【第七回】一橋哲学・社会思想セミナー

【招待講演者】

和泉悠氏 学振PD(京都大学)

【講演タイトル】

言語哲学の新展開:文脈・時制・方法論にまつわる諸問題

【日時・場所】

2015年10月16日(金)14時40分〜

一橋大学国立キャンパス 本館28番教室 アクセスマップ キャンパスマップ

【概要】

行動主義が死に,認知革命が起こった後に育った言語哲学者は何を研究してきたのだろうか.クワイン,デイヴィドソンの呪縛(?)から解き放たれた言語哲学者は何を問題にしてきたのだろうか.本講演の目的は,このような背景的問いに留意しつつ,現代における言語哲学の諸問題の一部を導入・解説することである.大きく分けて三つのトピックを取り扱う:文脈依存性と時制,命題態度報告文,方法論と実験哲学である.

1.ヒトは個別の視点を持ち,変化の中に生きる動物である.結果,ヒトの自然言語は変化に敏感で,文脈に依存しながらその役割を果たす.今日のわたしが言う「加藤は今お腹が空いている」は,明日のわたしが言う「加藤は今お腹が空いている」と違うことを伝えている.しかし,わたしが言っていることは今日も明日もある意味同じである.同じことを言って,違うことを伝えるとはどういうことだろうか.言語哲学者・言語学者たちは自然言語の文脈依存性をどのように説明してきたのか,「意味論」,「語用論」といった概念を導入しつつ,とりわけ時を表現する時制を考えるための道具立てである「時制オペレータ」,「時間量化」に焦点を当てて解説する.

2.社会的動物であるヒトは互いの心を読み合う.結果,自然言語は心に関する表現で溢れている.「朝井は加藤が泣いたと思っている」,「奥田はパリに行きたい」こうした言葉は一体何を表しており,どうやって説明されるのだろうか.哲学者が「命題態度報告文」と呼んできたこうした表現がどう理論化されてきたのか検討する.とりわけ,「命題」概念と「可能世界意味論」という道具立てを導入し,それが何の役に立つのか解説する.

3.言語哲学は(悪い意味で)「スコラ化」したのだろうか.細分化した領域の中で,専門家同士が終わらない言い争いを行っているだけなのだろうか.正しい分析・理論とは何だろうか.それは誰が決めるのだろうか.実験的手法が普及しつつある中で唱えられた言語哲学における相対主義,多元主義,そしてそれらに対する(適切な)反論を紹介する.

【経歴】

Ph.D. Philosophy, University of Maryland, College Park, 2012

【業績】

“Contextualism and Japanese Knowledge Attributions," 2013, Metaphysica, 44, Osaka University, 99-111

“Interpreting Bare Nouns: Type-Shifting vs. Silent Heads,” 2011, The Proceedings of the 21st Semantics and Linguistics Theory Conference, 481–494

“Descriptivism withWorld Pronouns,” 2010, Contemporary and Applied Philosophy 2, 100017–100029

“Some Remarks on an Implementation of the Burgean View of Proper Nouns,” 2010, The Proceedings of the XXII World Congress of Philosophy

【備考】

和泉先生は日本の言語哲学業界をリードする研究者の1人として著名になりつつある方です。講演のテーマは言語哲学に関するものですが、この分野に馴染みのない人でもついてこられるように、噛み砕いて解説してくださるそうなので、分析哲学系のみならず多くの人にご参加頂ければと考えています。