2017年度学部導入科目
「社会科学概論U」


1. 授業概要

【授業科目の目的】


 大学とは、学生と教員がともに自ら学びあうことによって、新しい価値や思想を生み出す創造的な現場です。この講義では、大学ばかりでなく多様な社会の現場においても、「知」の創造者・生産者・編集者として生きていくための技法とマナーを学習します。

 社会科学概論の目的は、専門分化した社会諸科学の原点にある共通の基盤を身につけ、「社会」を総合的にとらえられるようになることです。夏学期での学習は、高校と大学での学びを結びつけることに主眼がありました。冬学期の講義では、さまざまな専門分野の入り口となる論点や理論を広く学びつつ、社会科学の方法を体系的に学習することをめざします。

【授業科目の到達目標】

 本講義は、とくに次の2つのねらいをもって設計されています。

 (1)現代社会の諸問題を、できるかぎり総合的、かつ複眼的な視点からとらえ、自分の中にできるだけ多くの問題意識を涵養すること

 (2)「答えのない問題」と取りくみ、自らの立場を導けるような社会科学に共通する思考法・論理・調査法を身につけること

【授業の方法】


 講義とディスカッションを組み合わせます。リーディング・アサインメントの予習を前提として、現代社会の代表的な問題を扱いながら、社会科学の基礎的な技法を一つずつ習得していきます。

 各講義では、前半で現代の社会問題にかんする複数の立場や議論を紹介したうえで、グループ・ディスカッションを行います。後半では、こうした問題を検討するための方法論を提示し、実習を行います。その他、小レポート執筆と相互添削、グループ発表などをとり入れ、双方向的な形式となるよう工夫します。

【他の授業科目との関連】


 社会学部で必修となる導入科目であり、夏学期の概論を引きつぐ内容です。

【教育課程の中での位置づけ】

 社会学部の導入科目として、専門的な研究へと進むために必要となる学修スタイルと方法を身につけることをめざします。

2. 授業の内容・計画

【授業の内容】



 (1)社会科学の方法は以下の順序で学びます。
 「対立する見方を学ぶ」、「批判的な議論を構築する」、「問いを発見し、仮説を立てる」、「データを収集し、仮説を検証する」、「歴史と比較を活用する」、「文献を調査する」、「事実と規範の違いを学ぶ」、「理論や概念を用いる」、「アウトラインを作成する」、「論文を執筆する」、「プレゼンを行う」。

 (2)今年度の講義では以下のような題材・論点を扱います。
 大学教育の意味、新卒一括採用・終身雇用を維持すべきか、格差の拡大は問題か、なぜ少子高齢化が進んでいるのか、国家と市場の関係、公正な社会とは何か、グローバル化は世界を不幸にするか、インターネットやSNSによる人間関係の変容、社会を総体としてとらえる諸理論。

 グローバル化の波にさらされ、私たちの生活のあり方、働き方、家族のあり方、教育のあり方、政治経済のしくみは大きな変化のただ中にあります。私たちは数多くの未解決の「問題」や「矛盾」に日々直面しています。こうした時代だからこそ、複眼的かつ総合的な視野をもって問題をとらえ、社会科学的な思考を武器にして、解決策を模索していく必要があります。本講義では、一方通行の「講義」をできるだけ減らし、受講者がともに考え、論じあう形式を重視していきます。

【計画(回数、日付、テーマ等)】


日程 トピック 社会科学の方法 アサインメント
9月19日(火) @オリエンテーション
・社会科学概論の位置づけ
9月22日(金) A大学で何を学ぶか
・ゆとり教育と大学入試改革
・職業教育の是非
・大学で学ぶことの意味
・複眼的な思考と問いの発見
・パラグラフのつくり方
→ 実習
苅谷剛彦『知的複眼思考法』講談社+α文庫、序章、第1章、20-120頁
9月26日(火) B働くこと―日本型雇用をめぐる論争
・新卒一括採用・終身雇用への賛否
・雇用の流動化は必要か?
・弁証法の構築
・論文に必要な議論の展開とは何か
→ 小レポート実習
苅谷剛彦『知的複眼思考法』第2章、122-173頁
9月29日(金) Cレポート・論文の書き方 ・問いの設定
・因果的推論
・良い文章と悪い文章
・引用の仕方
小レポートのmanabaへの投稿
→ 相互コメント

