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博士論文審査要旨

論文題目:戦後日本における薬剤師職能の変容―医薬分業の発達史の観点から―
著者:赤木 佳寿子 (AKAGI, Kazuko)
論文審査委員:猪飼 周平、石居 人也、白瀬 由美香、宮本 法子

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1. 本論文の概要
 本論文は、従来医師—薬剤師間の権力関係に着目して説明される傾向にあった医薬分業の発達史に対して、それが薬剤師職能の歴史的変容と密接に関連しているという洞察を基に、新しい説明を与えようとした労作である。

2. 本論文の成果と問題点
 日本における医薬分業は、明治期以来医師と薬剤師の間の政治的闘争の一貫した焦点であると広くみなされてきた。このため、医薬分業も闘争史として描かれることが通例であった。ただ、このような歴史によっては、そもそもなぜ1980年代以降医薬分業が進展したのか、なぜ1990年代に医薬分業の進展が加速したのか、そしてそのような歴史の結果として日本の薬剤師はどのような現在地点に立っているのか、といった一連の問いに答えることはできなかった。
 これに対して本論文では、薬業の歴史を薬剤師職能の歴史的変容と結びつけて説明することによって、上記の一連の問いに一定の答えを与えることに成功している。
 本論文の成功の最大の要因は、医薬分業に、医師と薬剤師が経営的に独立するという意味での分業=「経営的分業」と、医師が処方し薬剤師が調剤するという意味での分業=「機能的分業」という2つの区別されるべき内容が含まれているということを発見したことであろう。特に後者が、薬剤師職能の歴史的変容に応じてそのあり方を変えてきたことを示すことを通じて、本論文は、医薬分業史と薬剤師職能の歴史的変容を密接に関連付けることができたといえる。
 他方で、本論文にはいまだ解決が必要な課題が残されていることも指摘しなければならない。①歴史的叙述に関して時期区分に混乱がみられたり、叙述が平板な部分が散見されたりする点、②2000年代以降医薬分業率の変化が小さくなることの説明が十分に与えられていない点、③政策学的に最も重要であることから、本論文からもその解明が期待されていたpharmaceutical careの今日的意義が未だ十分に論じきられていない点は、本論文にまだ改良すべき点があることを示している。
 とはいえ、これらの課題の存在によって、論文の価値が本質的に損なわれることはなく、また筆者自身これらの課題についてはよく自覚しているところであり、今後の研究の進展の過程で、克服されることが十分に期待できる。

最終試験の結果の要旨

2016年2月10日

2016年1月15日、学位請求論文提出者・赤木佳寿子氏の論文について、最終試験を行った。本試験において、審査委員が、提出論文「戦後日本における薬剤師職能の変容——医薬分業の発達史の観点から」に関する疑問点について逐一説明を求めたのに対し、氏はいずれも十分な説明を与えた。
 よって、審査委員一同は、赤木佳寿子氏が一橋大学博士(社会学)の学位を授与されるに必要な研究業績および学力を有するものと認定した。

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