定例会

〈教育と社会〉研究会2023年5月例会のご案内

 〈教育と社会〉研究会 2023年5月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会は、『〈教育と社会〉研究』第33号における、特集「〈私〉の戦後教育学/戦後教育史の読みかた」の一環として開催するものです。当日は特集に寄稿いただく予定の方を講師にお招きします。
 当日はオンライン会議システム Zoom を用いて例会を開催します。なお、当日の Zoom アクセス情報は開催前日にご連絡いたします。多くの会員のみなさまにご参加いただければと願っております。

【日 時】2023年5月28日(日)13:00−16:10
【方 法】オンライン会議システム Zoom
【申 込】不要(※非会員の方は、研究会事務局までメールにてご連絡ください)
【報告者】香川七海さん(日本大学)、永田和寛さん(愛知県立高校教員)
【コメンテーター】本田伊克さん(宮城教育大学)、吉原大貴さん(千代田区立九段中等教育学校)、前田晶子さん(東海大学)、檀上祐子さん(一橋大学大学院)

【報告タイトルと要旨】
1)香川七海さん「板倉聖宣と科学教育」
 本報告は、仮説実験授業の提唱者である科学史学者・板倉聖宣の所論を通して、戦後日本における科学教育の実相を検討するものである。板倉は、1960年代に自身の科学史学研究をもとにして、仮説実験授業を提唱した。従来の教育方法や教育評価に関する研究では、仮説実験授業を理科教育のひとつの方途として位置づけて、その是非や有効性が議論されてきた。
 しかし、本報告では、こうした視点をはなれて、板倉が仮説実験授業と民主主義(デモクラシー)の関係を、どのように構想していたのかを検討したい。論点をひとつ提示すれば、彼は、科学教育を通して、児童生徒が民主主義を学ぶことをひとつの理想として仮説実験授業を構想していた。
 本報告では、こうした論点を深掘りするかたちで検討を進めたい。

2)永田和寛さん「中内敏夫の生活綴方史論(仮)」
 近年、教育学界で取り沙汰されている「戦後教育学」は、これを肯定的に論じる者であれ否定的に論じる者であれ、その中にあり得たはずの多様な議論を十分に捉えることができていないように思われる。こうした問題意識に基づいて、本報告では生活綴方史研究や学力評価研究等を通じて戦後の教育学研究の一翼を担った教育学者・中内敏夫(1930-2016)を取り上げる。中内は、1950年代後半から研究者としての歩みを始め、70年代前半に初期の主著といえる『生活綴方成立史研究』や『学力と評価の理論』の刊行に至るが、その研究活動は戦後日本における高度成長と軌を一にするものであった。当時における「技術革新」や「教育の現代化」という趨勢を背景に、「戦後(教育)」に対する違和感や「技術」への関心を抱いていた中内が、いかにして生活綴方という対象と出会い、そして描き出した生活綴方史からいかなる教育(学)的意義を取り出そうとしたのか。こうした問いを念頭に置いて、彼の研究や発言の歴史的意義を捉える作業を通して、「戦後教育学」をめぐる議論の中にあり得た「戦後」批判の射程とその可能性について考えてみたい。

【スケジュール】
・香川七海さんご報告:13:00-13:40
・本田伊克さんコメント:13:40-13:50
・吉原大貴さんコメント:13:50-14:00
・全体討論:14:00-14:30
 (休憩:14:30-14:40)
・永田和寛さんご報告:14:40-15:20
・前田晶子さんコメント:15:20-15:30
・檀上祐子さんコメント:15:30-15:40
・全体討論:15:40-16:10

定例会

〈教育と社会〉研究会2023年3月例会のご案内

 〈教育と社会〉研究会 2023年3月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会は、『〈教育と社会〉研究』第33号における、特集「〈私〉の戦後教育学/戦後教育史の読みかた」の一環として開催するものです。当日は特集に寄稿いただく予定の方を講師にお招きします。
 当日はオンライン会議システム Zoom を用いて例会を開催します。なお、当日の Zoom アクセス情報は開催前日にご連絡いたします。多くの会員のみなさまにご参加いただければと願っております。

【日 時】2023年3月17 日(金)13:00−16:10
【方 法】オンライン会議システム Zoom
【申 込】不要(※非会員の方は、研究会事務局までメールにてご連絡ください)
【報告者】田中昌弥さん(都留文化大学)、桑嶋晋平さん(九州看護福祉大学)
【コメンテーター】小玉重夫さん(東京大学)、須永哲思さん(天理大学)、松田洋介さん(大東文化大学)、呉永鎬さん(鳥取大学)

【報告タイトルと要旨】
1)田中昌弥さん「戦後教育学が残した課題の今日的意義」
 戦後教育学に対しては、本義を捉えない一面的な批判が数多く提示されたが、それらが教育と教育学にとってどの程度の意味を持ったのかは疑問である。学問的営為が歴史的制約を免れない以上、残された課題を批判的に検討することの必要性は言うまでもない。しかし、そこで学問に求められているのは、限界をさらに矮小化して論うことではなく、到達点の意義を明らかにした上で建設的批判を加えることである。
 本稿では、こうした問題意識から、戦後教育学が残した課題のいくつかを今日的に検討する。ここで「今日的検討」は二つの意味を含む。一つは、それらが今日の教育課題に対してどのような問題提起性を含むのかを検討するという意味であり、もう一つは、戦後教育学が残した課題の意味を、今日の理論的展開を手掛かりとして検討するという意味である。それによって「生活」「地域」「科学」など、戦後教育学が重視しつつ、含意を十分に展開できずに終わった諸概念の整理も進めていくことができるだろう。

2)桑嶋晋平さん「国民教育研究所における国民教育論の系譜 ――上原専禄から森田俊男へ」
 戦後日本の教育と教育学をふりかえろうとするとき、否応なしに目にはいるもののひとつが、国民教育論であり、その運動態としての国民教育運動であるだろう。しかしながら、国民教育論ないし国民教育運動といっても、そこには多様な意味や文脈があり、その輻輳が解きほぐされたとはいいがたい状況にある。
そのため、本報告では、国民教育論ないし国民教育運動の多様な意味や文脈を歴史としてとらえるため、そのなかのあるひとつの系譜に光をあてたい。すなわち、国民教育研究所(民研)における国民教育論の展開であり、とくに、上原専禄の国民教育論が、その後いかに引き継がれ、展開されたのかを、森田俊男に焦点をあて、論じたい。具体的には、1957年の民研設置以降の上原と森田の国民教育論を、公刊されたテクストや内部資料に基づいて論じるとともに、1964年の上原辞任以降、森田の手によって国民教育論がいかに展開されたのかを、民研や国民教育運動の動向を見据えながら、たどる。
上原専禄から森田俊男へ、という国民教育論の系譜をたどることで、国民教育論・国民教育運動の歴史を紐解き、「戦後教育学の可能性と限界を丁寧に把握」と「戦後教育史の再検討」のための視座を得ることが、本報告の目的である。

【スケジュール】
・田中昌弥さんご報告:13:00-13:40
・小玉重夫さんコメント:13:40-13:50
・須永哲思さんコメント:13:50-14:00
・全体討論:14:00-14:30
 (休憩:14:30-14:40)
・桑嶋晋平さんご報告:14:40-15:20
・松田洋介さんコメント:15:20-15:30
・呉永鎬さんコメント:15:30-15:40
・全体討論:15:40-16:10

定例会

<教育と社会>研究会 2022年2月例会のご案内

 みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

 さて、〈教育と社会〉研究会 2 月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会は、本研究会会員が編者となって刊行された、神代健彦編『民主主義の育てかた――現代の理論としての戦後教育学』(かもがわ出版、2021 年)を対象とした座談会となります。
 新型コロナウイルス感染拡大に配慮し、当日はオンライン会議システム Zoom を用いて例会を開催します。つきましては、参加を希望される方は Google フォームにてお知らせください。当日の Zoom アクセス情報は開催前日にご連絡いたします。多くの会員のみなさまにご参加いただければと願っております。

【日 時】2022 年2月 27 日(日)15:00―17:00
【方 法】オンライン会議システム Zoom(※事前参加申込制)
【申 込】2 月 25 日(金)までに、以下 Google フォームにて参加希望をお知らせください

【登壇者】
(コメンテーター)菊地愛美さん、谷川由佳さん、原田玄機さん
(執筆者:コメント応答)三谷高史さん、南出吉祥さん、河合隆平さん(書面コメント)
(全体総括)神代健彦さん

