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博士論文要旨

論文題目:THE ROLE OF LANGUAGE IN MANGA: FROM THE POINT OF VIEW OF STRUCTURE, VOCABULARY AND CHARACTERS
著者:ウンサーシュッツ ジャンカーラ (UNSER-SCHUTZ, Giancarla)
博士号取得年月日:2013年6月28日

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1.論文の題名
The Role of Language in Manga: From the Point of View of Structure, Vocabulary and Characters
マンガにおける言語の役割―構造・語彙・登場人物という三つの観点から

2.目次
データ例一覧 v
オリジナル漫画資料一覧 v
グラフ一覧 vii
表一覧 vii
英文要旨 1
1. マンガの言語学的分析:序論 2
1.1 本章の概要 2
1.1.1 日本の生活におけるマンガ 2
1.1.2 ことばとマンガ 5
1.1.3 マンガのコーパスを作成するとは 8
1.2 コーパスの設計とデータ収集 11
1.2.1 マンガのコーパス構築の問題点 11
1.2.2 サンプリング 12
1.2.3 コーパスの構造 15
1.3 本コーパスの内容 21
1.3.1 データの概要 21
1.3.2 コーパスの活用法と特徴 22
1.3.3 特殊な問題点 24
1.4 本章のまとめ 28
2. マンガの言語の構造的特徴 31
2.1 本章の概要 31
2.1.1 概要 31
2.1.2 コミックやマンガにおける文字情報について 33
2.2 データ解析各論 40
2.2.1 文字情報の分類とその分布 40
2.2.2 文字情報とジャンル 44
2.2.3 手書きの台詞・考え事・コメント等の定義 44
2.3 「背景・台詞/考え事」と「コメント」の分析 50
2.3.1 「背景・台詞/考え事」、「コメント」とジャンルの関係 50
2.3.2 「背景・台詞/考え事」と「コメント」の役割 54
2.3.3 異なる文字情報活用の必要性 56
2.4 まとめ 61
3. マンガの表記上・語彙上の特徴 63
3.1 本章の概要 63
3.2 マンガにおける表記法-文字の分類と振り仮名の研究 65
3.2.1 表記と言語研究 65
3.2.2 日本語の表記法 66
3.2.3 分析1‐1-使用されている文字の分布―方法 70
3.2.4 分析1‐1-使用されている文字の分布―結果 71
3.2.5 分析1‐2-振り仮名の活用―方法 83
3.2.6 分析1‐2-振り仮名の活用―結果 85
3.2.7 表記上の特徴からみる「話しことば」としてのマンガ 86
3.3 分析2-リーダビリティとマンガの読解力 90
3.3.1 リーダビリティとマンガ 90
3.3.2 方法 92
3.3.3 結果 93
3.3.4 観察 95
3.4 分析3-マンガの形態素解析 98
3.4.1 日本語と形態素解析 98
3.4.2 方法 102
3.4.3 結果 106
3.4.4 観察 119
3.5 まとめ 122
4. 言葉遣いと登場人物 123
4.1 本章の概要 123
4.1.1 日本語における性差 124
4.1.2 女性語・男性語とマンガ 126
4.2 分析1―「台詞」の分布と登場人物の性 131
4.2.1 方法 131
4.2.2 結果 132
4.2.3 登場人物の種類と分布と言葉遣い 136
4.3 分析2-「台詞」における人称代名詞の分布 138
4.3.1 方法 138
4.3.2 結果 141
4.4 分析3-「台詞」における文末表現の分布 145
4.4.1 方法 149
4.4.2 結果 156
4.5 観察 156
4.5.1 ジャンルによって異なる登場人物の言葉遣い 157
4.5.2 原因:マンガ家の影響・役割における差・登場人物の距離の関係
161
4.5.3 男性的人称代名詞と女子 163
4.6 まとめ 165
5. 結論 165
5.1 本章の概要 165
5.1.1 ジャンルとマンガとことば 167
5.1.2 今後の課題 168
5.2 教育とマンガ 169
5.2.1 学習のためのマンガ活用法および利点 169
5.2.2 コーパスで明らかになった問題 172
5.2.3 教室でマンガを活用する可能性 173
5.3 最後に 175
6. 付録 176
6.1 コーパスのデータ例 176
6.2 用語解説 188
6.3 本論文に至る研究 192
7. 用語解説 194
8. 参考文献 194
3.問題意識の概要と論文の研究テーマ
文化庁による「国語に関する世論調査」 (2010)によれば、「マンガが若者の言語に影響を与えている」との意見が45%に上っているとのことである。このように、絵と言葉からなるマンガは言語的メディアの一種と認識されているにもかかわらず、従来の研究においては専ら視覚的要素が重視されてきた。こうした背景に鑑み、本稿ではマンガの言語的コーパス(=言語研究のために蓄積された大規模電子データ)を構築し、その活用によってマンガの言語的特徴を明らかにしながら、それが社会とどのようなつながりを持つのか、その観察に取り組んだ。第1章ではマンガにおける文字情報の構造的・文体的特徴を明らかにした上で、そうした特徴と社会におけるさまざまな言語行動(スタイル選択、言語切り替えなど)の関係の解明を目指した。また、本研究の基盤となる独自のコーパスを紹介し、データの全体像を明らかにした。
第2章からは、構築されたコーパスデータを用い、具体的な分析に入った。第2章では、マンガにおける言葉の構造上の特徴を観察し、ジャンル間の分布における差を分析することを通して、文字情報の種類の重要性を論じた。第3章では、分析を語彙レベルに深め、表記上の特徴を視野に入れながら、語彙の頻度リストを作成・分析している。関連研究として、マンガのリーダビリティ、つまり読みやすさも検討した。第4章では、具体的な例としてジェンダーに関わる表現に焦点を絞り、登場人物と言葉遣いの関係を考察した。このように3つの視点から行なった分析を通して、マンガが言語的にどのような文体を成し、どのようなイメージを持たれているのかを考察した。
各章をつなぐテーマとして、言語がジャンルを見分ける要素になる可能性についても論じている。マンガにおけるジャンルは元々掲載雑誌が想定する読者の性別・年齢で区別され、その中でとくに「男性の読むもの」と「女性の読むもの」というように区分されてきた。しかしながら、近年においては、そういった性別の区分を超える読者パターンが増え、読者層の性別によるジャンルが機能しなくなっている(伊藤2005)。英語のコーパス研究では、あるテキストで見られる語彙や文法上の構造が、そのテキストのジャンルを考える際に有効な要素だと示されているが(Biber (1993);Henry & Roseberry (2001)等)、マンガ研究においても、言語的な特徴が、ジャンルを考える際に役に立つ情報だと論じた。
以下では、論文の具体的な章立てを述べる。

