国際社会学出身者からのメッセージ


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「越境する学問」としての国際社会学 南川文里

私は、アメリカ合衆国のエスニシティや人種をめぐる諸課題に焦点を当て、越境者やマイノリティを包含して構築される多文化社会がいかに可能であるのかを歴史社会学という観点から考えています。このような研究の原点は、学部時代のゼミナールでの経験があります。一橋大学社会学部/大学院社会学研究科は、社会学(sociology)というよりも、社会科学(social sciences)の総合研究の場と位置づけられています。私は、学部時代から梶田孝道先生の国際社会学ゼミで学びながら、辻内鏡人先生のアメリカ研究ゼミにもサブゼミとして所属してきました。もともとアメリカ社会に関心があった私にとって、エスニシティ研究や移民研究に取り組む国際社会学ゼミでその基本的な考え方を学びながら、アメリカの移民や人種をめぐる歴史的・地域的な背景を知りたいというのは自然な欲求でした。そして、「学際的」という言葉がまだ一般的とはいえなかった時代から、社会学だけでなく、歴史学、人類学、政治学、地域研究などの領域の専門家がハイレベルな講義を行っていた社会学部は、そのような私にはぴったりの環境でした。大学院に進学後も、さらに町村敬志先生の社会学ゼミにも所属し、国際社会学・社会学・アメリカ史の3つのゼミに学ぶという忙しい日々が、現在の私の研究の基盤を形作ってくれました。当時は、ほとんどの院生が複数のゼミに所属してディシプリンや専門分野を越えて学び、その学んだ成果を国際社会学に持ち込んでお互い刺激しあっていました。

もちろん、複数のゼミで専門領域が違えば、関心や立場も異なります。たとえば、私は卒業論文で、エスニック企業が可能にする新しいアメリカの成功像について論じましたが、アメリカ史のゼミでは、特定の移民の成功について語ること自体が、「成功できない」他のマイノリティへの差別や偏見を助長するのでは、と指摘されました。その指摘が、アメリカ合衆国におけるエスニシティ概念が持つ歴史性や政治性へと関心を広げ、現在の歴史社会学的な研究方法へと結びつきました。近年、社会学の世界では歴史社会学は一種の流行分野となっていて、学会に行けば「○○の誕生」などと題した報告が数多く行われています。ただ、私の場合は、大学院で歴史社会学を学んだというよりも、社会学と歴史学のゼミを行ったり来たりして、それぞれの先生や院生からの質問や指摘に答えているうちに、いつの間にか身についてしまった考え方であるように思います。総合的な社会科学の場としての社会学研究科という贅沢な環境と、学際性に開けた国際社会学というホームグラウンドがあったからこそ、現在の自分の研究スタイルがあるのだと思います。

また、研究者としてのキャリアを考えたとき、あちこちゼミや専門を越えて行ったり来たりした経験が思わぬ形で役に立ちました。それは、大学教員としての就職においてです。私の最初の就職は、アメリカ文化研究と語学(英語)の担当教員としてのものでした。英語が決して得意ではない私が採用されたのは、「地域研究」としてのアメリカ研究分野での業績によるものであったと思います。国際社会学の研究者は、多くの場合それぞれ研究対象とする地域の専門家でもあります。もちろん、地域研究は、ただその地域の研究をすればよいというものではなく、特定地域の政治・経済・社会文化などさまざまな側面に通じている必要があります。私は、幸運なことに他大学院のアメリカ研究者と交流する機会にも恵まれ、同世代の大学院生・若手研究者による研究組織の設立に関わったりもしました。また、国際社会学ゼミという場で、他の地域の専門家と意見交換することで、アメリカを相対化する「比較」の視点を身につけ、自分の地域研究者としての視野を広げることができました。2010年に現在の所属に移動し、国際関係学部で国際社会・文化関連の分野を中心に教えていますが、今も主たる担当分野は地域研究としての「アメリカ研究」です。このようなキャリア・トラックは、国際社会学を学んだ若手研究者にはめずらしくないようです。

最後に、ここまで国際社会学の学際性を強調してきましたが、私は、国際社会学の学際性を通して、社会学というディシプリンを強く意識し、その専門家でありたいという思いを強くしてきました。歴史学や地域研究の専門家と重ねた議論は、自分自身の関心の中核が、人間集団や社会関係を扱う社会学という学問にあることに気づかせてくれました。国際移民やマイノリティ問題から環境問題やグローバルな市民運動まで、国際社会学が扱う研究テーマのほとんどが、政治学・人類学・歴史学などの隣接領域の知見が不可欠なものであるのはいうまでもありません。しかし、だからこそ、国際社会学は、つねに、社会学が何を明らかにできるのか、社会学的な思考が切り開く可能性とは何かという問いに直面します。国際社会学は、現代の学際的な研究の最前線であるとともに、社会学という伝統的な一つのディシプリンの可能性を追求する場でもあります。一人でも多くの方に、国際社会学プログラムで、その豊かな学際性と社会学的思考の奥深さに触れて、現代世界が直面するさまざまな課題に果敢に挑んでほしいと願っています。

南川文里
立命館大学 国際関係学部 准教授

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