【文献】
神代健彦編『民主主義の育てかた――現代の理論としての戦後教育学』(かもがわ出版、2021 年)
 本書は平和・人権・民主主義という3つの戦後的理念にかなう人間形成と、民主主義的な社会を育てることを目指した戦後教育学の現代における可能性を明らかにするものである。
 本座談会では特に以下の3つの章について取り上げ、若手研究者・院生によるコメントと、各章執筆者のコメントへの応答を通して現代の理論としての戦後教育学の批判的継承と復権について考える。

第3章 「地域と教育」論――コミュニティ・スクールは誰のために
【コメンテーター】菊地愛美さん 【執筆者】三谷高史さん
第5章 青年期教育論――「大人になること」をめぐる問い
【コメンテーター】谷川由佳さん 【執筆者】南出吉祥さん
第9章 障害児教育論――「子どもに合わせる」教育のなりたち
【コメンテーター】原田玄機さん 【執筆者】河合隆平さん(書面コメント)

多くのみなさまのご参加をお待ちしております。

定例会

<教育と社会>研究会 2021年5月例会のご案内

春暖の候、みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、〈教育と社会〉研究会5月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会は、
本研究会会員が中心となって刊行された、木村元編『境界線の学校史−戦後日本の学校
化社会の周縁と周辺』(東京大学出版会、2020年)を対象とした座談会となります。

新型コロナウイルス感染拡大に配慮し、当日はオンライン会議システムZoomを用いて
例会を開催します。つきましては、参加を希望される方にはZoomアクセス情報をお知らせ
しますので、事前に研究会までご連絡くださいますよう、お願い申し上げます。多くの会員
のみなさまにご参加いただければと願っております。

【日 時】2021年5月29日(土)14時〜16時
【方 法】オンライン会議システムZoom(※事前参加申込制)
【司 会】前田晶子さん(鹿児島大学)
【登壇者】木村元さん、江口怜さん、濱沖敢太郎さん、呉永鎬さん、神代健彦さん、松田洋介さん、山田宏さん

【内 容】
木村元編『境界線の学校史』(2020)は、堅固で自律的にみえる日本の学校史が実は制度的に不安定さを孕んでおり、外部社会との緊張関係の中で常に自己規定を迫られてきたことを論じている。学力保障の対象としての「国民」像や、その内容としての「普通教育」概念をどのように定めてきたのか、そしてそこから何を排除してきたのか——これらのことが、夜間中学や定通教育、朝鮮人学校など境界線上にある学校群に注目することで明らかにされている(第Ⅰ部
教育を保障する境界—義務教育・学校教育・公教育)。また、学校化社会の進行の過程で、教育課程や学校文化を通して形成される学校的な身体性についても、学校内部の境界線という視座から論じられている(第Ⅱ部
どんな教育を保障するか—普通教育の境界変動)。このように、本書の魅力は、学校システムと教育内容のふたつのレベルにおいて学校史における揺らぎの諸相を描いている点にあるといえよう。
座談会では、執筆者をお迎えして、学校史の日本的特徴とは何か、社会史の視点から戦後教育をどのように時期区分するか、現代における学校の揺らぎをどうとらえるか、さらにケア論などを含めた教育保障をどう構想していくか、などについて論議したいと考えている。

木村元編『境界線の学校史−戦後日本の学校化社会の周縁と周辺』(東京大学出版会、2020年)

序 章 「境界線の学校史」の問題構制(木村元)
第1章 「学校」制度の境界線−その形成と展開(木村元)
第Ⅰ部 教育を保障する境界−義務教育・学校教育・公教育
イントロダクション(木村元)
第2章 夜間中学の成立と再編−「あってはならない」と「なくてはならない」の狭間で(江口怜)
第3章 勤労青少年教育における学校方式の問題−教育機械拡充をめぐる社会的力学(濱沖敢太郎)
第4章 揺れ動く公教育の境界線−外国人学校は公的に保障されうるか(呉永鎬)
第Ⅱ部 どんな教育を保障するか−普通教育の境界変動
イントロダクション(木村元)
第5章 道徳教育に抗する/としての生活指導−普通教育の境界変動と宮坂哲文(神代健彦)
第6章 普通教育としての職業教育をつくる−産業教育研究連盟と新制中学校カリキュラムの変容(松田洋介)
第7章 高校工業科における普通教科と専門教科−柔軟な教育課程編成による職業と生徒への対応(山田宏)
結 章 〈学校の世紀〉における境界線の変動(木村元)

多くのみなさまのご参加をお待ちしております。

<教育と社会>研究会 2018年7月例会のご案内

 初夏の候、みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

 さて、〈教育と社会研究会7月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では、群馬大学 小林陽子さんにご報告いただきます。

【日時】2018年7月13日(金) 17:30~19:30

【場所】一橋大学 西キャンパス 磯野研究館 第2研究小集会室 1階

 (http://www.hit-u.ac.jp/guide/campus/campus/ 20番の建物)

【報告者】小林陽子さん(群馬大学)

【コメンテーター】太田美幸さん(一橋大学)、横山陸さん(一橋大学大学院博士後期課程)

【タイトル】「明治期の留学生による欧米家政学情報の受容」

【概要】 みなさんは家政学(Home Economics)についてご存知でしょうか。戦後、多くの女子大学・短期大学で家政学部が設置され、家政学は成立しました。その後もどのような学問であるのか検討され、1984年に日本家政学会によって「家庭生活を中心とした人間生活における人間と環境の相互作用について、人的・物的両面から、自然・社会・人文の諸科学を基盤として研究し、生活の向上とともに人類の福祉に貢献する実践的総合科学」と定義されています。しかし、家政学を学問として樹立するための模索は、明治時代から続けられてきました。勉強会では、明治期に家政学研究のために留学した3名の留学生(とくに宮川寿美子と井上秀の2名を中心に)の欧米家政学情報の受容について、さまざまな観点から話題提供いたしたいと思います。

みなさまのご参加を心よりお待ちいたしております。

<教育と社会>研究会 2018年5月例会のご案内

 晩春の候、みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

 さて、〈教育と社会研究会5月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では、愛知教育大学の片山悠樹さんにご報告いただきます。

【日時】2018年5月19日(土) 14:00~16:00

【場所】一橋大学国立東キャンパス マーキュリータワー5階 3508室(予定)

 (http://www.hit-u.ac.jp/guide/campus/campus/ 37番の建物)

【登壇者】片山悠樹さん(愛知教育大学)

【コメンテーター】二宮祐さん(群馬大学)山田宏さん(一橋大学大学院博士課程)

【タイトル】「身元」から「学歴」へ――高度成長期前後における採用条件の変遷


【概要】報告の目的は,企業が採用条件としてどのような要素を重視してきたのか,また多くの企業で学歴が重要な基準となるのはいつごろなのかを検討することである。具体的には,新聞の求人広告を素材に,1950年代から1960年代にかけての採用条件の変遷を辿る。


みなさまのご参加を心よりお待ちいたしております。

<教育と社会>研究会 2017年11月例会のご案内

 秋月の候、みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

 さて、〈教育と社会〉研究会11月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では、吉野浩司氏に「大学初年次教育における文章作成能力の育成」についてご報告頂きます。みなさまのご参加をお待ちしています。

【日時】2016 年 11 月 17 日(木)12:30~14:30
【場所】一橋大学 職員集会所・大広間
( 8番の建物)
【報告者】
   吉野浩司氏(長崎ウエスレヤン大学)
【コメンテーター】
   山田哲也氏(一橋大学)
   谷口利律氏(東京海洋大学 非常勤講師)
【内容】

地方小規模大学に属する学生の中には、学修環境、能力に恵まれているわけではない学生も少なくない。そうした学生が、卒業し社会に出ていく間に、どのようなエンパワーメントが可能なのか。初年次教育の段階では、大学生活への適応と、基礎学力の定着とが必須の課題となる。そのなかでも国語力は、学修の根幹となる基礎学力である。本報告の課題は、報告者が所属する長崎ウエスレヤン大学での「日本語リテラシー」科目の実践例をもとに、そうしたエンパワーメントはいかにして可能なのか、その学修モデルおよびサポート体制はどのようなものなのかを示すことにある。

<教育と社会>研究会 7月例会のご案内

初夏の候,みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
〈教育と社会〉研究会 7 月例会を下記の通り開催いたします。本例会においては,『〈教育と社会〉研究』第 26 号(2016 年夏刊行予定)特集「争点: 多様な学び保障(仮)」の企画に向け,関連する報告に基づき議論を行います。 みなさまのご参加をお待ちしております。