4.論文の構成
第1章 マンガの言語学的分析:序論
第1章では、マンガの言語的特徴を観察・分析した先行研究について詳述し、マンガが言語的メディアとしてどのように認識されてきたのかを明らかにした。先行研究が多少あるとは言え、逸話を用いながら印象的にマンガを語るものが多く、まだ明らかでないことが多いことを論じた。そこで、マンガの言語的特徴を量的に分析するためにコーパス的アプローチが有効であることをまず論じ、次にマンガという特殊な言語的メディアのコーパスを作成する際の留意点を述べた。そうした上で、10作品(少女マンガ・少年マンガ5作品ずつ・第1~第3巻のみ)からなる自らのコーパスの概要を述べた。なお、本研究の基盤となっているコーパスは、筆者が修士論文で始めたプロジェクトの延長であるが、対象作品を増やした上で、更に発話者の性別や名前といったタグを付加し、また、吹き出しに配置されている言葉の形態素解析も実施し、より細密かつ量的な研究に適するように発展させたものである。
作品の選択に際しては、影響力のある人気の高いもののうち、売上ランキングおよび筆者が高校生に対して行ったマンガ読書調査の結果を参考にした。本コーパスの特徴として、マンガにおける文字情報をすべて視覚的環境によって分類しタグ付けしたことが挙げられる。マンガの視覚的枠組みなどを考慮に入れて、全部で8枠(「台詞」・「考え事」・「ナレーション」・「オノマトペ」・「背景テキスト」・「背景・台詞/考え事」・「コメント」・「タイトル」)を設定した。例えば、「台詞」は、吹出し内のものであるのに対し、「考え事」は四角形の枠内のものである。データ量は計688,342字および55,480エントリー(=吹き出し等で見る一つの文字列)となった。1ページに対する文字数等といった基本的な統計を示してから、マンガ研究に限らず、コーパスを活用することで、どのような言語学的研究が可能になるかを考察した。

