、本学社会調査士/専門社会調査士資格制度ホームページ(https://www.soc.hit-u.ac.jp/~hccsr/)、および一般社団法人社会調査協会ホームページ(https://jasr.or.jp/)を参照してください。

 一般社団法人社会調査協会が定めている専門社会調査士の「標準カリキュラム」(H・I・J)と、2022年度、社会学研究科で開講する科目との対応関係はつぎのようになります。(科目認定申請の結果は追って開示)

 なお大学院で取得できる「専門社会調査士」の資格は、学部生が取得できる「社会調査士」の取得が要件になっていますので、対応する学部科目を下記に記載しておきます。

 *「量的データ解析法Ⅱ」と「質的調査研究」は大学院との共修科目。
 *専門社会調査士資格と社会調査士資格を同時申請する場合は、社会調査データを用いた修士論文を執筆し、上記H、I、J科目の単位を修得していれば、院生はG科目が免除される。

 基礎科目と発展科目の配置、ならびに各科目の開講予定(毎年開講されるものと1年おきに開講されるもの、特定の年度のみ開講されるものがある)を考慮しながら、履修計画を立ててみるとよいでしょう。

修士論文

 これまでの修士論文のなかには、家族社会学、労働社会学、文化社会学などの各々の研究ジャンルにおいて社会調査を駆使したすぐれたものが多数書かれてきました。

*最近の修士論文テーマの例

  • 介護経験の政治学:障害者当事者による自立生活支援団体を事例に
  • ソーシャルメディアにおける創作のゆくえ:小説投稿サイト上の執筆活動を事例に
  • きょうだい支援ボランティアとは誰か:参加・継続要因の検討
  • パワースポット・ブームにみられる宗教の持続と変容の考察
  • 「社会起業家」という生き方はいかに実現されるのか:〈新しい世代の社会起業家〉のライフストーリーに見る個人と社会
  • フラッシュモブの生成と多様化:「劇場型」の興隆と脱公共空間
  • 「酔っぱらい」とは誰か:酩酊の概念分析
  • 現代日本女性の化粧と身体:働く女性の日常的化粧経験から
  • 演劇のリアリティと俳優:リアルとフィクションをめぐる俳優の役作りの過程から
  • 自殺と自己物語:自殺企図者の問題経験の語りから
  • 台湾ホモナショナリズムをめぐるアンビバレンス:「先進的な我が台湾=LGBTユートピア」における「非規範的とされる性/生を生きるわたし(たち)」の生存を求めて
  • ジェンダー視点から見る在日ベトナム人技能実習生:女性技能実習生を中心に
  • Web会議システム上の円滑なコミュニケーションの実現に向けて:システムの特性と多様化する用途の可能性