【日時】2016年7月5日(火)9:30~14:00
【場所】一橋大学 佐野書院 大会議室
http://www.hit-u.ac.jp/guide/campus/campus/ 25番の建物)
※途中に20分ほどの昼休憩をはさみます。恐れ入りますが昼食をご持参ください。

【報告者・報告タイトル】
  樋口くみ子さん(早稲田大学)「適応指導教室拡充をめぐる課題と展望」
  江口怜さん(東北大学)「夜間中学政策の転換点において問われていることは何か
          ―その歴史から未来を展望する」
  南出吉祥さん(岐阜大学)「高校段階における「多様化」の展開―理念と現実との狭間で」
  ※タイトルは変更となることがあります。
 

<教育と社会>研究会 5月例会のご案内

晩春の候、みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、〈教育と社会〉研究会5月例会を下記の通り開催いたします。本例会においては、『〈教育と社会〉研究』第26号(2016年夏刊行予定) 特集「争点:多様な学び保障(仮)」の企画に向け、関連する報告に基づき議論を行います。

【日時】2016年5月12日(木)13:00~17:00
【場所】一橋大学 佐野書院 大会議室
http://www.hit-u.ac.jp/guide/campus/campus/ 25番の建物)
【報告者・報告タイトル】
  山本宏樹さん(東京電機大学) 教育機会確保法案の概要と論点
  中田康彦さん(一橋大学) 「多様な教育機会確保」政策をめぐる他国の事例とその帰結
  山野上麻衣さん(一橋大学大学院) 法案はニューカマーの子どもたちに何をもたらすか

【内容】

現在、教育界を賑わせているのが、今期国会上程を待つ「教育機会確保法案」である。 義務教育を十分に享受していないすべての者に対し、年齢や国籍を問わず「多様な教育機会」を提供することを謳う本法案は、その高邁な理念にもかかわらず(あるいはそれゆえ に)毀誉褒貶喧しい現状がある。実践レベルでは、法制化にともなう行政からの支援の充実を期待する声が聞かれる一方、教育行政によるフリースクールや家庭への介入を招くのではないかと危惧する声も少なくない。学術的に見た場合も、本法案は、明治時代以降一 世紀以上にわたって日本の義務教育を実質的に枠付けてきた就学義務制を問うものであるだけに、それへの期待と危惧が交錯するかたちで多様な論点が存在する。5 月例会・7月例 会においては、本法案をめぐり様々な視点から論点を提示し議論を進めていく。

多くのみなさまのご参加をお待ちしております。



<教育と社会>研究会 2月例会のご案内

立春の候、みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、〈教育と社会〉研究会2月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では、 昨年4月に刊行された山田哲也会員、布川あゆみ会員の著作を指定文献として、合評会を開 催いたします。
みなさま、ご多忙のなかとは存じますが、ご出席賜りますようお願い申し上げます。

【日時】2016年2月29日(月)13:00~17:00
【場所】一橋大学 磯野研究館 1階小会議室
【指定文献】志水宏吉・山田哲也編著『学力格差是正策の国際比較』(岩波書店、2015年)
【登壇者】
  山田哲也氏(一橋大学) 
  布川あゆみ氏(一橋大学大学院博士後期課程)
【コメンテーター】
  中田康彦氏(一橋大学) 
  太田昌志氏(ベネッセ教育総合研究所初等中等教育研究室特任研究員、名古屋市立大学大学院人間文化研究科研究員)

【内容】

OECD によるPISA調査を中心に学力をめぐるグローバル競争が激化するなか、各国は国全体の学力向上を達成するため、格差是正を教育政策の中心課題に据えている。 指定文献では、こうした状況をふまえ、6カ国(日本・アメリカ・オーストラリア・イ ギリス・フランス・ドイツ)における学力格差是正策の内容、成果、課題を3年間のフィールドワークをもとに明らかにしている。歴史や社会状況の異なる各国の取り組みを現地 調査によって丹念に描きだし、比較考察を行った本書は、学力格差是正策の可能性と限界 を提示してくれる。

例会の当日は、コメンテーターの問いかけを皮切りにして本書の意義について議論を尽くせればと考えております。みなさまお誘い合わせの上、奮ってご参加ください。


<教育と社会>研究会 11月例会のご案内

晩秋の候、みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
<教育と社会>研究会11月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では、今年2月に刊行された三浦綾希子会員の著作を指定文献として、合評会を開催いたします。
みなさま、ご多忙かとは存じますが、ご出席賜りますようお願い申し上げます。

【日時】2015年11月29日(日) 13:00~17:00
【場所】一橋大学佐野書院 大会議室
【指定文献】三浦綾希子『ニューカマーの子どもと移民コミュニティ: 第二世代のエスニックアイデンティティ』(勁草書房、2015)
【コメンテーター】藤浪 海さん(一橋大学大学院博士後期課程・日本学術振興会特別研究員)

【内容】

指定文献は、移民コミュニティを生きるフィリピン系ニューカマーの子どもたちのエスニックアイデンティティの有り様を、エスノグラフィーの手法を用いて明らかにするものである。前半では、移民コミュニティを構成する複数のネットワークの形成、維持、利用過程と、そのネットワークの拠点となっているエスニック教会や学習教室の機能を明らかにし、後半では、子どもたちがそのルート(routes)のなかで、自らのルーツ(roots)をどのように見つめているのか、またその過程でどのようなエスニックアイデンティティを身に付けていくのか描き出す。(序章より)

以上のような視点で描かれた同書では、ニューカマーを資源形成主体として捉えなおすとともに、これまでの研究では主な育ちの場として学校に着目されてきたのに対し、学校以外の育ちの場へ注目するものとしてエスニック教会に焦点が当てられている。さらに、ニューカマーの子どもたちの実態が、これまで研究の主な対象とされてきた学齢期に来日した子どもたちを中心としたものから、日本で生まれ育つ子どもたちが増加することにより多様化が進んでいることを踏まえ、子どもたちの育ちの過程の差異にも注目している。そして、育ちの過程の差異が顕著に現れるエスニックアイデンティティの問題について論じられている。

今回の例会では、南米系ニューカマーを対象として移住システムやジェンダーに着目しながら研究を行っている一橋大学博士後期課程の藤浪海さんがコメンテーターを担当する。

例会の当日は、コメンテーターの問いかけを皮切りにして本書の意義について議論を尽くせればと考えております。みなさまお誘い合わせの上、奮ってご参加ください。

※ なお、当日は13時より14時までの間、〈教育と社会〉研究会の今後の運営に関する議論の時間を取らせていただきます。現在の運営・編集体制、会計状況等を委員の方から報告させていただいた後、参加者の方々とともに今後の本研究会運営にあたっての課題について議論していければと考えております。


<教育と社会>研究会 10月例会のご案内

秋月の候、みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、〈教育と社会〉研究会10 月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では、今春刊行された木村元会員の著作を指定文献として、合評会を開催いたします。

【日 時】2015年10月8日(木) 14:00~16:30
【場 所】一橋大学佐野書院 大会議室
【指定文献】木村元『学校の戦後史』(岩波書店、2015)
【コメンテーター】 西澤康さん(一橋大学大学院社会学研究科 博士後期課程)

【内容】

これまで「戦後50 年」、「戦後60 年」にあたって、様々な研究領域で「戦後のあゆみ」を確認する歴史叙述が試みられてきた。そのなかで本書は、次の10 年で「戦後の学校」として共有されうるものを導くことは可能であろうか、という課題意識を有した「戦後70 年」からの歴史叙述である。本書ではまず、「社会への入り口」(学校の出口)が注目される。ここでは、1872 年の学制発布をもとに学校が制度的に導入され、人びとのなかに学校に行くことが定着した後、「どのように社会に送り出すか」(社会接続)が本格的な課題となったのが「戦後の学校」であると論じられている。また本書は、学校教育法に定められたいわゆる「一条校」に限定された戦後教育史とも異なる。この点はまさに「戦後70 年」からの歴史叙述の特徴であろう。夜間中学校や障害児の学校、朝鮮学校をめぐって見えてくる「働きながら学ぶ」人びとの学校、障害をもつ子どもの発達保障としての学校、法規から排除されてきた学校への着目は、その典型にあたる。

今回の例会では、戦後史、現代史の視点から、再軍備が開始され、自衛隊のシステムが一応の完成をみる1950 年代を中心に、人びとが自衛隊に入隊していく過程を研究されている西澤康さんにコメントを引き受けていただいた。西澤さんには、本書では取り上げられていなかった社会接続の一つとしての「学校から自衛隊へ」について、議論の俎上にあげていただく予定である。