第2章 マンガの言語の構造的な特徴
第2章では、マンガの言葉を探究する切り口として、その構造について視点から観察した。小説や論文では、文は一線に沿って進むが、マンガにおいては、文は役割(=「ナレーション」、「台詞」等)によって異なる環境に置かれ、体系的に区別されている。マンガの言葉は他に比べて空間的依存度が大きいと言え、それこそが言語と視覚的要素の交わる点と考えられる。本章では、採用した分類法の意義を念頭に置きながら、実際の分類ごとの分布を観察した。マンガの言語的情報の量的側面について、1ページにおける文字数・エントリー数(エントリー=吹き出し等で見る一つの文字列)、各分類の平均的な分布等を観察し、「少女マンガ」・「少年マンガ」というジャンル間の差を検証した。Schodt (1996)等の期待に反し、「考え事」に関してはジャンル上の明確な差を示していない。ところが、「背景・台詞/考え事」および「コメント」は共にほとんどん少女マンガにのみ現れており、文字情報の現れ方にはジャンル間で差があることを明らかになった。
これらの差を理解するために、大塚 (1994)のいう、1980年代の少女マンガで見る「内面的な言葉」との共通点を観察しながら、最終的に、「背景・台詞/考え事」と「コメント」の効果として、二つの可能性を論じる。第一は、多様な読み方の提供に関わることである。吹き出しの外に現れるということは、読者に対する「とばしても良い」というサインと考えてよいのではないか。また、手書きスタイルであることも、背景の活字による「考え事」との区別を明確にしているかも知れない。第二は、作品の世界に入り込みたい読者にとっては、登場人物の新しい側面を表すことのある「背景・台詞/考え事」と「コメント」が重要な情報となり、逆に、より「深い」読み方をしたい読者にとっては、吹き出しの外にあることが「ぜひ読んで」というサインになるかもしれない。難波 (2001)が論じたように、作者と読者による「想像の共同体」が少女マンガ雑誌の特徴の一つと言えるが、「作者」の声に近い「コメント」は、その意味でも重要な要素ではないだろうか。このように、ジャンルを理解することの他にも、吹き出しに現れる「台詞」や「考え事」と、主に視覚的環境によって区別できる「背景・台詞/考え事」と「コメント」を観察することは、文字情報の視覚的環境と言葉の関係を理解するのにも役に立つと主張した。

