【第九回】一橋哲学・社会思想セミナー


【日 時】 12月2日(金)14時40分から

【場 所】 国立西キャンパス 307教室(第2講義棟)  アクセスマップ キャンパスマップ

【講演者】 蝶名林 亮 

【タイトル】 倫理学が科学になることを拒むものは何か
       ―規範性からの反論と反理論主義からの反論

【概要】

現代の分析哲学におけるメタ倫理学もしくはメタ規範学一般における主要な論争の1つとして,自然主義と呼ばれる立場と非自然主義と呼ばれる立場の間で交わされている論争を挙げることができる.非自然主義と自然主義の間には多くの論争・見解の不一致が見出される.その中でも特に非自然主義から自然主義に向けられる「規範性からの反論」と呼ばれる議論は双方の立場の擁護者から重要なものと見なされており,この反論を巡って様々な議論がなされている.筆者は,この論争において自然主義に与し,20世紀後半以降に科学的実在の主要な擁護者として活躍したリチャード・ボイド(Richard Boyd)の提案を足掛かりにして筆者が「理論論証」と呼ぶ論証を提案することで,規範性からの反論を退けることを目指している.この理論論証は倫理学の一階理論である規範倫理理論の方法や特色に着目し,それらを最もよく説明できる経験的な仮説として,自然主義を提案するという構造を持っている.そのため,この理論論証の擁護のためには,規範倫理学における方法について考察する必要が出てくる.本発表の前半部では理論論証のこのような特色を確認しつつ,自然主義者が理論論証に訴えてどのような仕方で規範性からの反論を退け得るのか,示していく.

 その上で,発表の後半部では理論論証に向けられ得るもう1つの反論について検討していく.それは,倫理学における理論化はそもそも不可能ではないかという,倫理における理論そのものへの懐疑である.この反論を筆者は倫理学における「反理論主義」と呼ぶ.理論論証は,少なくともある程度は,倫理における理論化は可能であると想定していると思われるので,もし反理論主義が正しければこの想定が崩れ,理論論証も瓦解することになる.20世紀後半から21世紀にいたるまで,倫理学における反理論主義については様々な異なる形態が提案されてきた.理論論証の擁護者はこのような反理論主義に対してどのような反論を試みることができるのだろうか.本発表では反理論主義がどのような仕方で理論論証の問題となるのか,理論論証の擁護者はこの問題に対してどのように反論できるのか,考察していく.その中で,倫理における「理論」とはそもそも何かという,倫理学全般にわたる重要な問いについても検討していく.