大学院で政治学を学びたい方へ




1 はじめに


 大学院で政治学、政治理論、比較政治経済学、福祉国家の歴史・思想を学びたい方を歓迎いたします。私の専門に関連する以下のような分野に対応することができます。

・現代福祉国家の再編論。グローバル化の中で福祉政策、雇用政策はどのように変化しているか。今後どうあるべきか。ヨーロッパ諸国の政治過程、国際環境と国内政治のリンケージ、ヨーロッパ社会政策、社会的排除と包摂政策など。

・現代政治理論、特に社会的連帯論、シティズンシップ論、国家論、平等論、正義論など。

・英独仏日の福祉国家形成史。歴史、政治・社会思想史。19世紀から20世紀前半まで。公的制度と民間救貧活動の関係、宗教の影響、進化論の影響、社会学史・統計史・経済学史との関連、比較思想史など。この分野はまだ発展の余地が大きい。

 一橋の大学院では、以下のような隣接分野と関連づけながら、自分の専門を深めていくことができます。「政治学」という一つの専門を狭く深く学ぶというよりも、「社会科学の中の政治学」を学ぶ、という点がその特色ではないかと思います。


        


2 教育方針


 教育方針として以下のようなことを考えています。

(1)修士課程では、2年間かけて修士論文を執筆することを目指します。

・修士1年では、学術論文の執筆に必要な基礎的能力を体系的に習得できるよう配慮します。論文執筆、文献調査、レジュメ作成のオリエンテーションを行います。夏学期には英文の政治学テクストを読解し、冬学期には専門的な研究書の読解とディスカッションを行うことをつうじて、研究に必要な基礎力を身につけられるようにします。

・修士2年では、研究動向報告、中間報告、最終報告をとおして、段階的に修士論文を仕上げられるよう配慮します。あわせて政治学の専門書を輪読し、幅広い基礎力を身につけられるようにします。


(2)博士課程では、優れた研究者・教育者になるためのトレーニングを行い、博士論文の執筆をサポートします。

・ゼミでは研究動向報告、中間報告を繰り返すことで、段階的に博士論文を仕上げられるよう配慮します。

・あわせて政治学の専門書の輪読・討議をつうじて、幅広い素養を身につけられるようにします。

・外国研究の場合は、博士課程のうちに1年以上の海外留学を行うことを推奨しています。奨学金を得るためのサポート(申請書作成、研究計画作成など)、情報提供などを行います。

・博士課程のうちに、学会報告、査読誌への投稿を行うよう推奨しています。学会報告の仕方、質疑応答の仕方、査読誌への投稿のポイントなどを伝え、学外のネットワークを作れるようサポートします。

・博士課程のうちに関連する講義のティーチング・アシスタントに積極的に雇用し、シラバス作成、授業の組織、学生への指導補助、成績評価補助などを経験することをつうじて、教員となるための準備を早い段階で始められるよう配慮します。


3 大学院への準備について


 大学院に進学するためには前年度の夏入試(9月)もしくは春入試(2月)に合格する必要があります。


(1)夏入試

・論述試験では、政治学に関する主要な学説や理論を理解しているかどうか、論理的な展開能力があるかどうかを見ます。特殊な領域の問題ではなく、できるかぎりオーソドックスな問題を出すつもりです(これは社会学研究科あるいは政治学講座全体の方針ではなく、私個人の方針です。ご了承ください)。したがって、(1)必要な理論を参照し、概念を適切に定義したうえで、(2)それらの概念と具体的な事例を結びつけながら、(3)概念を論理的に展開できているかどうか、を重視します。これらは大学のレポート、ゼミ論、卒論の作成などをつうじて訓練されるものですが、同時に過去問や他の大学院入試の問題を数多く解くことで身につけられるのではないかと思います。なお過去3年間の問題はネット上で公開されています。

・大まかな目安として、以下のテクストに載っている理論・学説は、学部時代に理解しておくべきものと考えています。

久米郁男、川出良枝、古城佳子、 田中愛治『政治学(補訂版)』有斐閣、2011年
川崎修、杉田敦編『現代政治理論』有斐閣、2012年
伊藤光利、田中愛治、真渕勝『政治過程論』有斐閣、2000年
新川敏光、井戸正伸、宮本太郎、真柄秀子『比較政治経済学』有斐閣、2004年