戸田山和久『新版論文の教室』NHKブックス、37-99頁
10月3日(火) D格差は拡大しているか
・格差をめぐる論争
・統計データの使い方
・仮説の構築
・概念の操作化
・検証・反証可能性とは何か
・仮説演繹法
→ 実習
山田昌弘『希望格差社会』勁草書房、2004年、100-156頁
文春新書編集部『論争格差社会』文春新書、2006年、18-31頁
10月6日(金) E家族と社会―少子化を考える
・少子化のナゾ
・「近代家族」の成立と変容

・歴史を学ぶ意味
未定
10月10日(火) F国家と市場―各国の多様性
・国家はどこまで市場に介入するべきか?
・公共財・情報の非対称性・効率性と公平性
・各国比較によって見えること
・共変法と差異法
→ 実習
スティグリッツ『入門経済学』3版、東洋経済新報社、2005年、212-237頁、244-254頁
10月13日(金) G公正な社会とは?
・報酬の格差はどこまで許される?
・公正をめぐる規範理論(ハイエク、ロールズ、セン)
・事実の検証と規範の関係
・なぜ社会科学で規範理論を学ぶ必要があるか?
※高度な文献調査法と実習
(図書館職員によるレクチャー)
レポート・発表のリサーチ・クエスチョン
→ manabaに投稿

サンデル『これからの「正義」の話をしよう』早川書房、2010年、78-99頁、183-216頁
10月17日(火) Hグローバル化の是非
・グローバル化は世界の格差を拡げるか?
・近代化論、世界システム論、
ガバナンス論
・データによる理論の修正と発展 ギデンズ『社会学』而立書房、2010年、63-83頁、410-433頁
10月20日(金) Iインターネットと社会変容
・インターネット、SNSの発達は人間関係や社会関係をどう変えるか
・ブレインストーミング、KJ法
→ 発想法の実習
自分の選択したテーマに関連する文献リスト15冊を作成
→ manabaに投稿
10月24日(火) J現代社会をどうとらえるか
・社会を総体としてとらえるための諸理論
・ポスト近代/後期近代(マルクス、ヴェーバー、ハバーマス、ギデンズ)
・理論をもとにして「問い」を発見する ギデンズ『社会学』而立書房、2010年、116-140頁
10月27日(金) Kグループ発表(1) ・プレゼンテーションの技法 レポート執筆
11月3日(火) L学生発表(2)
・講義のまとめ
・社会科学の考え方
・今後の学習への指針
10/31学期末レポート締め切り
→ 1つの学期末レポートを選び、manabaでコメント



【テキスト・文献】

以下の文献を指定します。

 苅谷剛彦『知的複眼思考法』講談社+α文庫、2007年(880円)

毎回の課題文献はmanabaをつうじて指定します。講義はそれを読んだことを前提に進められます。

【授業時間外の学習】

指定された図書および事前配布された文献資料を毎回読むこと。

それ以外に、授業内で書いた小レポートにたいする相互添削、選んだ研究テーマの文献リスト提出、グループ発表もしくはレポート提出と相互添削(学期末)が求められます。授業内容と連動したテーマを選び、十分な時間をかけて準備を行うこと。

3. 評価

【成績評価の方法】


毎回の討論への参加(不定期3回)  30%
小レポートの提出         10%
文献リストの提出         10%
グループ発表またはレポート    50%

上記の方法で60%以上を合格の目安とし、それ以上は相対評価(均等な分布)とします。

【成績評価基準の内容】

 受講者は学習スタイルを、高校までの受動的「勉強」から、大学以降で必要な主体的「学び・探究」へと転換していくことを期待されています。したがって、以下の二点をおもな基準として評価します。

(1)毎回の講義に予習したうえで臨み、積極的に討論に加わること

(2)自ら「問い」を立て、社会科学の「方法」にしたがった探求を行い、「理論」の構築に資するようなレポート(またはグループ発表)を作成する努力を行うこと

4. その他

【受講生に対するメッセージ、他】


 講義をつうじて、私たちが多種多様な未解決の「問題」に取り囲まれて生きていること、それらを一歩一歩着実に解決するためにこそ、社会科学的な思考が重要となることを理解していただければと願っています。