第3章 マンガの表記上・語彙上の特徴
第2章では、構造的な特徴に焦点を絞ったが、本章では、マンガにおける言葉そのものに分析を深めた。マンガが実際にどのような言語的資料であるのかを把握するために、【1】マンガの表記上の特徴、【2】マンガのリーダビリティ、【3】マンガの語彙的特徴の3点に問題を絞って分析を行なった。形態素解析ソフトによる日本語コーパスデータ処理は近年盛んになっているが、マンガは「非標準」的な表記法も多いため、記載辞書に依存する形態素解析ソフトの適用には不向きと思われる。記号の用法が大きく異なり、他の書き言葉ではまれな記号が頻繁に用いられたり、逆に他の書き言葉では頻繁に用いられる記号がまれにしか見られないこともある。また、漢字と仮名の選択も比較的自由である。こういった表記法は佐竹 (1980)の「新言文一致」に近く、近年の携帯小説にも似たような傾向が見られる (Coates, 2010)。
【1】では、マンガの表記上の特徴を明確にし、各文字種類の分布を明らかにした後、非標準的な振り仮名の活用を観察した。分析の結果として、次のことが挙げられる。(1)文字情報の20.94%を記号が占めており、他の書き言葉に比してやや高いようである。中でも、感嘆符「!」や空白「 」が多いが、その代わりに小説等でよく見かける句点「。」、読点「、」が少ない。(2)秋月 (2009)が挙げた独特の仮名表記(平仮名や漢字使用における傍線、通常の促音ではない「っ」)も確認された。最後に、(3)漢字の使用率はやや低く、その殆どは小学校で学習するものであるが、常用漢字に含まれていない漢字も見られる。常用外の漢字の使用率は、少年マンガの方がやや高く、各シリーズのテーマにかかわることばが多かった。
関連する問題として、特殊な振り仮名活用も観察した。サンプルの10作品中、1作品以外のすべてで全漢字にルビ(振り仮名)が付いている。ほとんどのルビは漢字の通常の読み(=一般的なパソコン入力の際の変換可能な読みを基準として)であるが、それとは異なる読みを付しているものも多い。本項では、そういった通常の読みに拠らない振り仮名を、「強調」、「当て字」、「伏せ字」、「発音」、「説明的」という5つの枠に分類し、少女マンガと少年マンガにおける分布を明らかにした。どのジャンルでも、非標準的な振り仮名は稀であるが、少年マンガにおいてはその使用率がやや高く、少年マンガの特徴となっているようである。
【2】では、マンガ・リテラシーに注目しながら、マンガを読む際に必要とされる読解力を考察するために、Sato, Matsuyoshi & Kondoh (2008)とReadability Research Laboratory (2010)が作成した二つのリーダビリティ検定を用い、マンガにおける「台詞」の読みやすさを検討した。とくに日本語のリーダビリティは漢字の使用率と深い関係があるため、漢字の使用率が高く、表記外の漢字が比較的多い少年マンガの方が、やや読みにくいと思われる。検証の結果、両ジャンルとも読みやすいとの結果であったが、少女マンガと少年マンガでは有意な差が見られ、上記の仮説が確認された。
【3】では、形態素解析で「台詞」を対象に単語の頻度リストを作成し分析した結果を示した。最初に、形態素解析適用の是非を考察した上で、形態素解析を行う前に、データをどう処理すればよいのかを検討した。1で明らかになった表記上の特徴は、標準的な表記に沿ってテキストを語彙に分けていく形態素解析ソフトの機能を妨害することがあるため、上記の分析結果を活かしながら、基本的な意味を変えない記号を取り除いたり、標準的なものに変換するなど、データの標準化を行った。
形態素解析では、計260,906語が得られた。語種と品詞の分布を観察したところ、感動詞、和語が多く、動詞が少ないという点では話し言葉に類似している。また、主な品詞に対して上10順位のリストを作成した。とくに名詞に関しては、少女マンガでは、対人関係を示すと思われる名前や人称代名詞が多いのに比し、少年マンガでは物語のテーマと関連する単語が多かった。