・当然ながら、それ以外に自分が研究したい分野の主要な研究書に目をとおしていることも必要です。

・一次試験での語学試験のほか、二次の面接試験でも専門にもっとも近い語学の試験を課す場合があります。英語の場合は、20行程度の英文を5分程度で読み、その場で頭から訳していく形式です。英語力の目安は、Introduction to Politics, Comparative Politicsなどの英語教科書、Oxford Handbookシリーズの英語教科書の英文を、辞書なしである程度読みこなせる(分からない単語は飛ばして前後から意味を推測できる)レベルです。別の言い方をすれば、大学院に入学してから、専門的な英語論文30ページ程度を辞書を使って毎週1〜2本輪読できるレベルです。


(2)春入試


・面接では、卒業論文と研究計画書について質疑応答を行います。夏学期と同じく、政治学に関する幅広い基礎学力を有しているか、論理能力や思考能力があるか、エッセイやレポートと研究論文の違い(先行研究に対するオリジナリティ、一次資料と二次資料の違いなど)を理解しているか、研究計画は妥当か、などを検討し、大学院で質の高い研究が行えるかどうかを考慮します。


(3)研究室訪問について

・大学院進学の前に研究室を訪問したり、教員と面談することが望ましい、と言われることがあります。これは入学した後にミスマッチが起きないよう推奨されていることかと思います。大学院では少人数の院生と教員という「狭い世界」での関係が中心となりやすいため、教員が信頼できる人物かどうかを判断することは重要です。悲惨な場合には、教員の業績や知名度と関わりなく、パワー・ハラスメントやセクシャル・ハラスメントを受けてしまうリスクもあります。直接人物を確認したり、研究室の雰囲気を確認することには意味があると思います。

・ただし、研究室への訪問や面談は義務ではありません。上記のリスクを踏まえて不要と判断されれば、直接試験を受けていただいて構いません。学部時代からのコネクション、あるいは前もって研究室を訪問したかどうかによって、試験の判断に考慮が加えられることは一切ありません。内部進学者と外部進学者を区別することも一切ありません。(なお、内部進学者と外部進学者の割合は、年度によって異なりますが、1対3〜1対5くらいだと思います。)


4 大学院進学のリスクについて


 大学院の進学には、教員との関係以外にも、考慮しておくべきリスクがあります。人によっては過大なリスクと感じる方もいるかと思います。進学によって得られるメリットとコストを比較衡量できるよう、私の思いつくリスクを挙げておきます。


(1)金銭的な負担

・授業料、生活費のほか、「機会費用」もコストに含める必要があります。機会費用とは、進学せずに就職していたら本来稼げたはずの収入を失う、ということです。

・育英会などの奨学金はありますが、現在では多くが利子付きの貸与となっており、将来重い負担となる可能性があります。


(2)修士課程進学のリスク

・修士課程での勉学は、政治学に関する専門的なトレーニングや研究であり、修士修了後に就職するとしても、仕事に直接役立つ知識であるとは限りません。実際、民間企業への就職活動では、残念ながら修士の勉強はあまり評価されないことが多いようです。


(3)博士課程進学のリスク

・1990年代後半からの大学院重点化政策、20歳人口の長期的な減少、博士取得者に対する一般企業のニーズの少なさなどが相まって、特に2000年代以降、オーバードクター問題、さらにはポスドク問題が深刻化しています。政治学でも、公募されているポストの半分以上が非常勤、任期付き教員となっており(公募情報はこちら)、常勤の教員職に就くことはきわめて厳しい状況が続いています。歴史学、哲学ほどではないにせよ、社会科学系の分野の中で、政治学は特に就職が厳しい分野の一つだと思います。

・目安として、同年代の一橋院修士入学者のうち、上位1/3以内に位置していなければ、将来大学教員のポストに就くことは難しいと思います。また博士課程に進学した場合、民間企業への就職は難しくなることも考慮する必要があります。

・これらは大学院の閉鎖的な教育カリキュラムの問題であると同時に、企業の雇用形態や社会の画一的なキャリア観の問題でもあり、残念ながら一朝一夕に解決できる問題ではありません。研究者を目指される方には全力で支援をしますが、研究分野のニーズ、本人の研究能力や語学力などによっては、博士に進学される前の段階で、その道は難しいとお伝えすることがあるかもしれません。

*これらのリスクについてより詳しくお知りになりたい方は、個人的に面談に来て、不安に感じる点について相談していただければと思います。できるだけ包み隠さず大学院の現状についてお話しし、各自で将来を判断できるよう材料を提供します。(上記のようなリスクのため、院進学を強引に勧めるようなことはしていません。)