例会当日は、木村会員から簡単にコンセプトの説明をしていただいた後、コメンテーターの問いかけを皮切りにして本書の意義について議論を尽くせればと考えております。みなさまお誘い合わせの上、奮ってご参加ください。

<教育と社会>研究会 7月例会のご案内

入梅の候、みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。さて、〈教育と社会〉研究会7月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会は、近日刊行される青木利夫・柿内真紀・関啓子編『生活世界に織り込まれた発達文化―人間形成の全体史への道』(東信堂)を対象とした座談会となります。
刊行直後の開催となりますので、事前にお読みいただくことができない方も気兼ねなくご参加いただきますよう、お願い申し上げます。

【日 時】2015年7月4日(土) 14時~17時
【場 所】一橋大学佐野書院 大会議室
【司 会】青木利夫さん(広島大学)
【登壇者】 編者: 関啓子さん(一橋大学名誉教授)・柿内真紀さん(鳥取大学)
執筆者: 金子晃之さん(桜花学園大学)・三浦綾希子さん(中京大学)ほか
【コメンテーター】 木村元さん(一橋大学)

【内容】

青木利夫・柿内真紀・関啓子編『生活世界に織り込まれた発達文化―人間形成の全体史への道』が、まもなく東信堂より刊行される運びとなりました。
本書は、編者の一人である関啓子氏による問題提起を受けて編まれたものです。近代教育を批判的に検討し、<育てる・育つ>をめぐる発達文化にかんする比較研究の新たな地平を拓きたいという思い、より具体的には、(1)近代教育からもれた人びとの参加や包摂をどのようにとらえるのか、(2)育ちと発達(ひとりだち)を学校という制度からいかに解放するか、(3)学力から学校をいかに解放するかの3点に着目し、近代教育の閉塞状況を打ち破り、突破する力をもとめたいという問題提起です。編者3名を含む12名の執筆者が、この提起をそれぞれの研究領域に即して引き取り、二年余りにわたって相互に議論を重ね、1冊の本にまとめました。

今回の例会では、本書の目指したものについて編者よりご紹介いただいたうえで、上記の提起を執筆者がどのように引き取り、どのような議論を展開したのか、この試みの到達点と今後の課題をどのようにとらえるかといったことについて、座談会形式で会員のみなさまと共有したく存じます。刊行直後の開催となりますので、事前にお読みいただくことができない方でも気兼ねなくご参加いただけるよう、冒頭で簡単に本書の内容を紹介いたします。

※著者割での購入をご希望の方は、事前に〈教育と社会〉研究会までご連絡ください。
※終了後、同会場にて懇親会を開催いたします。 会費は2500 円程度になる予定です。懇親会に参加される方は、7 月1 日(水)までに〈教育と社会〉研究会までご連絡ください。

青木利夫・柿内真紀・関啓子編 『生活世界に織り込まれた発達文化―人間形成の全体史への道』 (東信堂、2015年6 月刊)


第1 部 体制転換期の新たな発達文化の模索
第1章 タタルスタンの人間形成の全体史─ソ連解体後の20 余年の歩み (関啓子)
第2章 転換期における近代教育思想への向きあい─東ドイツの改革教育学研究にみる挑戦と霧散 (木下江美)
第3章 EU 域内の人の移動と構築されるヨーロッパ的次元空間─EU 新規加盟国にとってのヨーロッパ/イギリス (柿内真紀)
第2部 支配的文化のなかで揺れ動くマイノリティの発達文化
第4章 「日本人」でもなく「外国人」でもなく─日本で生まれ育つニューカマーの子どもたち (三浦綾希子)
第5章 自前の発達文化を求めて─戦後在日朝鮮人の人づくりの構想と方法 (呉永鎬)
第6章 公教育制度としての先住民教育の限界─メキシコの二言語文化間教育をめぐって (青木利夫)
第3部 日常生活とともにある人間形成機能
第7章 口頭伝承による人間形成と文字化による影響─ケニア牧畜民サンブル社会を事例に (ギタウ [藤田]明香)
第8章 風景と道具の人間形成作用─スウェーデンの近代化過程におけるミュージアム・ペダゴジー (太田美幸)
第9章 ヨーロッパにおけるモスクの発展とノンフォーマルな学びの多様性 (見原礼子)
第4部 <育てる・育つ>をめぐる人間関係の構築
第10章 学びと創造の場としての吹奏楽部 (高尾隆)
第11章 日本の人間形成の今日的課題─学校外の人間形成力と学校教育との関連を通して (金子晃之)
第12章 優香を育てた私・育てられた私─ある社会的マイノリティのひとりだちとその支援 (神谷純子)
あとがき

多くのみなさまのご参加をお待ちしております。


<教育と社会>研究会 6月例会のご案内

立夏の候、みなさま益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、〈教育と社会研究会6月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では、一橋大学大学院博士後期課程の山野上麻衣さんにご報告いただきます。

【日時】2015年6月4日(木)14:00~16:00
【場所】一橋大学 佐野書院
【報告者】山野上麻衣さん(一橋大学大学院博士後期課程)
【コメンテーター】谷川由佳さん(一橋大学大学院博士後期課程)
【報告タイトル】「日本で暮らす外国人の子どもの不就学―経済危機後の環境の変化も踏まえて」
【報告要旨】

1990年の出入国管理及び難民認定法の改定により、日系ブラジル人を中心とする日系人が日本に急増した。家族を伴って来日する場合も多く、子どもたちの学校教育が問題とされ、2000年代に入ってからは、外国人の子どもの「不就学」も社会問題として注目を集めるようになった。2000年代半ばになると、まとまった不就学研究が出始めるものの、教育行政の制度論や学校文化批判等、「不就学」を生み出す背景を静的に捉える見方を中心としていた。他方で同じ頃、不就学の子どもたちを量的に把握する「不就学調査」の手法が洗練され、「不就学の子どもは意外に少ない」と言われるようになり、実践的に関心が薄れていった。報告者は当時、静岡県浜松市の不就学対策事業に従事していたが、不就学の子どもの「減少」を主な理由として、事業は2007年度をもって終了となった。事態を一変させるのは2008年秋のリーマンショックを契機とする世界経済危機である。日本で働くブラジル人の3~4割が失業したとされ、不就学の子どもたちの増加が懸念される中、2009年度から2014年度にかけて文部科学省拠出により不就学対策事業が全国的に展開された。この間の外国人の子どもを取り巻く状況の変化も織り交ぜつつ、不就学が生まれ、また継続していく動的なプロセスについて事例をもとに検討したい。

みなさまのご参加を心よりお待ちいたしております。


<教育と社会>研究会 2月例会のご案内

〈教育と社会〉研究会の2月例会を下記の通り開催いたします。
今回の例会では、一昨年に刊行された下記の文献を指定文献として読書会をおこないます。著者である有本先生にもご多忙のなかご出席いただけることとなりました。会員のみなさまにおかれましても、ふるってご参加いただきますようお願い申し上げます。

【日時】2月21日(土)13:00〜16:00
【場所】一橋大学 佐野書院(小会議室)
【指定文献】有本真紀『卒業式の歴史学』(講談社2013)
【コメンテーター】 後藤篤さん(一橋大学大学院博士後期課程)吉原大貴さん(一橋大学大学院修士課程)

【内容】

学校生活のなかで唯一「涙」が期待される卒業式。ここで「みんなでともに歌い、感動し、涙する『感情の共同体』」が無意識のうちに求められているのはなぜか。このような課題をもって、日本の学校制度の下に「儀式と感情の接合」が成立していった歴史的過程に着目したのが本書である。

これまでの日本教育史研究のなかで、卒業式の史的考察を含むものとしては佐藤(2005)などが挙げられるが、そこでもまた「卒業式と感動や涙との結びつき」については自明のものとされてきたと筆者は指摘する。以上の課題にもとづき、本書は卒業式のはじまりから、それが感動や涙と結合していく過程について、感情や儀式に関する社会学的知見を介して詳細な考察を試みたものである。

みなさまのご参加を心よりお待ちしております。


<教育と社会>研究会 12月例会のご案内

〈教育と社会〉研究会の 12 月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では、 今年9月に刊行された指定文献についての書評会をおこないます。著者である倉石一郎先生にもご多忙のなかご出席いただけることになりました。

