社会学部ゼミナール

履修にあたって(解説)

社会学部は、後期課程(3・4年次)カリキュラムの必修科目として、後期ゼミナールを設けています。ゼミナール(演習ともいいます――以下では「ゼミ」と略記)は教員と少人数の学生からなる学びの場です。学生は、ゼミ担当教員の指導のもとで学習と議論と協働作業を積み重ね、多面的な力を養いながら、ひとりひとりの学習・研究の成果として学士論文(卒業論文)の完成を目指します。

ゼミはもちろん授業のひとつです。けれども、学生の皆さんにとっても教員にとっても、他の授業とは異なる特別な位置を占めています。履修の際に教員による選考が行われる点でも他の授業と違いますが、何よりましてゼミはその内容・活動が多種多彩、それぞれに個性的で、目指すところも求めるところもひとつひとつ違います。どのゼミで何をどのように学ぶかは、皆さんの大学生活の後半2年間に大きな影響を与えます。

ですから、3年次からのゼミに臨むにあたって、事前に情報を集め、検討し、十分な準備をしてください。このサイトや、オフィス・アワー、オープン・ゼミなどをフルに活用してください。このページでは、ゼミの趣旨や理念、履修上の規則等を説明します。

1.一橋大学の伝統

ゼミは一橋大学で100年以上にわたって大切にされ、育まれてきた、学びの場です。旧制大学(東京商科大学)時代には、全学生が3年間のゼミ履修を義務づけられ、1年目には外国語文献・古典文献の講読、2・3年目には卒業論文に向けた個別研究の成果発表と検討を、週に4時間ずつ行なっていたそうです。その後現在に至るまで制度は少しずつ姿を変えてきていますが、ゼミとその精神は一貫して教育の中核にあり続けています。

2.単なる授業ではない

ゼミは、単にカリキュラム内・時間割内におかれた少人数授業というだけのものではありません。学習・研究に対する2年間の真剣なとりくみを通じて、教員と学生、そして学生相互が、「全人格的交流」を進める場――それがゼミです。

実際、ゼミでの学びは熱心で、さまざまな資料・文献を検討し、議論を交わし、いつの間にか規定の授業時間を超過することもしばしばです。質問や批判の矢面に立って自分に悔しい思いをすることも少なくなく、学生は毎週時間をかけて用意し、ゼミに臨みます。時間割の枠外でもたびたび、読書会・検討会が開かれ、研究作業・準備作業が共同でなされます。ゼミの終了後に食事に繰り出すことも多いでしょう。ゼミでスポーツ大会に参加したり合宿や旅行をしたりすることもあります。そうした活動を通じて共通の経験を重ねた学生同士は、卒業後も親しい交流を長く続けているようです。そして、ゼミの教員は単に授業担当者であるだけでなく、学生ひとりひとりの学習・研究の指導教員、担任の先生でもあり、さらには相談相手にもなります。

このため、ゼミは履修するというよりも、「所属する」という色彩が強いものです。実際のところ、履修上も他の大部分の授業のように半年単位ではなく、通常は2年間同じゼミを履修することになります。履修者同士、日頃から緊密に情報を交換し、行動をともにすることも多いでしょう。大学から学生への情報伝達(教学、行事、就職、等々に関わる)にも、ゼミ単位もしくはゼミ経由でなされるものが少なくありません

3.多面的な力、主体的な学び

ゼミは多面的な力を開発し、身につける場です。学生ひとりひとりが、自分自身の力で問題をとらえ、課題設定し、概念(コンセプト)を作り、資料やデータを集め、分析し、考察し、成果を提示することを求められ、また、ゼミでの学びを通してこれらに関わる知的創造の力を身につけていきます。それはまた、プレゼンテーション、議論、テクニカル・ライティング、協働作業、企画・構想・提案、といった形での、社会的実践におけるコミュニケーションとコラボレーションの能力の開発と修得の営みでもあります。

そして何より、ゼミは学生が主体的に学ぶ場です。どのゼミでもそのことが重視され、個々の教員はそのために工夫し、教育の仕組みを作り上げています。学生が自ら、そして互いに学び、開発する場、それがゼミなのです。そしてそうした学びの成果は、学生同士の協働作業や批判検討を踏まえ、また教員の指導を受けながら、学士論文(卒業論文)にまとめられていくことになります。