第4章 言葉遣いと登場人物
第4章では、第3章の形態素解析の結果を活かすべく、発話者の性別に注目し、社会的属性との関係から分析を行った。日本語の特徴の一つとして、言語スタイルの性差がよく言われるが、近年は若い女性がより中性的・男性的な言葉遣いをすることが増えているようである(Phillips 2001、尾崎1999等)。遠藤(2001)のアンケート等から分かるように、その傾向が強まった原因の一つとしてマンガが挙げられることが多いが、実証的研究はこれまで行なわれておらず、マンガに見られる言葉遣いが実際にどのようなものなのかは不明であった。本章では【1】男女の台詞の割合を観察した上で、【2】人称代名詞と、【3】文末表現の男女別割合を量的に確認した。分析の際には、とくに金水敏の言う「役割語」、(男女などのステレオタイプに応じた語彙・語法)を参考にし、登場人物の言葉遣いと関連しているという結論を得た。
【1】では、男女の全体的な割合を観察してから、登場人物別の台詞量を見た。少年マンガでは男性による「台詞」が平均して字数の80%を超えるが、少女マンガでは男女の台詞割合はより均等になり、女性によるものは57%程度である。また、少女マンガに比し、少年マンガでは登場人物が多いが、その大半は「エキストラ」と言っても良い程度である。金水(2003)によると、こうした周辺的な登場人物は、主人公やその他の中心的登場人物より役割語を用いる可能性が高いが、上述の結果からすると、少年マンガの方が役割語を頻繁に活用する、という仮説が成り立つ。
その仮説を検証するために、【2】人称代名詞の分布と、【3】文末表現の活用について分析を進めた。マンガの影響により、女性の間で男性用の一人称(「おれ」、「ぼく」)の使用が広がっているとされているが(遠藤2001、中村桃子2007)、実証的に示されているわけではない。また、文末表現に関しては、上野(2006)や相澤(2003)で、少女マンガにおける文末表現の用法が観察されているが、その結果、近年の作品に見る女性による文末表現の用法は比較的現実に近いことが分かった。しかし、少年マンガの用法は未だに触れられていないようである。こういったことを受け、(1)「女性がマンガの影響で男性語を多用するようになった」という一般的言説が果たして正しいのか、また、(2)ジャンルによって人称代名詞と文末表現の用法が異なるのか、という二点に焦点を絞ることにした。
【2】の結果、マンガにおける人称代名詞の使用は寧ろ保守的と言えることが明らかになった。男性の一人称(「ぼく」、「おれ」)を使う女性登場人物は一人しか見られず、その登場人物も非常に男性的なキャラクターであった。女性登場人物による男性の二人称(「おまえ」、「てめえ」)もまれであった。「おかま」的な登場人物を除き、男性登場人物も男性に限定された人称代名詞を活用している。
ところが、文末表現ではこれとは異なる様相が見られた【3】。両ジャンルでは、女性の登場人物は先行研究で中性的とされている文末詞(形容詞や動詞に付く「ね」など)と、やや男性的と見なされているもの(コピュラの「だ」など)を使用している。しかし、少女マンガでは女性的とされている文末表現(「わ」や「かしら」)はまれであるのに対し、少年マンガでは女性の登場人物は女性的文末表現を頻繁に使用している。また、男性登場人物は、両ジャンルで一見類似しており、順番通りに中性的・やや男性的・非常に男性的な文末用表現を用いているが、少年マンガでは中性的なものがやや少なく、男性的なものが実際の話し言葉で見る割合より多く使用されている。
このように、文末表現の用法に限って言えば、少女マンガの登場人物の方がより現実を反映した言葉遣いであるのに対し、少年マンガではとくに女性の登場人物にステレオタイプ的な女性語の使用が目立つことが分かった。これについては、マンガ家自身の言葉遣いの影響の他に、女性登場人物の物語上の差を原因として挙げ、周辺性と登場人物の関係に触れた。また、文末表現も人称代名詞も共に役割語になりやすいとされているが、コーパスで見る限り、人称代名詞については、文末表現ほど変わりやすくはない可能性が示された。

第5章 結論
第5章では、第2~4章の観察により得た知見を実際に活かす方法を探るため、結論の一部として、マンガを語学教材として活用する可能性について論じた。近年においては、海外における人気を受け、マンガを日本語学習の教材として活用する方向を探る研究が多く出ている(熊野・廣利2008、因2005、村上2008)。しかしながら、マンガの言語的特徴を取り扱う先行研究は今まで少なかったため、そのほとんどが絵による視覚的文脈理解の効果をアピールすることで終わっている。本章では、マンガのコーパスによって得られたデータを活用する方法をアピールするためにも、マンガを外国語教材として使用する場合、どういった点に留意する必要があるのかを検討した。とくに、表記上の問題と、登場人物の言葉遣いや役割語について触れ、第3章の結果を活かし、マンガの視覚的文脈と絵の関係を検討した。マンガの言語的状況が考えられている以上に複雑であることを明らかにしながら、コーパスで確認できた特徴を考慮することで、マンガを言語的な資料として活用する可能性を観察した。

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