【日時】 12月6日(土)14:00〜17:00
【場所】 一橋大学西キャンパス 職員集会所 大広間
【指定文献】 倉石一郎『アメリカ教育福祉社会史序説—―ビジティング・ティー チャーとその時代』(春風社 2014)
【コメンテーター】樋口くみ子さん(一橋大学大学院博士後期課程) 三好文さん(一橋大学大学院博士後期課程)

【内容】

ビジティング・ティーチャー(visiting teacher:訪問教師)とは、二十世紀初頭のアメリ カ革新主義の時代に誕生し、「学校に基盤を置きながら長期欠席や怠学、学業不振、家庭の 貧困や親による遺棄、疾病や障害、文化間葛藤や差別、非行など種々の困難に苦しむ子どもたちの救済・ケア・支援に奔走した人たち」といわれる。のちにその名はスクールソー シャルワーカーに取って代わられ、専門職として米国社会に定着している。同著は、このビジティング・ティーチャーという存在から「教育と福祉」の境界に生きる人びと(「彼女たち」)の軌跡を追ったものである。

今日、「教育と福祉」という問題設定からなる教育学研究の成果は枚挙にいとまがない。 そのなかで同著は、ビジティング・ティーチャーの「越境性」という魅力的な視角を提示している。このことについて、著者はその序章において以下の五点から説明している。第 一に学校と地域社会・家庭とのあいだの「結び目」であったこと、第二に社会のなかにおける人種・民族や階級による分断を横断していく「越境者」であったこと、第三に他の多くの専門職とは異なり、さまざまな学問領域を横断して形成される「越境的」な専門知か らなる存在であったこと、第四に公(パブリック)と私(プライベート)の境界領域にかかわり、その線引きを揺るがし、書き換えたという意味で「越境的」存在であったこと、第五に彼女たちにおける自らの職業的アイデンティティにおける「自己」と「社会」的ニーズとのあいだでの「越境」であったこと、である。

〈教育と社会〉研究会12月例会では、以上に見てきた「越境性」という視角から、「教育と福祉」という論点を深めていくことを課題としたい。そこで、第一次世界大戦期におけるアメリカ赤十字社の看護婦をジェンダー史の視点から研究なさっている三好文さんと、 不登校の子どもの適応指導教室のフィールドワークや行政文書などを通じて、公的支援の あり方について研究なさっている樋口くみ子さんに書評をお願いした。当日は、コメンテーターお二人の書評を受けて著者の倉石一郎先生にリプライをいただき、そこで確認された論点を通じてフロアに議論をひらいていく予定である。フロアからの積極的な発言をお 願いしたい。

みなさまのご参加を心よりお待ちしております。

<教育と社会>研究会 11月例会のご案内

<教育と社会>研究会の11月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では、戦間期日本における農家経営と教育投資の関係について経済史の立場から研究なさっている棚井仁さんに報告をお願いいたしました。

【日時】 11月6日(木)14:30〜17:00(いつもの時間帯と異なります)
【場所】 一橋大学 佐野書院
【報告者】 棚井仁さん(東京大学大学院博士課程)
【報告タイトル】 「戦間期養蚕地帯における農家経営と世帯戦略—―長野県下伊那郡松尾村G家を事例に—―」
【コメンテーター】 大西公恵さん(和光大学)
         鈴木智子さん(一橋大学大学院修士課程)

【報告要旨】
本報告は、戦前期において高度に養蚕業の展開が見られた長野県下伊那郡松尾村で耕作地主経営を営んでいたG家を事例に、戦間期の農家経営について分析を試みるものである。当該G家は、2.1 町(最小)~6.2 町(最大)の土地を所有し、うち1 町前後を自作する一方、小作地経営および養蚕業を再生産の基盤に徐々に資本蓄積をして、明治30年代半ば以降になると積極的に有価証券投資を展開する。投資先は、当初は長野農工銀行や伊那銀行など地元企業が多かったが、第一次世界大戦中の1917年からは中央株への出資も行われる。また同時に、この時期は投機的な株式取引を行うようになるが、多額の借入金をともなっていたこともあり、昭和恐慌前の1929年には債務の累積により財産整理に至る。

他方で、自作経営部分においては、子弟(3 男5 女)を労働力とはみなさず、むしろ教育投資の対象としたことから、一貫して雇用労働に依拠していた点に特徴がある。そのこ
とは、帳簿上においては、家計支出における教育費と農業経営費における雇用労賃として表現されている。そのため、第一次世界大戦後に労賃が高止まりする一方、1920年代半ば以降に繭価が低迷すると、経営コスト節減のため果樹や畜産(養豚)が選択され、経営内容を大きく転換させていった。換言すれば、当該G家では、子弟を教育投資の対象とする世帯戦略が、農家経営のあり方を規定していたと考えられる。

本報告では、第一次大戦期から昭和恐慌期までを対象に、G家に残された各種帳簿類に依拠しつつ、その農家経営のあり方をマクロ経済の動向や世帯戦略=教育投資のあり方、世帯員のライフコースなどと関連付けながら、実証的に明らかにしていきたい。

みなさまのご参加を心よりお待ちしております。

<教育と社会>研究会 10月例会のご案内

<教育と社会>研究会の10 月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では、現代日本の若者たちの社会化様式とその過程についての読書会をおこないます。

【日時】 10月2日(木)13:30〜16:00
【場所】 一橋大学 佐野書院
【指定文献】 中西新太郎『「問題」としての青少年—―現代日本の<文化—―社会>構造』(大月書店、2012)
【コメンテーター】 櫻本芳美さん(一橋大学大学院修士課程)
篠崎裕太さん(一橋大学大学院修士課程)

2000 年前後の「キレる17 歳」をはじめ、青少年の言動がしばしば「不可解なもの」と認識され、社会問題として語られるのはなぜでしょうか。このような問いに対して、筆
者は「青少年病理」「教育荒廃」「家族病理」といった言説の広がりが見えなくしてきた国家や社会体制の問題、特に企業社会秩序の抑圧性を暴き出していきます。また、消費文化が学校・家庭とともに第三の「基礎的成長環境」と位置づけられた70 年代から80 年代の雑誌・漫画・ラジオを通じて形成される場の在り方についても検討し、一般に語られる消費文化の影響による「個人化」の文脈とは異なる社会化様式が確認されていきます。

筆者の分析は、若者たちの社会化過程における困難と矛盾にも広がっていきます。そこでは、ファッションによる自己追求、友人関係におけるキャラ化(=自己操作)、リストカ
ットによる自己肯定、といった現代日本社会をとらえる論点が提示されています。

当日は、コメンテーターのお二人の問題関心を共有しながら、若者の社会化様式とその過程を叙述するとはどういうことか、また、消費文化を研究対象とすることの意義とその
研究に伴う限界などについて、会員のみなさまと議論を尽くしたいと考えております。

みなさまのご参加を心よりお待ちしております。

<教育と社会>研究会 7月例会のご案内

〈教育と社会〉研究会の7月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では,今年2月に発刊された指定文献をもとに読書会を開催いたします。

【日時】 2014年7月3日(木) 13:30~16:00
【場所】 一橋大学 職員集会所 食堂
【指定文献】 長谷川裕編,2014,『格差社会における家族の生活・子育て・教育と新たな困難 ――低所得者集住地域の実態調査から』旬報社
【コメンテーター】 吉原大貴さん(一橋大学大学院修士課程)
松浦加奈子さん(一橋大学大学院博士後期課程)

OECDの国際比較によれば,日本の子どもの貧困率は2004年時点で13.7%であり,約7人に1人が貧困状況にあると言われています。これは比較可能なOECD加盟22か国中では,上から8番目の高さです。そして,日本ではひとり親家庭,とりわけ母子家庭の貧困率がきわめて高いことも特徴的です。また,日本は公財政教育支出の割合が低く,教育費負担は家計に依存しています。これらの状況から,貧困をはじめ生活上の諸困難を抱えつつ子どもを育てる家族に焦点を当て,そこで育つ子どもが直面する困難がどのようなものであるのかということを明らかにすることが今日の課題として重要になります。

本書では,地方都市B市の公営住宅A団地を対象として,1989-1992年調査との比較を通じ,日本社会の階層構造ないし格差構造とそのもとでの生活困難・貧困との競争社会的性格がどのように変化しているのかを検討していきます。インタビュー調査と学校教員への質問紙調査の実施によって,A団地に住む人びとのネットワーク形成がいかに変容したか,A地区の小中学校の教師たちがかれらをどのように捉えているのかという点を中心に,多角的に議論されています。

本例会では,20年間の歳月を経て,生活困難層がどのような困難と向き合い,乗り越えようとするのか,生活困難層の周囲の人びとはどのような関与ができるのか,様々な観点から会員のみなさまと議論を尽くしたいと考えております。みなさまお誘い合わせの上,奮ってご参加ください。

