本サイト 一橋大学機関リポジトリ(HERMES-IR)

第4号

 津崎 克彦、倉田 良樹、荒井 一博 Katsuhiko Tsuzaki, Yoshiki Kurata, Kazuhiro Arai
平成不況期の人的資源管理改革による従業員意識の個人化 ——市場化する雇用関係——
Individualization of Workers' Perspective on Work Generated by the Corporate HRM Reform during the Heisei Recession : Emergence of Market-Oriented Employment Relations
2008年06月 発行

[ 要旨 ]

 本論文は、「一九九○年以降に日本企業で行われた人的資源管理の改革や組織の変化が、労働者の意識に対してどのような影響を与えたのか」という問題を明らかにする。その際、特に正社員として企業に勤める従業員を分析対象とし、組織と個人との関係性に注目する。われわれは、二○○五年に行ったアンケートの調査結果(三三歳以上の正規雇用者一九一一名)を分析することによって、次のような結論を得た。すなわち、一九九○年代に行われた人事労務管理と組織の変化は、多くの場合に、人件費抑制目的でなされた評価制度の変更、身近な人の解雇を含む人材の流動化、職場における協力的慣行の減退、昇進や昇給に対する個人業績の反映などの形で従業員に経験された。こうした経験は、従業員に対して、意識の「個人化」と呼びうる傾向、すなわち、一方では「会社に対する不信感」、他方では「さまざまな手段を通して自分自身の雇用を守ろうとする意識」を生み出した。この傾向は、短期的で個人的な関係を軸にした雇用関係を進展させるものとして捉えることができ、結果として、信頼・自己規制・組織忠誠心等からなる「組織的価値」の減退をもたらし、組織の効率性に負の影響を与えることが危惧される。同時にわれわれは、企業がそのパフォーマンス向上を目指しつつも、従業員雇用の安定を図り、評価制度における絶対評価や協力的行動に対する評価を行い、オープン性を確保することで、組織のメンバーからある程度の長期的なコミットメントと相互協力を実現できるのではないかという示唆も分析結果から得ることができた。