4.多種多彩

社会学部が用意している授業科目も、また社会学部の教員が専門としている研究分野も、多岐にわたっています。そうした教員の数だけゼミがあり、それぞれに工夫を重ねて個性的にゼミを営んでいますから、ゼミの主要研究分野や研究課題・対象のみならず、学習・研究の手法、運営方法、教育理念、等々にわたって、ゼミの中身とメニューは多種多彩です。

たとえば、社会のさまざまな問題を見据えて、あるいは社会との関わりを意識して、協働して調査やフィールドワークを実施するゼミがあります。海外調査に出かけていくところもあります。調査研究に映像メディアをフル活用し、映像コンテンツの作成をゼミの活動に積極的に位置づけているゼミがあります。心理学的実験や情報処理の実習を着実に積み重ねていくゼミがあります。社会への実効的な提言をめざすゼミがあります。大学院生を含む多様な参加者とともに、史資料を読解し、議論しあうゼミがあります。コンピュータ・ネットワークを活用して調査研究を進め、全員の卒業論文を電子テキスト化して公開しているゼミがあります。大学院での学習・研究も見据えて、知の技法の基礎トレーニングと修得に重きをおくゼミがあります。もちろん、教員を中心に古典や最新の研究書を読み解きながら思考を鍛えるオーソドックスなゼミがあります。

教員の専門分野や担当科目からだけでは、想像できないような内容のゼミが行われているかもしれません。思わぬところで思わぬ学びができることも少なくありません。自分がゼミで何をどのように学びたいかよく考えておくとともに、ゼミの実際の内容について十分に情報収集しておいてください。

5.卒業論文

2年先のことではありますけれど、頭のどこかで、しかし卒業までの間しっかりと考え続けておいてほしいのが卒業論文です。卒業論文は、ゼミでの主体的な学びの、そして4年間の学習・研究の総決算です。教員は学生の希望・自発性に柔軟に対応していますし、またこれまで社会学部に提出された卒業論文のテーマは、教員の研究テーマ以上に――時には大きくはみだすほどに――多岐にわたっています。けれども、提出された卒業論文は多くがゼミでの学習・研究と密接に関連していますし、卒業論文は本来そのようなものとして位置づけられています。ゼミでの経験や教員というリソースを最大限に有効活用するという点でも、そうあってほしいものです。これまでに提出された卒業論文のテーマについては各ゼミの紹介ページで参照できますので、これらもまたゼミ選択の材料にしてください。

なお、社会学部の学生は、他の学部とは異なり、全員が卒業論文を特定の提出日に社会学部の統一窓口に提出することになります。多種多彩なゼミもその点で出口はひとつです(後述する「後期共通ゼミ」を履修した学生についても同様です)。卒業論文は短い文書ではありませんし、もちろんのこと学位修得にふさわしい水準の内容が求められます。論文を期日に確実に提出できるよう、意欲と思考と、計画的な学習・研究の積み重ねが必要であることを今から心しておいてください。

6.主ゼミと副ゼミ

複数の専門分野でゼミを経験してみたくなるかもしれません。また、学習・研究を進めるうちに他の専門分野に興味をもったり、他の専門分野が必要になったりするかもしれません。そうした場合、「副ゼミ(サブゼミ)」の履修を考えてみてください。

必修科目として履修するゼミは「主ゼミ」と呼ばれます。これに対して、主ゼミとは別に、これに加えて任意に履修するゼミを「副ゼミ」といいます。副ゼミとして履修するゼミは、社会学部のゼミだけでなく、他の学部からも選ぶことができます。複数のゼミの履修には、幅広い視野と知識を得られる、学習・研究上のいっそうの刺激を得られる、学部をこえた知的交流が得られる、等々の利点がありますし、分野によっては副ゼミの履修を奨励しているところもあります。ただし、ゼミでの学習・研究には、準備等を含めて、相当の時間とエネルギーが必要です。副ゼミ履修の際にはこの点を考慮しておいてください。

なお、副ゼミ履修の修得単位の扱いについては、社会学部のゼミを副ゼミ履修した場合には学部教育科目に算入され、他学部のゼミを副ゼミ履修した場合は教養教育科目に算入されます。

また、「後期共通ゼミ」といって、全学部のすべての学生が主ゼミとして履修できるゼミが開講されています。後期共通ゼミの担当教員は、社会学部教員に限られません。後期共通ゼミを主ゼミとして履修した場合には、その単位は教養教育科目に算入されます。そのため、学部教育科目の修得要件(68単位)を満たすためには、このうち通常は主ゼミで修得する単位(8単位)を、社会学部の別の学部教育科目から修得しなければならないので注意が必要です。