<教育と社会>研究会 6月例会のご案内

〈教育と社会〉研究会6月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では、今春刊行された中澤会員の著作を指定文献として合評会を開催いたします。


【日時】2014 年 6 月 5 日(木)13:30~16:00
【場所】一橋大学 職員集会所
【指定文献】中澤篤史,2014,『運動部活動の戦後と現在―なぜスポーツは学校教育に結び付けられるのか―』青弓社
【コメンテーター】後藤篤さん(一橋大学大学院)
濱沖敢太郎さん(一橋大学大学院)
【著者リプライ】中澤篤史さん(一橋大学社会学部専任講師)

中澤会員は本研究会例会(2009 年6 月)および本研究会会誌(第21 号、第23 号)においてすでに研究内容を発表してくださっており、個別の論稿については議論された会員の方も多いかと存じます。しかし、一つの作品としてまとまった本書を手に取る読者は、戦後「学校教育に結び付けられてきた部活動」の重みを、蓄積された知見の下でまざまざと見せつけられることでしょう。「遊戯として自由に楽しむスポーツ」と「自由を制限しうる学校教育」という原理的矛盾を抱えながらも、実態として拡大維持を続けてきた運動部活動成立のメカニズムとはどのようなものだったのか。著者が着目したのは、〈子どもの自主性〉という理念が二つの領域を媒介する過程です。時にその理念が空洞化の危機に陥りながらも独自の論理を展開しえたこと、そのことが運動部活動を日本特殊的な現象たらしめてきたのだと著者は主張します。

例会当日は、中澤会員から本書の趣旨と試みについて解説をしていただいた上で、コメンテーターの問いかけを皮切りに本書の意義について議論を尽くせればと考えております。みなさまお誘い合わせの上、奮ってご参加ください。

<教育と社会>研究会 2月例会のご案内

〈教育と社会〉研究会の2 月例会を下記の通り開催いたします。


【日時】2014 年2 月6 日(木)14:00 ~ 16:30
【場所】一橋大学国立西キャンパス第1講義棟206 教室
【報告者】鶴田真紀さん(貞静学園短期大学)
【報告タイトル】通常学級における障害のある児童をめぐる相互行為
―「障害があること」の日常的なあり方への着目―
【コメンテーター】加藤加奈子さん(一橋大学大学院博士後期課程)
原田玄機さん(一橋大学大学院修士課程)


【報告要旨】
2003 年の文部科学省による最終報告の後,2007 年には特別支援教育が開始となり,それまで特殊教育の対象ではなかったLD,ADHD,高機能自閉症等を新たに対象とし,教育的支援を行っていく必要性が確認された。また,生徒指導論の文脈においても,発達障害を有する児童生徒をめぐる問題行動が緊急を要する課題と位置づけられてきている。このように近年では重度重複障害のような障害の「重い」児童生徒の教育以上に,比較的「軽度」の発達障害児に対する「支援」や「指導」のあり方が問題化されてきている。

もちろん,学校における発達障害の「同定」や障害と結びつく問題行動の「発見」は,安易に行われるべきではなく何らかの医学的・心理学的な基準を頼りに常に反省的になされるべきだと考えられている。しかしながら,障害が医学の対象として存在し医学的な次元で産出される知や理解のあり方で定義される一方で,社会的な次元においては,人びとはそのような定義のままに障害を経験しているわけではない。学校という場において,特定の児童のある行為が「障害」やそれと結びつく「問題行動」として観察可能となる過程には,社会的文化的特性を備えたその場の状況や相互行為の編成のされ方が大きく関わっており,そのような「条件」を規定する学校規範こそが,「障害」をまさしく「問題」や「困難」として人びとに経験させ,「支援」のあり方を導くことになると考えられるからである。

本報告では,まずは報告者のこれまでの研究に言及しつつ,上記の問題関心について一定程度詳細に述べる。その上で教室内において特定の児童の「障害」が観察可能となる日常的な場面に焦点をあて,具体的なデータ分析をふまえながら参与者間の相互行為のあり方を詳細に検討していくことにしたい。そして,本報告のような社会学的見地から「障害児教育」や「特別支援教育」にアプローチする研究の可能性等も含め,広く議論していきたいと考えている。

<教育と社会>研究会 12月例会のご案内

〈教育と社会〉研究会の12月例会を下記の通り開催いたします。

【日時】2013 年12 月5 日(木)13:30 ~ 16:00

【場所】一橋大学佐野書院大会議室

【報告者】佐藤裕紀さん(早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程)

【報告タイトル】】デンマークにおける成人教育者の質の保障と訓練
―自由成人教育における成人教育者の採用と訓練に焦点をあてて―

【コメンテーター】太田美幸さん(一橋大学大学院社会学研究科准教授)

【報告要旨】
1990 年代後半より欧州連合(European Union 以後EU)は「知のヨーロッパ」の構築を目指し,生涯学習の概念の普及に努めてきた。2000 年の欧州首脳会議で打ち出されたリスボン戦略(Lisbon Strategy)では,世界で最も経済的競争力の高いダイナミックな知識基盤型経済を目指し,生涯学習はその有力な手段とされた。また2000 年の「生涯学習のメモランダム」以降,学習支援者の養成・採用・研修やその質の保障は,欧州における生涯学習の主要なテーマの1 つとなっている。

本発表では,各種統計において生涯学習が世界で最も盛んな国であり,且つ19 世紀以来の草の根からの成人教育の伝統を持つデンマークを対象とし,各種成人教育機関での教員の採用,研修,力量形成の実態について明らかにする。


我が国の公民館はじめとし世界中の成人教育,民衆教育に大きな影響を与えたフォルケホイスコーレ等の自由成人教育の学校群の実践は,しばしば「グルントヴィ」や「対話」「民主主義」といった抽象的な言葉でその特徴を語られる傾向がある。では具体的な実践に携わる教員は,どのような知識や技能を身につけ,どのように共有しているのだろうか。


特に,フォルケホイスコーレ等の自由成人教育では,教員の採用にあたっては資格や免許といった要件は制度上はないとされる。そのことは,多様なバックグラウンドを持つ人々が教員となれること意味するが,一方で他者への教育経験,またグルントヴィやフォルケホイスコーレ等に関する知識の乏しい人々も採用されうることも意味している。では,彼らはどのような知識,技能を学び,どのように力量形成をしていくのだろうか。以上のような問いに答えるため,本発表では,デンマークの成人教育全般における採用,研修力量形成の仕組みに関して明らかにすると共に,自由成人教育に関して焦点を当てていく。

<教育と社会>研究会 11月例会のご案内

〈教育と社会〉研究会の11月例会を下記の通り開催いたします。

【日時】2013年11月9日(土) 14:30~17:00

【場所】一橋大学国立西キャンパス 講義棟303教室

【報告者】江口怜さん(東京大学大学院教育学研究科博士課程・日本学術振興会特別研究員)

【報告タイトル】戦後教育史の中の夜間中学―1950年代の児童労働との関係を中心に

【コメンテーター】濱沖敢太郎さん(一橋大学大学院博士後期課程),未定

【報告要旨】

山田洋次監督の映画(1993 年)で広く知られることとなった戦後の夜間中学であるが、戦後教育史におけるその独自の位置は未だ十分に明らかになっていない。夜間中学は新学制移行後の中学校における不就学・長欠問題への対応の中で草の根的に生まれ、最大時(1954 年)には全国12 都府県の87 校で開設されていた(全国夜間中学校研究会調べ)。その後1970 年頃まで一貫して減少を続けるが、夜間中学廃止反対運動の盛り上がりの中で、その位置づけは「義務教育未修了者の権利保障」へと転換し、1970 年代からは韓国・中国からの引揚者、不登校児、就学猶予・免除された障害者、在日朝鮮人1 世の女性達など多様なマイノリティの学び場となり、1990 年代以降はニューカマーの生徒の増加が見られる。

本報告では、貧困や学校文化との断層の中で生じた不就学・長欠問題への対応の中から数多く夜間中学が開設された1950 年代に注目する。この時期の不就学・長欠問題は、教育・福祉・労働にまたがる問題として、また青少年問題の一つとして認識され、各種の対策がなされていた。中でも、労働行政の中で「街頭労働」「長欠就労児」「人身売買」は大きな課題とされ、昼間に家事や家業、雇用労働に携わる子どもの存在が、夜間に授業を行うことを要請した側面は大きかった。そこで、本報告では都市雑業、漁労、炭鉱労働、屑鉄拾い(バタヤ)、家事・子守等の多様な形をとった児童労働の実態と行政的対応を概観した上で、夜間中学に学んだ人びとの生活・生存の中で労働や学習が持った意味について、具体的な事例に即して検討したい。

<教育と社会>研究会 10月例会のご案内

〈教育と社会〉研究会の10 月例会を下記の通り開催いたします。今回の例会では,今年5 月に発刊された指定文献をもとに読書会を開催いたします。


【日時】2013 年10 月10 日(木) 13:30 ~ 16:00

【場所】一橋大学佐野書院

【指定文献】小玉重夫,2013,『学力幻想』ちくま新書。

【コメンテーター】

水野進さん(横浜創英大学)
吉原大貴さん(一橋大学大学院修士課程)

地位配分の機能と社会統合の機能とを担っていた日本のメリトクラシーが,1990 年代以降ゆらいでいるとされています。本書はこのゆらぎの先にいかなる〈教育〉が可能なのかということを正面から問うたものです。


筆者は,これまでの教育政策の中でこのゆらぎがいかに克服されようとしてきたのかをふまえた上で,「学力を市民化させる」方向性を積極的に提示しています。それは同時に,これまでの日本のメリトクラシーが陥ってきた「子ども中心主義」と「ポピュリズム」の二つの罠を抜け出すものでもあると筆者はいいます。


本書では米国のNCLB 法が孕んでいた二つのポリティクスの対立やその変化が記述される一方で,日本におけるカリキュラム・イノベーションの内容や方向性については必ずしも詳述されていません。それは読み手である私たちに委ねられた検討課題だとも言えるでしょう。


本例会では,1990 年代以降の教育政策や実践の動向をあらためて振り返った上で,日本の教育と社会はいかにメリトクラシーを組み込んだものになるのか,あるいは相対化したものになるのかということについて,会員のみなさまと議論を尽くしたいと考えております。


みなさまのご参加を心よりお待ちいたしております。

<教育と社会>研究会 7月例会のご案内

〈教育と社会〉研究会の7月例会を下記の通り開催致します。今例会では、本研究会会員である三浦綾希子さんにご報告頂きます。

【日時】2013年7月4日(木) 13:30~16:00

【場所】一橋大学 佐野書院

【報告者】三浦綾希子さん(一橋大学大学院博士後期課程)

【コメンテーター】

奴久妻駿介さん(一橋大学大学院博士後期課程)

藤浪海さん(一橋大学大学院修士課程)

【報告タイトル】「フィリピン系エスニック教会の教育的機能―世代内部の差異に注目して」

【報告要旨】

ニューカマーと呼ばれる新来外国人が増加してから20年以上が経過し、近年では、その定住化とそれに伴う第二世代の教育問題の多様化が指摘されている。この間、多くの研究者がこの問題に取り組み、貴重な知見が積み重ねられてきた。しかし同時に、これまでの研究は、ニューカマーの子どもが人間形成を行う際の主な準拠点を日本の学校に求めてきたきらいがあり、エスニックコミュニティなど学校外に展開する育ちの場に対する視点は相対的に弱かったと言える。子どもたちの人間形成の有り様を捉えるためには、学校だけに留まらない多様な育ちの場に目を向ける必要があるだろう。

本報告では、エスニックコミュニティの拠点として、フィリピン系ニューカマーが集うエスニック教会を取り上げ、その教育的機能を明らかにしたい。具体的には、教会の日曜学校とユースグループを、教会の教育的機能を担うものとして捉え、これら二つの育ちの場が参加者たちにとってどのような機能を果たすものなのかを検討する。その際、親世代、子世代間の差異と、子世代内部の差異に注目したい。フィリピン系ニューカマー第二世代の多くは、学齢期に来日した1.5世と日比国際結婚によって生まれた2.5世に分類されるが、かれらはその育ちの過程が大きく異なる。世代によって、教会の果たす機能がいかに異なるのか、もしくは異ならないのか、事例をもとに検討していきたい。

<教育と社会>研究会 6月例会のご案内

<教育と社会>研究会の6月例会を下記の通り開催いたします。今例会では、この春に一橋大学に着任された太田美幸会員に、これまでのご自身の研究を振り返りつつ、今後の展望についてご報告いただきます。

【日時】2013年6月6日(木) 13:30-16:00

【場所】一橋大学 佐野書院

【報告者】太田美幸さん(一橋大学大学院社会学研究科 准教授】

【報告タイトル】ノンフォーマル教育研究bの射程-教育における「フォーマル」とは何か?

【報告要旨】国民教育制度として整備された近代学校は、先進工業国においては19世紀後半から20世紀前半にかけて定着した。20世紀後半以降は、第二次大戦後に独立した旧植民地をはじめとする開発途上国で初等教育の完全普及が目指され、国際機関の強力な後押しを受けて現在も努力が続けられている。これらの文脈において語られる「教育」は、すべての子どもに学校教育を提供することとほぼ同義であり、教育研究の主たる関心もまた、制度化された近代学校にあるように思われる。

他方、制度化された近代学校とは異なる「教育」も、様々な形で存在する。画一的な学校教育へのアンチテーゼとして構想されたものや、社会運動の一部としておこなわれるもの、民族文化の継承のためのもの、余暇におこなう文化活動、職業訓練、初等教育の普及がなかなか進まない途上国において民間セクターやNGOが草の根的に実施してきた基礎教育や識字教育など、その目的や形態は多様である。

これらは総じてノンフォーマル教育と呼ばれるが、実践としてのノンフォーマル教育は多種多様で、それゆえにノンフォーマル教育の概念も文脈に応じて様々に定義されている。ノンフォーマル教育はフォーマル教育を補完するものだという見方がある一方で、フォーマル教育とは相容れない事例も少なくない。

本報告では、ノンフォーマル教育に関するこれまでの研究を概観したうえで、世界各地の多様な事例を比較検討しながらノンフォーマル教育概念を整理し、教育における「フォーマル」とは何か、「フォーマルでない」ことは教育にとっていかなる意味を持つのかを議論したい。

<教育と社会>研究会 3月例会のご案内

〈教育と社会〉研究会の3月例会を下記の通り開催致します。
今例会では、昨年秋に刊行された『新しい東アジアの近現代史』を手がかりに、教育学・教育実践の視点から歴史教育を考える会を開催します。

著者のお一人でもある報告者から、歴史教育の現状と本書のねらい・教育実践のあり方についてお話いただきます。
その上で、コメンテーターがそれぞれ教育学・教育実践、歴史学の視点から本書の書評を行います。

【日時】2013年3月24日(日) 13:30~16:00
【場所】一橋大学 第2講義棟・206番教室
【報告者】齋藤一晴さん(明治大学非常勤講師、日中韓3国共同歴史編纂委員会)
【コメンテーター】菅間正道さん(自由の森学園中学校・高等学校教諭(社会科)、教育科学研究会)
         井上直子さん(一橋大学大学院)
【指定文献】日中韓3国共同歴史編纂委員会『新しい東アジアの近現代史』上下(日本評論社、2012)

本例会では、歴史学・歴史教育に留めず教育学へ視野を広げることで、〈教育と社会〉の場のひとつとして本書を捉え、みなさまとともに議論を尽くしたいと考えています。
そして、歴史認識をめぐり日中韓の関係が動揺する昨今、教育・教育学からどのようにこの問題を受け止め取り組み得るか、「対話」と「学び合い」を進め・広げていくか、考える会にしたいと思います。

委員一同、みなさまとお会いできますことを楽しみにしております。


<教育と社会>研究会 12月例会のご案内

教育と社会〉研究会12月例会を下記の通り開催いたします。
今回の例会では、この秋出版された指定文献をもとに読書会を開催いたします。

  【日時】2012年12月6日(木) 13:30~16:00
  【場所】一橋大学 佐野書院
  【指定文献】加藤美帆,2012『不登校のポリティクス―社会統制と国家・学校・家族―』勁草書房
  【コメンテーター】白松大史さん(一橋大学大学院)
           樋口くみ子さん(一橋大学大学院、日本学術振興会特別研究員)
  【著者リプライ】加藤美帆さん(お茶の水女子大学学校教育研究部専任講師)

 

本書の主題について、筆者は以下のように記しています。

高校への進学率が1970年代には90%を超えたように、学歴の効用に対する意識はきわめて短期間のうちに、かつ広範に浸透することで日本の学歴社会は現出してきたといわれる。それをいわば裏側から照らし出すのが、欠席の歴史である。欠席者はいかに定義され、把握、処遇されてきたのか。これは戦後学歴社会のもうひとつの側面といえる。本書では、学校という場に人びとの意識と行動が収斂し、そしてそこから拡散していくプロセスを追うことから、戦後から今日にいたる社会の構造の一画を浮かび上がらせてみたい。(はしがきより)

 著者も本文において指摘しているように、「不登校」をめぐっては森田洋司氏や朝倉景樹氏の研究をはじめとした先行研究が数多く蓄積されてきました。そのような「不登校」に関する先行研究に依拠しながらも、公式統計をめぐる官公庁の認識のずれや葛藤、新聞報道に浮かび上がる不登校児童の家族像など、多様な資料を取り上げるところに本書の一つの特徴があると言えるでしょう。そのことによって、戦後国民国家と福祉国家の再編の中で、「不登校」という問題が いかに政治的な意味をはらんだものとして浮上してきたのかを著者は明らかにしています。

 本例会では、「不登校」問題から戦後日本の学歴社会を捉えるという本書の壮大な営みの意義について、会員のみなさまと議論を尽くしたいと考えております。

 みなさまお誘い合わせの上、奮ってご参加ください。

<教育と社会>研究会 11月例会のご案内

 〈教育と社会〉研究会11月例会を下記の通り開催いたします。
 今回の例会では、今夏発刊された関啓子氏の著作をもとに読書会を開催いたします。
 

  【日時】2012年11月8日(木) 13:30~16:00
  【場所】一橋大学西キャンパス職員集会所
  【指定文献】関啓子(2012)『コーカサスと中央アジアの人間形成――発達文化の比較教育研究』、明石書店
  【コメンテーター】木之下健一さん(一橋大学大学院社会学研究科)
           呉永鎬さん(一橋大学大学院社会学研究科、日本学術振興会特別研究員)

 本書はコーカサスと中央アジアに関する約10年に亘る著者の繊細な調査をもとに、それぞれの民族や地域の多様な人間形成のありようを、比較という手法を用いて明らかにする比較教育研究です。
 本書の大きな問題関心は、本書「はしがき」において、以下のように記されています。

  「旧ソ連圏の構成共和国の独立そして国づくりと、教育改革のありよう、いわば制度的人づくりとを明らかにすることに、まず取り組むが、関心は、制度との人々の向き合い方、自立の仕方とさせ方を読み取ることにある。そればかりでなく、大胆が過ぎるどころか、蛮勇だといわれかねない課題意識が、これら地域の研究を進める中で、研究者との意見交換などを介して、どんどん大きくなっていった。それは、近代教育パラダイムの超克は可能かというテーマである。これら地域の日常世界に、それの超克の兆しを感じられないだろうか。」(指定文献、p5)

 以上の関心の下、本書において詳らかにされている内容は、グローバル化する現代の教育と社会のこれからを考える裾野を拡げるのみならず、比較研究のあり方、発達文化(関1996)の掬いあげ方、さらに教育の社会史研究等、本書は〈教育と社会〉との関連を問うていくための方法論においても、様々な示唆に富んでいます。
 今回の例会では、それらを土台に、みなさまと有意義な議論の場をつくれればと思っております。

 みなさまお誘い合わせの上、奮ってご参加ください。

・参考文献
 関啓子(1996)「教育改革の思想史的研究の試み」『理想』No.658
 関啓子(1998)「比較発達社会史の冒険――ひとりだちをめぐるタタール人の葛藤の歴史」
  中内敏夫、関啓子、太田素子編『人間形成の全体史――比較発達社会史への道』、大月書店


<教育と社会>研究会 7月例会のご案内

 <教育と社会>研究会7月例会を下記の通り開催いたします。
 
 【日時】2012年7月14日(土) 14:00~16:30
 【場所】一橋大学西キャンパス第一講義棟206番教室

 今回の例会は今春発刊された指定文献をもとに合評会を開催いたします。

 【指定文献】園山大祐編著,2012,『学校選択のパラドクス―フランス学区制と教育の公正―』,勁草書房.
 【コメンテーター】二宮元さん(一橋大学大学院社会学研究科ジュニアフェロー)
          松永結香さん(一橋大学大学院社会学研究科修士課程2011年修了)
 【著者リプライ】小林純子さん(南山大学)


 今春、杉並区が学校選択制の見直しを発表しました。
 杉並区に限って考えたとしても、現行「学校希望制度」の廃止をもって学校選択制の廃止へ動いたと結論づけるのは性急だと思われますが、2000年前後に導入された制度が検証すべき時期に差し掛かっていることは間違いありません。

 本書は現代フランスにおける公立学校の学校選択制度を、私立学校との関係や就学実践と社会階層との結びつきの中に位置づけることで、その問題を明らかにしようと試みています。
  「本書の目的は,第1に2007年以降のサルコジ政権における学区制の廃止に向けた政策の問題点を明らかにすることである。・・(中略)・・第2に日本の学校選択研究に欠けている,階層の視点経年比較をもとにした社会学的統計分析,都市社会学あるいは地理学の視点も入れた研究を本書で取り上げることでフランス社会学の複眼的な視点を紹介したいと考える。(指定文献,pⅱ.)」
 本書の終章には日仏の学校選択制研究者の対談も掲載されています。
 著者たちが念頭に置いていたサルコジ政権は本書発刊後の今年5月に大統領選挙に敗北しており、このような政治の動向をいかに捉え、その上で日仏の制度と実態の異同から学ぶことがいかに可能なのでしょうか。
 今回の例会では以上の問題について、新自由主義と家族の教育戦略を研究テーマとされてきたコメンテーターのお二人に口火を切っていただき、会員のみなさまと議論をできればと思っています。

 みなさまお誘い合わせの上、ふるってご参加下さい。


・参考文献
   嶺井正也・中川登志男,2007,『学校選択と教育バウチャー』八月書店.
   嶺井正也,2010,『転換点にきた学校選択制』八月書店.
  著者の嶺井正也さんが指定文献の日仏研究者対談に登壇されています。
  二つの参考文献は日本の学校選択制に関する著作になっています。


<教育と社会>研究会 6月例会のご案内

<教育と社会>研究会6月例会を下記の通り開催いたします。

 日時:2012年6月9日(土) 13:30~16:00
 場所:一橋大学 職員集会所

 報告者:上田誠二 氏
  (東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程修了、
   現在立教大学・首都大学東京兼任講師、
   町田市教育委員会生涯学習部生涯学習センター嘱託職員(講師兼務))

 報告タイトル:戦後道徳教育の地域社会史 ―神奈川県中郡大磯町を事例として―

 1950~60年代という高度成長下における「道徳」教育が、いかに地域社会の公共性を創出しようとしていたかについて、観光地として当時名を馳せていた神奈川県中郡大磯町の事例から検討する。
 戦後「道徳」教育をめぐる研究は、そこから“政治の論理”を読み解き、上からの教育統制に対抗しようとする潮流と、そうした政治からは距離を置き、各時期の「道徳」論に“教育の論理”を見出そうとする潮流とに大別できる。
 この二つの研究潮流のうち筆者は前者の立場に立つが、報告では上からの統制に対抗する戦略として“政治の論理”を読み解くのではなく、戦後「道徳」教育がどう地域で読みかえられ、それがどう地域社会の自己革新=公共性構築に貢献しようとしていたかという、いわば“地域の論理”の解明を試みたい。
 先行研究に引きつけて言えば、山住正己氏が明らかにしたように1950~60年代の教育は“政治の論理”(=55年体制下の教育統制)に強くさらされていたのだが、そうした政治に対して地域社会はどう自律性を担保し得たのか、そこで展開された地域社会に固有な“教育の論理”はいかなるものだったのか、この問題の解明が主眼となる。
 報告では、高度成長下における大磯地区の社会構造の変化と子どもたちの性格変化との連関に注目し、そうした状況への処方箋として道徳教育が構想されていたことを示したい。
 さらに、そうした教育構想自体が実は戦間期(=1930年代=日本型大衆消費社会の出発点)に端を発していることの教育学的意味を、参加者のみなさまに考えていただければと思う。

 コメンテーター
  菊地愛美 氏(一橋大学大学院博士後期課程)

 指定参考文献等
  上田誠二,「戦後道徳教育の地域社会史 一九五〇-六〇年代の神奈川県中郡大磯町を事例として」,田崎宣義編
   『近代日本の都市と農村 激動の一九一〇-五〇年代』,青弓社,2012.
  山住正己,『日本教育小史 近・現代』,岩波書店,1987.